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こんにちは、翼祈(たすき)です。
まず先に公開された記事に、2024年5月に、同性パートナーと一緒に暮らしている愛知県の男性に対し、「婚姻に準じる関係」として、パートナーと同じ名字への変更を認める決定を示していたことを書きました。
2024年6月にも大きな話題がありました。2024年6月21日、性同一性障害特例法に基づいて男性から性別変更をした40代女性が、変更する前に凍結保存した自身の精子で誕生した子を自分の子どもだと認知できるかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は、「法的性別に関係なく認知できる」との初めての判断を示し、父子関係を認めました。
生物学上の父と、性別変更した後に誕生した子の父子関係成立に関して、最高裁が判断するのは初めてのこととなりました。
この様に日々、目まぐるしく新しい話が上がり、裁判などを経てLGBTQの方の権利が認められてきています。この記事も、そんなLGBTQの方にまつわる話となります。
2024年5月2日、長崎県大村市内に住む男性の同性カップルに対し、続き柄欄に「夫(未届)」と記載した住民票を交付したことが明らかになりました。従来男女間の事実婚として利用されていた表記を、同性カップルにも適用したカタチです。
「(未届)」は男女の事実婚のカップルと同様の表記で、当事者によりますと、同性パートナーに同様の表記をするのは異例の対応とします。当事者は「同性間の事実婚が行政上の書類で許された意義は大きいです」と大きく評価しています。
今回は、この同性カップルの住民票が採用された話を時系列で示しながら、最後の感想にもそれ以外の都道府県の対応について綴りたいと思います。
2024年5月、
住民票の写しの交付を受けたのは、長崎県大村市在住の松浦慶太さんと藤山裕太郎さんの同性カップルです。松浦さんや大村市によりますと、2人は今まで同じ住所に、別々の世帯で各自「世帯主」と登録していたといいます。
大村市などによりますと、2024年5月2日に世帯合併の手続きで市役所を訪問した際に相談をし、世帯を1つにする手続きを申請し、松浦さんを「世帯主」、藤山さんを「夫(未届)」と表記することを要求し、それが認められました。
2023年10月から大村市では、LGBTQなどの同性カップルの関係を公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を取り入れ、2人は宣誓の受領証を取得していました。大村市民課は2人の希望を踏まえて、総務省の「住民基本台帳事務処理要領」を確認しました。2人の関係を法律上の夫婦では該当しませんが「内縁の夫婦」の項目に準じると判断し、その場合に使用する「夫(未届)」で記載しました。
大村市の「パートナーシップ宣誓制度」では保育所への入所申し込みや市営住宅の入居、母子健康手帳の交付などの行政サービスが使える様になりますが、希望する続柄を住民票に記載する仕組みは想定されていませんでした。全国には同性カップルが希望すれば続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」とできる自治体もありますが、実際に記載したケースは初めてと想定されています。
松浦さんによりますと、同性の事実婚の場合、一般的に続き柄に「縁故者」「同居人」などと記載されるケースがあるといいます。
松浦さんは「法的な効力のある住民票での受理で、信じられず夢見心地です。これからの事実婚に使用される続き柄が行政書類に記され、事実婚と同じレベルの権利が獲得できる可能性が出てきました。社会の変化や同性婚の法制度に大きな影響を与えるのではないでしょうか」と期待を込めています。
大村市民課は、「取り扱いに関して市でも確認し、申請者に寄り添って対応しました」と述べました。この様な大村市としての対応は、把握する限りで初めてとします。
参考:同性カップル住民票、事実婚示す「夫(未届)」と記載 長崎県大村市 朝日新聞デジタル(2024年)
同性カップルの住民票表記を巡っては、2023年10月から、鳥取県倉吉市では、同性カップルの希望があれば住民票の続き柄を「夫(未届)または妻(未届)」とする運用を開始しました。
男女の事実婚のケースでは社会保険の扶養関係などが認められますが、今回の記載が同じ様な権利保障に波及する可能性に関して、園田裕史市長は「一般的な事実婚と同様という認識はありません」と明言し、国の制度として協議、検討される必要性を懸念しました。
総務省自治行政局住民制度課は、大村市の事例に関して、「初めて耳にしました。それ以外の自治体の対応も把握していません。自治体の個別の判断ではないでしょうか。同性パートナーの場合と、内縁の夫婦の場合で、記載が同様だとすると、実務上の課題が発生する可能性があります」とした上で、「同性カップルに関して住民票に世帯主との関係を表記する時には、『同居人』が1番該当すると想定しています」と説明しました。
男性カップルの事実婚が認められる
長崎県大村市は、男性カップルの住民票の続柄欄に「夫(未届)」と記載して交付しました。2人が2024年5月28日、大村市内で記者会見して説明しました。同性婚の法制化などにも影響を与えることに期待が持たれています。
当事者の一人は三重県出身で、大村市の地域おこし協力隊を務める松浦慶太さんは、実名で取材に応じました。
