データへのバイアスと偏見

データ

この記事は約 8 分で読むことができます。

 皆さんは、普段自分がどのくらい正確に物事を見ているのか考えてみたことはあるでしょうか。
 たとえば、こちらの図を見てください。

 この図では大きさの異なる円に囲まれた円が二組ありますが、中央の円の大きさを比べた時左右どちらの円が大きいでしょうか。
 正解は…「どちらも同じ大きさ」です。周りの円の影響で左の円は小さく、右は大きく見えますが、マウスカーソルなどを当てて確認してみれば全く同じサイズの円であるとわかるでしょう。
 この現象はエビングハウス錯視といい、図形を使った錯視の中でも有名なものです。本当は同じサイズの図形であっても見せ方次第で全く違う大きさであるかのように錯覚してしまうあたり、人間の目は案外だまされやすいもののようです。
 それと同じように、本当は違うものであっても見え方や考え方次第で錯覚を起こせるものがあります。それは、アンケートや試験の結果のような数字です。
 今回は、データや数字に潜む錯覚と偏見――『バイアス』について紹介していきたいと思います。

バイアスとはなにか?

 バイアスとは、「試験やアンケート調査によって何らかの結果を導き出す時、誤った結果を導き出すもととなる要因」のことで、日本語では「偏り」「誤差」と訳されます。
 バイアスは主に『選択バイアス』『情報バイアス』『交絡バイアス』の三つに分けられ、データを収集する側にも収集される側にも発生しうるため、正確な結果を導き出すにはこれらのバイアスを念頭に置いた上で調査やデータの精査を行わなければなりません。

主要な三つのバイアスについて

選択バイアス

 選択バイアスとは、データを収集する対象や条件を選択する際に生じるバイアスのことです。
 たとえば、10代から70代以上まですべての年代の男女を対象とした意識調査を行う時、Webサイト上にアンケートフォームを設置して調査をすると、まんべんなくデータを集めることはできるでしょうか。
 おそらく、Webサイト上で調査を行えばインターネットをよく利用する若年層のデータが多くなり、反対にインターネットを利用しない年代のデータは極端に少なくなってしまうでしょう。このように調査や研究の対象を決める際に生じてしまう偏りのことを選択バイアスよ呼びます。
 選択バイアスが存在すると、実情とは異なるデータが出て調査や研究結果の正確さや信頼性が損なわれてしまいます。

情報バイアス

 情報バイアスは、観察や測定の方法によって生じるバイアスのことです。
 今度は問診によってとある病気の原因を調査する場合を例にしてみましょう。
 調査の対象となる病気の患者に聞き取りを行って原因を推測する場合、仮に質問者が「病気の原因は喫煙かもしれない」という先入観を持っていると、問診で喫煙歴や受動喫煙の可能性などを重点的に質問することとなり、結果として病気の原因に喫煙が大きく関わっているかのようなデータが出てしまいます。
 一方で、回答者側も喫煙や飲酒歴など「健康によくないこと」という意識がある事柄に関しては実際よりも控えめな回答をする傾向が見られます。これも調査結果に影響を及ぼすため、情報バイアスの一種として扱われます。

交絡バイアス

 交絡バイアスは、因果関係について調査する際に想定の外にある『第三の要因』によって誤った因果関係を見出してしまうバイアスです。
 このバイアスの例としては「風が吹けば桶屋が儲かる」がわかりやすいでしょう。
 風が吹いた後に桶屋の業績が上がった、だから強風の日は桶屋にとって書き入れ時だ!などと言われても多くの人は「そんな馬鹿な」と思い、強風以外に桶屋が儲かった理由があると考えるはずです。
 実際に、「風が吹く→桶屋が儲かる」の図式の間には「砂埃が目に入って、目が見えなくなる人が増える」「視力が弱くなった人は三味線弾きになる」「三味線には猫の皮を使うので、猫が減る」「ネズミの天敵が減ったのでネズミが増え、桶がかじられる」といったいくつかの要素が挟まります。
 この、「風が吹く」という見せかけの原因と「桶屋が儲かる」という結果の間に挟まったり関係を及ぼしたりする要素を『交絡因子』と呼びます。
 もう少し現実的な例を挙げると、「やせている人ほど肺がんになりやすい」という言説があるとします。しかし、やせている人の中に喫煙者が多く、たばこの影響で太りにくかったり肺がんになりやすかったりしているのなら「やせている人=肺がんリスクが高い」という図式は適当ではありません。
 この場合は『やせていること』が見せかけの原因、『肺がん』が結果、『喫煙』が交絡因子という関係です。本当にやせていることが肺がんにつながるのか、という因果関係をはっきりさせるためには喫煙などの交絡因子を視野に入れた上で考えないと間違った結論を導き出しやすくなります。

