この記事は約 8 分で読むことができます。
こんにちは、翼祈(たすき)です。
この記事の本題はALSなのですが、白血病も関わって来る内容なので、少しだけ白血病のことを書きたいと思います。
白血病とは、血液細胞のもととなる血液細胞や造血幹細胞になる前の細胞に異常を引き起こし、骨髄中にがん化した白血病細胞が無制限に増殖する病気で、血液のがんと言われています。白血病細胞が増殖すると、正常な血液細胞が作られなくなり、血小板、赤血球、白血球が減少します。その結果、出血や貧血、発熱などの症状が出現します。
白血病の治療法は、分子標的薬などを内服する薬物療法、支持療法、造血幹細胞移植、放射線療法などが挙げられますが、この記事では薬物療法に使用する治療薬が、ALSの人にも効果があるのではないか?、と報告された研究成果となります。
2024年6月12日、京都大学iPS細胞研究所の研究グループは、身体が段々と動かせなくなる難病のALSの患者さんから作製したiPS細胞でALSの状態を再現した細胞を生成し、およそ1400種類の既存薬などの中から、最終的に既存のアメリカのファイザー製の慢性骨髄性白血病の治療薬『ボスチニブ』を投与する臨床試験(治験)で、ALSの進行を抑制する有効性を確認したと明らかにしました。
『ボスチニブ』を投与した患者26人中、半数以上の少なくとも13人で運動機能障害の進行を抑制する効果などが認められたとします。
『ボスチニブ』はiPS細胞を使用した実験でALSにも効果がある可能性が示された研究成果で、これから研究グループは、早期に患者さんが『ボスチニブ』を使用できる様にしたいと考えています。iPS細胞を創薬や難病研究に活用したモデルケースになると注目を集めています。
今回は京都大学iPS細胞研究所の研究グループが、2019年から行っている『ボスチニブ』を投与する治験のことについて、取り上げたいと思います。
2019年から始まった『ボスチニブ』を投与する、京都大学iPS細胞研究所の研究グループの治験。この効果は?
画像引用・参考:筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんを対象としたボスチニブ第2相試験 主要評価項目達成(速報) ~iPS創薬からALS進行停止を目指すiDReAM Study~(2024年)
ALSの日本での患者さんの数はおよそ9000人の患者がいるとされ、中年以降に多く、男性の方が女性より1.3~1.5倍、患者さんが多く、重症の場合には発症から数年で人工呼吸器を付けたり、亡くなったりする場合があります。進行を緩和する既存薬は幾つかありますが、進行を止める根本的な治療法は未だ確立されていません。
京都大学iPS細胞研究所の井上治久教授などの研究グループは患者さんの細胞から作成したiPS細胞を運動神経に分化させてALSの病態を再現しました。これに多数の既存薬を加えて効果を調べ、『ボスチニブ』が進行を遅らせることを突き止め、2017年に発表していました。
第1段階の治験として、2019〜2021年に実施し、病状が進行中の9人に3ヵ月間投与し、5人は投与期間中、症状が悪化せず、安全性と、一部の患者で病気の進行を抑制する効果を確認もできました。このことを受けて、2022年3月から、京都大学や北里大学、徳島大学など全国7ヵ所の大学病院で、「ALSを発症してから2年以内」などの条件を満たした中高年の患者トータル26人で、第2段階の治験では対象となる患者さんを増員し、治験の期間も延長しました。
3ヵ月の経過観察を経て、『ボスチニブ』を24週間、毎日服用して症状の変化を点数化し、既に承認されている別のALS治療薬の治験のプラセボ(偽薬)などとの治験データなどと比較し、投与期間を半年に拡大して第2段階の治験を実施し、効果を解析していました。
すると、状態は患者さんによってばらつきがありますが、少なくとも13人で症状の進行が強く抑制できていることが判明しました。患者の血液を解析すると、神経細胞のダメージを示す物質の量が減少していました。肝機能障害や下痢は認められたものの、指先の運動や歩行など日常生活を送る機能が低下するのを抑制できたといいます。
