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はじめに
2023年度から全国の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校において「生命(いのち)の安全教育」が始まりました。
「生命(いのち)の安全教育」とは、性被害に遭った場合の正しい行動や性暴力が及ぼす影響などを正確に理解し、生命の尊さや大切さを発達段階に合わせて教えていくことを指します。
文部科学省と内閣府が連携し、専門家の意見を取り入れながら教材または指導手引きを作成しました。
例えば、小学生向けの教材では「水着で隠れるプライベートゾーンは、大切な体の場所だから、他の人に見せたり触らせたりしてはダメだよ、そして、全く同じように他の人の見たり、触ったりしてはいけないよ」と教えています。
中学生向けにはSNSなどで知り合った人に会いに行くことへの危険性を、高校生向けにはデートDVなどの性暴力は何かについて、性被害に遭った時の対応などを題材にしています。
しかし、これらの知識だけでは不十分だという意見もあります。
なぜだと思いますか?
「はどめ規定」で萎縮する学校
先述の教材では、性被害のリスクだけを教材にしており、肝心の「性交・性行為」について記述はありません。
それは、「はどめ規定」なるものが存在しているからです。
・小学5年の理科・・・「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」
・中学1年の保健体育科・・・「妊娠の経過は取り扱わないものとする」
という学習指導要領のことです。
文部科学省によると、1998年の学習指導要領の改定時に「はどめ規定」がはじめて文書として書かれることになりました。
その経緯を知ろうと、文部科学省に行政文書の開示請求を行った方がいます。
しかし、「はどめ規定」が記載された経緯がわかる文書は送られてくることはなかったそうです。
学習指導要領に「はどめ規定」が記載されるまでのいきさつをくわしくに表す文書は存在しません。これが、文部科学省の担当者から返ってきた答えでした。
随分とあいまいなままの状態で決められたことが分かります。
参照:学校の性教育で“性交”を教えられない 「はどめ規定」ってなに? | NHK
都立七生養護学校(当時)に対するバッシング
2003年東京都の学校で行われた知的障害のある子どもたちに向けられた性教育の授業に、都議会議員の一部が「学習指導要領を逸脱している」などと批難をしました。
東京都教育委員会は教職員らを厳重注意しました。
その後、教職員たちは「教育現場への違法な介入」として東京都と都議をを訴え、勝訴しますが、このことをきっかけに学校全体が萎縮し、「はどめ規定」を超えた指導、教育はしないという考え方が広がったと言われています。
知的障害を抱えた子どもたち向けの教材だったのでより具体的で生々しい表現がされた教材だったと推察されます。しかし、「性交」を学習していない限り、「性」に関する正しい知識は身につかないとものと考えられます。避けては通れない問題ではないでしょうか。
ただし、文部科学省によると、「はどめ規定」にひっかかる内容のものは、絶対に教えてはいけないというものではなく、必要がある場合と判断することがあれば学校で指導、教育することはできるとされています。
それを元に、学校の中で性に関する指導、教育を行う場合は、
- 児童生徒の年齢に応じた発達段階を考えて行うこと
- 学校全体で違いがないように同様に理解できるよう図ること
- 保護者や地域住民の理解を得ること
- 集団指導と個別指導の内容の区別を明確にすること
の4点に注意することが必要とされています。教育してはならないものではないとしつつも、教えるために留意しなければならない点が多く、実際に教える現場では、ハードルがとても高くなってしまっているのが現状です。
参照:【解説記事】変わる学校の性教育。「はどめ規定」論争はもう古い? – メガホン – School Voice Project (school-voice-pj.org)
包括的性教育とは
性の問題はもちろん「性行為」や「性被害」を教えるものだけは十分ではありません。そこには、人間の尊厳や他人を尊重し合う、人権を重視しつつ、科学的根拠に基づいた教育が必要となります。
「包括的性教育」とは、身体や生殖の仕組みだけでなく、人と人の関係性や性に対する考え方の多様性、ジェンダーの対等性、幸せなど 範囲の広いテーマを入れ込んだ教育です。
包括的性教育のめざすところは、周りの人々も大切に思いつつ、自分の権利を知ることです。それを基本に健康や幸せのための選択を自己決定できるようになることです。自尊心や自信を自らに取り入れることにも繋がります。
人間の性のあり方、人権、お互いが幸福になるための対人関係、価値観を尊重すること、暴力をいかにして防ぐか、LGBTIQ+の人々への偏見や差別を なくすことも教育に含まれます。
日本の性教育には課題があると思います。
それは子どものうちから教育が必要だと考えます。自分と相手にとって心地よい触れ合いとはどういうものなのか。受け入れられること、同意のある行動とはどこまでを許容することができるのか学習するのは大切だと思います。
身体をむやみやたらに人に触れさせないでと教えるよりも、握手するのはいいけど、抱き合ってハグするのは嫌だとかその「境界」をどこに設定するのは自分自身で決めて相手に伝えてよいのです。相手も拒否された場合、その行動を止めなくてはなりません。そういう経験を積み重ねる必要があると思います。
私たちはしてはいけないと触れ合いを拒絶するだけの教育をするのではなく、能動的にどう触れ合っていいのか考える教育を施していくべきだと思います。
性教育の重要性
これまで受けた性教育にどのような印象をもっていますか?