バイアスはさらなる「偏見」を生む?

 バイアスが生じると研究や調査の結果が不正確なものになってしまいますが、それが間違っていることに気付かずに世間に発表されると、いわれのない批判や偏見から来る差別が生まれることもあります。
 2007年に服用者の異常行動が問題となり、10代の患者への使用が禁止された『タミフル』を覚えているでしょうか。実は、2018年に「異常行動とタミフルの服用の間に因果関係は見られない」として使用制限が解除されているのです。
 かつてタミフルの副作用と思われていた飛び降り、幻覚などの異常行動が他の抗インフルエンザ薬を使用した患者にも現れ、さらには薬を服用していない患者に異常行動が見られたケースもあったそうです。
 インフルエンザは発熱に伴う異常行動(熱せん妄)という症状を引き起こすことがあり、この熱せん妄とタミフルの副作用とされた異常行動の内容は似通っています。仮にタミフルに問題がなかったと考えれば、本当の原因である『熱せん妄』を見落としたばかりにタミフルが矢面に立たされたことになるでしょう。
 さらに、バイアスが生んだ歴史的な偏見として「切り裂きジャック」の風説があります。切り裂きジャックは19世紀・ビクトリア朝の時代に実在した猟奇殺人鬼で、売春婦を狙って犯行を行った……とされていますが、近年になってこの言説に異議が唱えられました。
 模倣犯によるものとおぼしき事件を除くと切り裂きジャックの被害者とされている女性は5人いますが、その女性達のほとんどは売春婦ではないことが明らかにされたのです。
 切り裂きジャックの被害者全員が売春婦であるかのように誤解された理由は、当時のメディアのセンセーショナルな報道と男性中心・女性蔑視の構造となっていたビクトリア朝の社会構造です。当時の言説に含まれていたバイアスを取り除くことで彼女達はようやく偏見に満ちたレッテルを剥がされ、一人の人間としての素顔を明かしました。

まとめ―バイアスを理解し、情報を正しく読み解く

 人間の脳は意外に思い込みに支配されやすく、本来なら公正であるはずのデータや数字でさえも思い込みによって誤った解釈を生むもととなってしまいます。
 バイアスとそこから生まれる誤解・偏見を防ぐには、まずはバイアスの存在を認知し、それをなるべく取り除くように研究・調査に努めなければなりません。
 また、研究・調査に携わっていない人もバイアスを念頭に置くことで真偽が疑わしいデータを目にした際に「このデータの読み取り方は不適当ではないか」「誤った結論を題してはいないか」ということを検討して、情報の精査を行うことができます。
 意図せずして不正確な情報の発信や拡散に関わってしまわないように、バイアスについてしっかり理解しておきましょう。

参考元:FNNプライムオンライン「飛び降り、号泣・・・「異常行動」新薬でも インフルエンザのシーズン到来!何に気を付けるべきか」
https://www.fnn.jp/articles/-/4332#:~:text=%E3%80%8C%E7%95%B0%E5%B8%B8%E8%A1%8C%E5%8B%95%E3%81%A8%E5%9B%A0%E6%9E%9C%E9%96%A2%E4%BF%82,%E5%88%B6%E9%99%90%E3%81%AF%E8%A7%A3%E9%99%A4%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%80%82
参考元:gooニュース「切り裂きジャックの被害者は売春婦」 レッテルに隠された素顔に迫る一冊
https://news.goo.ne.jp/article/globe_asahi/world/globe_asahi-13427220.html
    
    

データ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。