境界知能〜子どもたちの生きづらさ〜

境界知能

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はじめに

ケーキの切れない非行少年たち」を読み、とてもショックを受けました。罪を犯した少年たちの中には、罪を反省する以前に認知機能が弱く、ケーキを等分に切ることすらできない知的なハンディを抱えている少年たちが少なくないということを知りました。今回は、「境界知能」に注目して、「子どもたちの生きづらさ」について考えていきたいと思います。

境界知能とは

一般的にIQが70未満で社会的にも障害があれば知的障害と診断されます。この基準は1970年代以降のもので、1950年代の一時期は、IQ85未満が知的障害とされていたことがあります。しかし、この定義では全体の約16%の人が知的障害となり、あまりにも人数が多すぎる、支援現場の実態にそぐわないなどという理由でで現在のIQ70未満に引き下げられた経緯があります。

現在は、IQ70〜84は「境界知能」とされ、ここに相当する子どもたちは知的障害者と同じ「生きづらさ」を感じており、支援を必要としている場合がありますこのような子どもたちは約14%存在しており、1クラスを35名と想定してその中の5人程度が、かつての定義の則れば知的障害に相当していた可能性があります。

日本人全体で考えると7人に1人該当し、平均的な発達を遂げたこどもの7〜8割くらいの発達年齢であることがわかっています。

画像引用:NHK  なぜ何もかもうまくいかない? わたしは「境界知能」でした

境界知能児たちの心

軽度ないし中程度の知的障害者の若者が抱える心の問題として、周囲から求められるさまざまな要求や指示を十分に理解できないことに強い不安と劣等感を持ちやすく,それに対処すべく過剰に背伸びしたり,あるいは周囲に圧倒されて萎縮してしまうものがかなり多いとされています。

その結果、精神障害への脆弱性が増加し、不安障害や転換性障害,あるいはうつ病や統合失調症といった多様な精神障害が併存障害として表れることもあります。

こうした傾向は知的水準が下がるほど軽くなるとされており,軽度知的障害以上に非行や精神障害に脆弱性が高いのは,自分が他者からどう見られているかを切実に認知できる能力を持つ境界知能児であるとされています。

境界知能児たちは、障害とは見なされないが,「自信の失いやすさ」と「心の傷つきやすさ」については十分に配慮が必要なものたちであると考えられます

しかし、そのような配慮および支援が必要であるにもかかわらず、「しんどさ」「生きづらさ」に気づいてもらえず、非行に走ってしまう少年たちが少なくないのですそのことを「ケーキの切れない非行少年たち」の筆者は4次障害だと述べています。

1次障害は障害自体によるもの。

2次障害は周囲から障害を理解されず、学校などで適切な支援を受けられなかったことによるもの。

3次障害は非行化して矯正施設に入っても理解されず、厳しい指導を受け、ますます悪化すること。

4次障害として、社会に出てからも理解されず、偏見もあり、仕事が続かず再非行につながってしまう。

おそらく刑務所にいる受刑者のうち、かなりの割合を軽度知的障害や境界知能を持ったものが占めていると思われます。法務省の統計データから類推すると、2017年の新受刑者のうち、半数近くがそうした人たちであり、一般に、軽度知的障害や境界知能の割合は15~16%程度であることを考えると、かなり高い割合だと思われます。


私の意見ですが、再非行を繰り返してしまう彼らたちは、2重3重のセーフティネットからこぼれ落ちてしまったものたちと考えられます。まず自分自身の障害に気づかず、家庭、学校などで適切な支援を受けられずに周囲から弾かれて非行に走り、その後矯正施設に入ったもののそこでも理解されず、さらに悪化させて、また非行を繰り返す、このような負の連鎖が起こっていると考えられます。

コグトレ

そのような負の連鎖を食い止めるためにはどのような対策をとれば良いのでしょうか?

まず、家庭や学校でできるものとして、認知機能を向上させるトレーニングを積むことが挙げられます。

認知機能を強化させることで、社会面、学習面、身体面でのつまずきを少なくすることができ、自己評価も上げることができます。


画像引用:一般社団法人日本COG-TR学会コグトレとは 

既存の教育でとりこぼれてしまった子どもたちの受け皿としてコグトレは良いと思います。

私が接したことがある境界知能と思われる人は、本を朗読するとき読めない漢字があると小さな声でごまかして読んでいました。他者からどう見られているかは理解できるので、失敗したら恥ずかしいという気持ちがあるのだなと思いました。ただ、そういうズルばかりうまくなってしまって肝心の漢字の学習にはならないなとも思いました。安心して失敗できる環境を作っておくことも大切です。

本人の人格形成の要素として、遺伝因子と環境因子があり、生まれ持った特性をコグトレなどのトレーニングで改善し、自尊心や自信を獲得し、前向きになることはとても重要です。しかし、このトレーニングだけで全ての問題が解決するわけではありません。さらに、それと同時に貧困などによる家庭環境の悪化を抱えているケースも少なくありません。周囲の環境、外側からも改善のアプローチもしなくてはいけません。両輪での対応が必要になってくると思います。

育て直しを考える

誤解しないでいただきたいのは、境界知能に該当する子どもたちがみんながみんなが犯罪者予備軍であるということではありません。以上、述べてきたことは一つのモデルケースとして認識していただき、もしかしたら、あの犯罪にはこのような背景があったかもしれないと心に留め置いていただくと良いと思います。

私たちはいつ裁判員に選ばれて、そのような犯罪を犯してしまった子どもたちの対応に追われる立場になるかわかりません。少年たちの再非行を防ぐことは社会の利益につながります。そのためには国選付添人などの制度の充実も整備していかなければならないと思います。社会全体が非行少年たちの「育て直し」を考えていかねばならないのです。

※国選付添人とは、

罪を犯したとされる少年は、成人と異なり、刑事裁判を受けるのではなく、家庭裁判所に送られて少年審判を受けます。 その少年審判を受ける少年に、国費で弁護士を付ける制度。

引用:全面的国選付添人制度の実現(全面的国選付添人制度実現本部)

終わりに

なぜ今、境界知能が注目されてきたのでしょうか?

ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「昭和の時代までは、その人その人にきちんとはまる場所、仕事があったということもあり、そんなに気づかれなかった部分もあると思う。しかし21世紀に入る頃から、個人の能力を究極にまで高めなければいけないような競争社会になった結果、こぼれ落ちてしまう人たちがいるんだということが可視化されてきたのではないかと思う。

引用:Yahooニュース「皆さんが理解できるスピードも、僕には追いつけない」学校や職場で、境界知能の“生きづらさ“に悩んできた男性

時代の変化とともに浮かび上がってきた「子どもたちの生きづらさ」。どのようにして子どもたちの心と体を守るのか今一度、社会全体で考え直すべきときがきています。

参考サイト

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書) 新書 – 宮口 幸治  (著)

8 知的障害・発達障害

DIAMOND online 「ケーキを等分に切れない」非行少年はなぜ生まれるのか

たらいくらの習い事【何故?】コグトレはどうして批判されるのか?その理由をまとめてみた

日本人の7人に1人が該当】IQ70〜84で⽀援が必要な「境界知能」の子どもたちを救う対応策とは

版元ドットコム 横山勝( 2014)『子ども白書 2014・少年法改正について考える』株式会社本の泉社

すべての少年に国選付添人を!

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