この記事は約 7 分で読むことができます。
1.保育園問題の今
2016年に大きな話題となった「保育園落ちた日本死ね」と書かれた匿名のブログを皆さんは覚えているでしょうか。待機児童の溢れる都心部の保育所への入所をめぐる競争(保活とも言う)は物凄いと言います。
保育所に子どもを入れられなければ、親は仕事に復帰できません。しかし、空きさえあればどこでもいい、というわけでもありません。毎日通える距離でなければなりません。保育所に入れることができないからといって育児休業を延長するにも限界があります。
また育児休業を取ることができない非正規就労の親の場合、そもそも保育所に子どもを入所することができなければ、即退職を意味します。保活には、子どもの健やかな育ちを支える環境の確保だけでなく、親の仕事・キャリアのすべてがかかっていると言っても過言ではないのです。
保育園をめぐる問題はそれだけではありません。たとえば、保育士不足、保育所建設反対運動も各地で起こっています。
当サイトAKARIでは、「保育園問題の今」を特集でお伝えします。第1弾は入門編として、日本の保育制度の現状をまとめてみました。
2.幼稚園・認可保育所・認定こども園・認可外保育所
小学校入学前、0歳児から5歳児までの就学前児童が通う場所としてまず挙げられるのは、幼稚園と認可保育所です。
幼稚園は一般的に3歳から5歳までの子どもが通う教育施設です。標準的な4時間の教育時間に加え、最近では園によって午後や夏休み中も預かり保育をするところがありますが、フルタイムで働く両親が子どもを通わせるのは難しいです。所轄官庁は文部科学省です。
一方、認可保育所は就労などの理由で、家庭で保育することが難しい保護者に代わって、0~5歳までの就学前児童を保育する施設であり、児童福祉法に基づいて設置された児童福祉施設です。認可保育所には福祉ニーズがあること、つまり「保育が必要である」ということを証明しないと入所申し込みができません。所轄官庁は厚生労働省です。
さらに最近では、幼稚園と認可保育所の機能を併せ持った認定こども園という施設も作られています。基本的には0~5歳の子どもが通いますが、0~2歳児の受け入れは義務ではありません。認定こども園は親の就労条件などにかかわらず、すべての子どもが通える施設であり、所轄官庁は内閣府です。共働きでない世帯の子どもは4時間の教育時間で帰宅しますが、共働き世帯の子どもは、教育時間の後は同じ施設で保育を受けることになります。
認可の保育事業は認可保育所だけでなく認定こども園や小規模保育など多様化し、受け入れ枠も増えています。それでも都市部では、認可の保育施設は4月の年度初めにはいっぱいになり、年度途中の入所は困難です。そこで親が最後に頼るのが、各施設に直接入所を申し込める認可外保育所です。
認可外保育所とは、国の設置基準を満たしていないため、公的補助が入っていない保育所です。認可外保育所は大きく3つ、「地方独自の保育所」「ベビーホテル」「その他の認可外」に分けることができます。
3.認定こども園の狙いと現実
認定こども園は2006年から始まった制度です。保育所に入れない子どもが待機児童となっている一方で、主に3~5歳の子どもが4時間程度通う幼稚園は毎年入園者が減少し、定員割れとなっているところも少なくありません。
そこで、同じ就学前児童が通う場所なのだから、幼稚園・保育園と縦割りせずに一緒にして、すべての子どもが通えるようにすれば待機児童が減るのではないか、という発想で考えられたのが認定こども園でした。
民主党政権時代の2010年ごろには、「幼保一体化」、つまりすべての幼稚園と保育所を認定こども園にする案も議論されました。ですが結局、一本化はなされず、現在は認定こども園・幼稚園・保育所の3形態がまだ併存しています。
幼稚園や保育所が認定こども園に移行しやすいようにと、さまざまな特例措置が取られた結果、2014年4月に1360ヶ所あった認定こども園は、15年4月に2836ヶ所、16年4月には4001ヶ所に増えています。ですが、それでも、認定こども園は待機児童対策の切り札となっていません。なぜなら、子どもが溢れている都市部では、幼稚園が認定こども園へと移行しないからです。
認定こども園に移行する幼稚園は、少子化が進んで入園者が減り、保育ニーズのある子どもも受け入れないと立ちゆかない、という危機感がある園です。そのため、少子化が進展する地方や地域では、幼稚園からの認定こども園への移行が進んでいます。
ですが、待機児童が溢れる都心部は、幼稚園にも入園希望者が大勢います。そのため、わざわざ認定こども園に移行する必要がないのです。
さらに、幼稚園が認定こども園に移行したとしても、必ずしも待機児童対策になっていないのが現実です。保育所に入りたくなくても入れない子どもは、0~2歳児に集中しています。認定こども園の導入により、この年齢の受け入れ枠が増えることが期待されていました。
しかし現在の制度では、幼稚園が認定こども園になっても、0~2歳児の受け入れをする義務はありません。しかも、低年齢児を新たに受け入れるには施設の整備なども必要で、幼稚園側には抵抗感が強いです。
幼稚園が認定こども園にならない背景には、もうひとつ別の理由があります。認定こども園になると、入園者は園ではなく自治体が決めることになります。これは認可保育所では当たり前のことですが、「自分たちの教育理念を理解する人だけを入れたい」と考える幼稚園とは相容れません。
4.待機児童解消の切り札となる? 事業所内保育事業
都心部では、認可保育所にはなかなか入れない。認可外保育所は質のばらつきが大きい。というわけで広がっているのが、企業が従業員のために設置する事業所内保育所です。従業員の子どもだけを預かる場合には、認可外保育事業(その他の認可外)と位置づけられます。
2010年3月には4137ヶ所、12年3月には4593ヶ所と増えています。15年には約7万4000人の子どもが通っています。事業所内保育所のなかで最も多いのは、病院が看護師や医師のために設置している「院内保育所」です。
看護師不足を受けて、多くの病院が看護師確保のために院内保育所が欠かせないと考えるようになっており、15年には2811ヶ所(子ども数、約5万6000人)となり、事業所内保育所の過半数を占めています。3交代勤務で夜勤もある看護師は、昼間だけ預かる通常の保育所では仕事ができないからです。
とても魅力的にな解決策に映る事業所内保育所ですが、都心部の場合、利用者側にとっての問題は、子どもを連れて通勤電車に乗らないといけない、ということです。乳幼児を連れて満員電車で通勤するのは大変なものです。
また事業所内保育所のデメリットとして、地域に知り合いができないことが挙げられます。自宅近くにある地元の保育所だと、子どもを通じて地域のさまざまな人と知り合いになれます。また、同じように働く親たちの知り合いが近所にできることは、いざという時の大きな力になります。
休日に地元で遊べる友人にもなりえますし、なんといっても同じ地域の小学校に進学する仲間でもあるのです。
事業所内保育所にはメリットもデメリットもあります。年度途中の復帰や、保育所に入りづらい低年齢児の時期には事業所内保育所を利用しつつ、3~5歳になれば地元の保育所を利用するなどの工夫が必要になってきます。
今回は、日本の保育制度の現状についてお伝えしました。第2弾は、保育園入園までの手続きや、保育料の問題についてお伝えします。
参考
前田正子(2017)『保育園問題』中公新書.
コメントを残す