中でも、血液に含まれる神経の損傷を示す物質が比較的少ない患者さんでは、症状の悪化がより抑制されていたことで、事前に血液を解析することで高い効果が期待できる患者を発見できる可能性があるとされています。
神経科学が専門の井上教授は2024年6月12日、「今後結果を詳しく総括した上で、『ボスチニブ』の承認申請を視野に、第3相試験(最終治験)の実施を目指しています」と述べました。
第1段階の治験に続き、『ボスチニブ』の有効性が示されたことになります。最終治験で有効性を確認できれば、『ボスチニブ』の投与が有望な治療法となる可能性もあります。
参考:iPS創薬でALS進行を抑制 京都大学、白血病既存薬で治験 日本経済新聞(2024年)
ALS患者では神経細胞への異常なたんぱく質の蓄積や運動神経細胞の脱落が見受けられますが、『ボスチニブ』にはこれらを抑制できる機能があることが明らかになっていて、ALS根治的な治療に結び付く可能性があるとします。
京都大学iPS細胞研究所の研究グループは新しいALSの治療薬の開発に向けてこれからも治験を進める方針です。
iPS細胞を使用して治療法や治療薬を模索する手法は「iPS創薬」と呼ばれています。チームの井上教授は、「ポジティブな結果に大変驚きました。患者さんにより迅速に新しい治療薬を提供できる様に、規制当局と協議しながら条件付き承認の制度の申請など、色んな仕組みの適用を検討していきたいです。1日でも早く患者さんの手元に『ボスチニブ』を届けたいです。なるべく早期に患者さんの治療に繋がる様に努力したいです」と説明しました。
それ以外の既存薬も続報が、
その1つが、2023年に記事を書いた、アメリカの製薬企業・バイオジェンの[トフェルセン]です。1年が経ってその続報が、この本題の治療薬の前にありました。
2024年5月21日、バイオジェンの日本法人は、ALSの治療薬[トフェルセン]について、厚生労働省に製造販売の承認を申請したと発表しました。ALS患者のおよそ2%を占める、[SOD1]と呼ばれる遺伝子に変異がある患者が対象になります。
遺伝子の働きに作用する治療薬は、[トフェルセン]が日本では初のこととなります。
FDA(米食品医薬品局)は2023年4月、[SOD1]が、筋力低下を招く有害なたんぱく質を生成することを抑制する効果に期待が持たれ、「患者さんにとって利益があると合理的に予測できる」として迅速承認しました。日本でもALSの患者団体などが早い段階での審査承認を要求する要望書を提出していました。
バイオジュンによりますと、日本人も参加した最終段階の臨床試験では、[トフェルセン]を投与したグループで神経損傷で生じる血液中の物質が減少しました。
この本題である『ボスチニブ』は、「iPS創薬」で作られ、iPS細胞の応用として、再生医療と並び最も注目されている手法の1つだと言えます。患者さん本人のiPS細胞から身体の色んな細胞を生成する性質を活かして、試験管内で病気を再現して、効果のある可能性を持つ治療薬の候補を選別しながら解析していきます。
新しい創薬の手法として注目を集める「iPS創薬」ですが、それでも課題はあります。現状では創薬にかかる時間や費用を節約するため、既に安全性が確認されている既存薬を創薬に転用するケースがその大半を占めています。
既存薬は特許が切れると薬価を下げられ、製薬企業は新しい分野の開発に後ろ向きになりがちだといいます。
この様に「iPS創薬」は作ることが難しくありますが、『ボスチニブ』という、新しい治療薬の候補が増えることで、1つだけしか選択できないことではなく、色んな薬の投与や違う可能性を見出せる。
それが難病と言われていても、少しでも進行を抑制させる、選択肢に幅が増えると思うと、嬉しく感じた研究成果でした。
noteでも書いています。よければ読んでください。
コメントを残す