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1.ベーシック・インカムとは
AI(人工知能)の急速な発達により、2人に1人の職がAIに代替されると予測されています。そういった中で、私たちはどうやって生きていけばよいのでしょうか。そこで注目されているのが、ベーシック・インカムと呼ばれる制度です。
本来、ベーシック・インカムとは、UBI(Universal Basic Income・・・ユニバーサル・ベーシック・インカム)とも呼ばれる「全ての国民に対して生活を賄えるだけの一定額の金銭を無条件で無期限に給付する」制度を指します。
つまりベーシック・インカムとは、
①無条件給付である(受給のための条件や、年齢・性別・疾病の有無・就業状況等の制約が無い)
②全国民に一律で給付される
③最低限度の生活を営むに足る額の現金給付である
④受給期間に制限が無く永続的である
という4つの要件が特徴です。
ベーシック・インカムは、現在の社会保障制度とは全く異なるシステムです。
たとえば、受給年齢の更なる引き上げが検討されている年金制度、自ら申請して数々の条件に適合していることを証明しなければ受給できない生活保護、非就業期間が長引こうとも一定期間しか受給できない失業保険などといった、従来の社会保障制度とは異なる制度設計をベーシック・インカムは持っているのです
2.ベーシック・インカムのメリット
このような特徴をもつベーシック・インカムですが、どのような長所を持つのでしょうか。波頭亮さんは、著書『AIとBIはいかに人間を変えるのか』で、ベーシック・インカムのメリットとして、
①シンプルである
②運用コストが小さい
③恣意性と裁量が入らない
④働くインセティブ(動機付け)が失われない
⑤個人の尊厳を傷つけない
の5つを挙げています。
第一に、ベーシック・インカムはシンプルな制度設計です。たとえば生活保護の場合、まずは受給者自らが窓口に申請に行く必要があり、その後も申請者への給付の可否を行政側が判断するためには、数々の調査が必要になってきます
このような複雑な仕組みは行政側の負担になるだけでなく、利用者側の制度に対する正しい理解・把握も困難にさせており、受給漏れや、本来受給できる金額を受け取れないといった問題を生じさせるといった原因ともなっています。
これに比べると、ベーシック・インカムの給付条件は、「国民であること」のみであり、金額も一定なので査定や計算も必要なく、受給漏れの心配も起きません
第二に、ベーシック・インカムはその運用コストも小さいです。たとえば生活保護に関連する職員は、専任・兼任を含めて日本全国で約1.4万人にものぼります。これに対して、ベーシック・インカムは、給付に対して特段の審査や調査を必要としないため、人手についての運用コストがはるかに小さいのです
第三に、現行の社会保障制度では、受給要件に関する様々な調査・審査を必要とします。そしてこの調査や審査の中には、家庭訪問や聞き取り調査などといった、個人的な事情に立ち入った内容に関する判断も含まれ、そういった判断によって給付の可否が決められたりしています。
この過程において調査員の恣意性と裁量が介在されることになるわけですが、一方、ベーシック・インカムでは特段の審査が必要とされないため、恣意性と裁量が入る余地はありません
第四に、現行の生活保護制度においては、たとえば働いて就労収入が得られるようになると、給付金が減額もしくは打ち切られ、一方では「働いても働かなくても収入が変わらない」状況を生み出すため、働くインセンティブ(動機付け)が成立しにくいです。
しかしながら、ベーシック・インカムの場合は追加的に労働収入を得ても給付金は減額されません。つまり、頑張ればそれに応じたメリットが与えられることがベーシック・インカムには存在するのです
第五に、ベーシック・インカムをもらうにあたっても、個人の尊厳が傷つけられません。
生活保護の申請にあたっては、実際に審査が行われる場で担当者から心ない言葉を投げかけられたり、個人的な事情に立ち入った詮索をされたりすることで、申請者が精神的なダメージをこうむることも少なくはありません。しかし、すべての人に給付されるベーシック・インカムのもとではそういった心配はありません。
3.ベーシック・インカムにデメリットはある?
ベーシック・インカムの考えられるデメリットとしては、①働かない人を増やす、②そもそも財源がない、の二点が挙げられますが、その問題も解決は可能です
第一に、たとえば今まで世界各国でベーシック・インカムの導入実験の事例がありますが、そのことによって働かなくなる人は増えたという事例はありません。
それどころか、幼い子どもの育児に専念したり、勉学に勤しんだり、仕事のための道具の購入、食糧の購入や貯金、学費の支払いなどにベーシック・インカムで得た収入を使ったり、家も無く働きもせず無気力に生きていた人々が、自ら考え建設的な人生を歩んでいくようになったという成果も確認されています
第二に、財源の問題です。例えば1人あたりベーシック・インカムの金額を生活保護の生活扶助費の額と同等の月額8万円と考えると、日本全体で必要な財源は年間約122兆円です
この財源に充当できるのは、まずベーシック・インカムの導入によって不要になる国民年金・基礎年金金額の約22.2兆円、生活保護の生活扶助費の約1.2兆円、雇用保険の失業保険費約1.5兆円の計24.9兆円です
さらに、厚生年金の約32.4兆円も充当すると、残り64.7兆円が必要となります。残る金額は、国民負担率(租税負担率+社会保障負担率)を、高福祉国家の北欧並みの60%にまで上げれば事足ります。仮に国民負担率を現在の42.2%から60%にまで上げると、76.7兆円の歳入増となり、ベーシック・インカムの実施に必要な財源64.7兆円は確保されるのです。
4.最後に
AI(人工知能)の進化により、2人に1人の仕事が無くなっていくと仮定します。それは、生きるための「労働(labor)」が不要になってきた時代が到来してきたことだと、波頭亮さんは述べています。
しかし私たち人間は、何もせずただ生きていくだけなのでしょうか。そうではありません。それでも人間は、自己実現や関心の追求などによる「仕事(work)」、そして、対価の獲得を意識せずに自己実現や社会貢献を目指す「活動(action)」を行っていくというのです
AIが進化して私たちにもたらすのは、やりたいことを行って得られる楽しみや満足感なのです。そして、それを保障し、後押しをしてくれるものがBI(ベーシック・インカム)なのです。
参考
波頭亮(2018)『AIとBIはいかに人間を変えるのか』幻冬舎.
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