上記の表をご覧の様に、性教育の重要性、役に立つの項目は非常に高い数値を出しています。しかし、内容が不十分という数値も目立っています。性に対して高い関心があるのが表れていますが、その教育は十分とは言えない状態がうかがい知れる結果となっています。
包括的性教育について知っているか
性について多面的な教育を受けたことがある人は少数であり、包括的性教育という言葉すら知らない状況が今日の日本の実情です。
終わりに
今回調べてみてわかったことは、日本の性教育は「性交」という性の基本を教えず、性被害のリスクだけ教えています。それは、まるで、交通事故のリスクだけ教えて運転技術を教えていないと表現されている方もいらっしゃいます。私もそのとおりだなと思いました。
恋をすれば、人に触りたくなる気持ちはとても自然な行為です。そこに、心地よい触れ合いとそうでない触れ合いを見極め、ときには「NO」と言える関係性を培っていくことが性教育の要なのではないでしょうか。
現在では、パソコンやスマートフォン、タブレットなど、幼い子どもたちが使用しているのが当たり前の時代になってきています。性に関する情報もあふれかえっており、そして、不特定多数の人間と容易にアクセスできる時代になってきました。
「性」に関する正しい知識がないと子どもたちを性の被害者、性の加害者にしてしまう可能性が十分にありえる問題だとおもいました。
以下の記事に書きましたが、日本の性的同意が成立する年齢は13歳です。
「はどめ規定」があるため、13歳の少年少女たちに十分に性的同意があったかどうか理解できているとは私には思えません。
性教育を幼いころから施すことは「寝た子を起こす」ことにはならないと私は思います。学校は萎縮せずに正しい性教育を施してほしいと強く思います。
参考サイト
「性交」教えにくい学校の性教育…「もっと早く教えていれば」先生たちが抱える危機感
避妊方法や性行為を扱わない「日本の性教育」は性教育と言えるのか?
東京都教育委員会の都立七生養護学校の性教育に対する処分に関連する警告書要約版
【解説記事】変わる学校の性教育。「はどめ規定」論争はもう古い? – メガホン – School Voice Project (school-voice-pj.org)
学校の性教育で“性交”を教えられない 「はどめ規定」ってなに? | NHK
noteでも書いています。よかったら、読んでみてください。
おすすめ記事の紹介
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NHKGで『松本人志と世界LOVEジャーナル』という番組がありました。これは、副題にある通り「”性”の問題を楽しくまじめに語り合う」もので、取材協力舎として “人間と性”教育研究協議会の論客の一人である村瀬幸浩氏が名を出しており、かなり信頼性のある内容です。学習指導要領の「はどめ規定」にも触れていました。ネット配信をぜひ御覧ください。https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2023101714361
https://gendai.media/articles/images/105846
https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2023/03/12-1.html
https://sexology.life/world/itgse/
https://www.seikyokyo.org/text/NoteOfProtest/statement_03.html
https://www.seikyokyo.org/text/NoteOfProtest/statement_08.html
https://afee.jp/2020/06/15/10482/
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ご参照いただけると幸いです。