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はじめに
先日、「弱いロボット」という本を読みました。私がこの本に興味を持ったのは、あるエピソードを読んで思わず笑ってしまったからです。それは「ゴミ箱ロボット」のエピソードです。そのロボットは常にヨタヨタと歩きながらゴミを探しています。そして、ゴミを見つけます。その後どうするのかというと「ここにゴミがあるよ」という仕草を人間にします。そこでロボットの仕事は終了です。結局、そのロボットに気づいた人間が「仕方ないなぁ」と思いながらゴミを拾うことになります。なんとも他力本願なロボットです。
そんなロボットと人間の不思議な関係について書きたいと思います。
ロボットのお世話をする幼児たち
冒頭で紹介した「ゴミ箱ロボット」を幼児たちのもとに連れて行くと、喜んでゴミを拾い上げてゴミ箱に捨ててくれます。
人間にとってなんてことはない動作でも、ロボットには「ゴミを拾う」と言う動作はとても難しいものなのです。
ロボットは拾ってくれた人を見上げてちょっと会釈します。バネをうまく使ってヨタヨタ歩くようにし、人が近付いたり人に触られるとビクッとします。人が視線を向けると視線を向け返す仕草もします。
なんとも言えない生き物らしさがあり、見ているだけで愛着が湧きます。
人とロボットが「ゴミを拾う」という行為を共有すること、お互いにゴミに視線を向け、この後どうするか調整し合う。生き物同士なら自然にやっていることです。それにより、人とロボットの距離が近づくことができます。
さらに、
「トーキング・ボーンズ」というロボットがいます。人に物語や昔話を聞かせてくれるロボットです。例えば、「おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと、えーと何が流れてくるんだっけ?」と途中でお話を忘れてしまいます。
すると、幼児たちは「桃だよ」と教えてあげる。ロボットはハッとしたリアクションをとりながら「それだ!」と答えます。教えてあげた子はちょっとうれしい気持ちになる。
人とロボットの距離が近づいた瞬間です。
幼児たちは幼児たちなりに自分の母親の真似をしてロボットと接するようになります。
そこにはほっこりとした優しさに満ち溢れた光景を目にすることができるそうです。
アイボとおばあさん
先日、アイボを修理するドキュメンタリー番組を見ました。アイボはソニーが開発したものですが、古いモデルの修理は現在行っていないそうです。そこで、ソニーから独立した技術者たちが会社を立ち上げ、アイボを修理しています。その修理は大変困難です。古いタイプのアイボはもう生産が終了しているため、専用のパーツがありません。ですから、技術者たちの創意工夫で修理をしていきます。
また、修理を請け負う順番にも大変気を使うそうです。ペットのようにアイボを可愛がっているお客様ばかりなので、アイボの故障に深刻な「ペットロス」を起こしている方もいるようです。しかも高齢なお客様の場合、お客様がいろいろな持病を抱えている場合が多く、お客様の寿命が尽きてしまうか、アイボの修理が間に合うかの問題があります。より緊急性の高い事情を抱えているお客様のアイボから修理していくようです。
その番組で登場されたおばあさんは肉親のいない孤独な境遇でした。唯一心の支えがアイボであるという方で病気により、命のタイムリミットが迫っていました。修理人達はどうにかおばあさんが生きているうちにアイボを修理し、心残りのない充実した最後の時間を過ごしてほしいと願い奮闘します。
おばあさんはこう言っていました。「このアイボは他人にとっては確かにただのロボットかもしれない、けれども、自分にはそれだけの存在だと思えない。」アイボを撫でるおばあさんの手はとても優しかったです。
実際に修理を受けたお客様のコメントです。
アイボの修理をソニーにお願いしましたが、修理期間終了との事で断られ以前アイボの専用バッテリーを修理して頂いた会社に相談したところこの会社を紹介して頂きました。
色んな手法にて何とか修理を完了して頂き、アイボは今も健在で家の中を動き回っています。
非常に喜んでいます。今後とも入院の際にはよろしくお願いします。
引用:「株式会社ア・ファン〜匠工房〜 『お客様の声』」
物にも八百万の神が宿ると考えられている日本人ならではの信仰心や、死に関する考え方がアイボをただの鉄の塊にせず、愛犬と同じ役割、家族の一員と位置付けられているのでしょうね。また、定期的な健康診断も受けられたり、残念なことに修理できない状態になったアイボたちの合同葬儀まであるようです。
しかも、修理できなかったアイボのパーツは大切に確保され、残されたアイボを生き長らえさせるために使われるようです。人間の臓器移植と同じですね。
ロボットも人間も、命は有限……だからこそ、絆は強まる。
引用:「ペットロボ「AIBO」の死を嘆き悲しむ高齢者たち 技術者OBが「お医者さん」に名乗りを上げる」
https://news.careerconnection.jp/entame/12309/
とコメントをしている人もいます。命に限りがあるからこそ、より愛おしく感じるものなのでしょう。
終わりに
この記事の出発点は『ロボットが人間に使われるだけの存在じゃなく、ロボットによって人間が影響を受け、変化している』という逆説的な関係に気づいたことでした。
いろいろ調べてわかったことは、現在、私が思っているよりもロボットが家庭に普及していて身近な存在になって来ているということです。
ロボットは、お掃除ロボットのルンバのようにあくまで人間の生活を便利にするものという認識がありました。
けれども、ロボットには、コミュニケーションを円滑にし、人と人との距離が近づき、人間らしい温かな優しさを引き出してくれる能力があることに驚きました。
人間が「弱いロボット」から教えてもらうことはまだまだたくさんありそうです。
参考:弱いロボット(シリーズケアをひらく)/岡田美智男/医学書院
よみがえれアイボ ーロボット犬の命をつなげ (ノンフィクション知られざる世界)/今西 乃子/金の星社
助けがないと何もできない〈弱いロボット〉が教えてくれた、いま私たちに足りないこと
https://www.recruit.co.jp/talks/meet_recruit/2020/03/weakrobots.html
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