松浦さんによりますと、パートナーの藤山裕太郎さんとは2018年に知り合い、2018年に藤山さんの住んでいた兵庫県尼崎市に移住した後、大村市に引っ越しました。
会見の中で、松浦さんは「夢の世界にいる様で、嬉しい限りです。夫や、パートナーだと書いて頂いた公的な書類はこれまで1つもなかったので、大村市に引っ越してきて本当に良かったです。画期的な対応で、こうした実例ができたことは他の同性カップルにも喜びと勇気を与えてくれます」と喜びを露わにしました。
藤山さんは、「これからも同じ様な自治体が増加し、多様性が認められ、住みやすい日本になればいいと思います」と語りました。
2人は2023年、「結婚式」を挙げました。藤山さんは「前例のないことを大村市がしてくれ、私たちの背中を後押ししてくれました。こうした自治体が増えてくれると嬉しく思います」と述べました。
松浦さんは「行政の書類上で、事実婚という続き柄が認められました。今まで認められなかった色んな権利が認められる突破口になり、それ以外の自治体にも波及するかもしれませんね」と期待を口にしました。
参考サイト
「夫(未届)」の住民票交付 男性カップル「本当によかった」 NHK NEWS WEB(2024年)
事実婚を示す「夫(未届)」住民票、同性カップル「夢の世界のよう」 朝日新聞デジタル(2024年)
市長のコメント
同日2024年5月28日、男性の同性カップルに対し、続き柄欄に「夫(未届)」と記載した住民票を交付したことに関して長崎県大村市の園田裕史市長は、「自治事務として内部で協議した中で、最終的に記載しました」と述べ、自治体の裁量の範囲内という見解だと示しました。
続けて、園田市長が同性カップルに「夫(未届)」と記載した住民票を交付した経緯に関して説明し、「事実婚であることを認めるために交付したわけではありません」と述べました。
今回の対応に関して、「内縁の夫婦に関する国の事務要領に準じて記載をしました。それを越権する様なことを示したわけではありません」と説明しました。同性カップルの位置付けに関しては、「国の制度の中でこれから、十分に議論されていくべきことだと考えています」と述べました。
その上で、園田市長は事務処理に関して総務省が示している要領の記載方法に基づいて、「内縁の夫婦の続き柄に準ずる」と判断したと語りました。
そして、「『パートナーシップ宣誓制度』を取り入れている自治体として自治体の裁量の中でできることに関しては、可能な限りの対応を現場で確認して対応したので、問題になるとは考えていません」と述べました。
参考:同性カップル住民票に「夫(未届)」と記載、市長は「裁量の範囲内」 朝日新聞デジタル(2024年)
国の対応は?
大村市は現在、長崎県を通じて、今回の「夫(未届)」の記載が妥当かどうかを総務省に確認している段階です。
小泉龍司法相は同日2024年5月28日の記者会見で、「同性婚に関連した社会全体の動きを積極的に注視していくスタンスは今後も継続していきます。国全体が大きな意見の一致に向かって動いていくことを見極めていくべき時期に入っていると感じています」と説明しました。
また、閣議後会見で松本剛明総務相も、「総務省として大村市に事情を聴いていて、状況を踏まえて対応を協議したいです」と述べました。
翌日の2024年5月29日、小泉法相は、衆院法務委員会で同性婚に関しての国内外の動きについて「我々は受け身じゃなくて、積極的に、身を乗り出して注視しているという、スタンスでしっかりと臨みたい」と説明しました。立憲民主党の山田勝彦氏への答弁をしました。
「夫(未届)」の記載に関しては、住民票制度を所管する総務省の馬場成志副大臣は一般論とした上で、「夫(未届)の記載は実務上、婚姻届を届けていない内縁の夫婦の場合の続き柄で、違う用いられ方であれば実務上の課題が発生するのではないか」と答弁し、大村市などから聞き取りを行う意向を示しました。
参考:同性婚の動きに法相「身を乗り出して注視」 住民票に「夫」と記載 朝日新聞デジタル(2024年)
長崎県大村市が同性カップルに対し、事実婚の状態であることを示す「夫」と記載した住民票を交付したことに関して、性的マイノリティーの人権が専門の青山学院大学の教授の男性は、「この記載が同性カップルにも認められたのはとても重要で、意味があることです」と大きく評価をしています。
大村市の対応に関して教授の男性は、「同性カップルを『結婚相当の関係』と認める『パートナーシップ宣誓度』を取り入れていながら自治体の裁量で対応できる住民票の記載に矛盾があると気付いたのではないでしょうか?住民に1番近くで寄り添う地方自治体だからこそ可能なケースだったと思います」と話し、それ以外の市区町村でも広がる可能性があるとしています。
その上で、「国は実態に適した社会制度や法整備を構築する必要があります」と説明しました。
追随する他の都道府県
2024年5月29日、栃木県鹿沼市の佐藤信市長は、同性カップルの住民票に関して、男女の事実婚と同じ表記にできる様にすると定例記者会見で明らかにしました。同市は多様性を認め合う街づくりを進めていて、長崎県大村市など他県の先進事例を受けて、2024年7月1日から栃木県内でいち早く取り入れることを決定しました。
鹿沼市は今まで同性の事実婚の場合、住民票の続柄に「同居人」と記載してきましたが、新しい制度により女性同士のカップルは「妻(未届)」、男性同士のカップルなら「夫(未届)」と記載できるようになります。新しい権利は発生しませんが、現代社会の要請に応える措置とします。
佐藤市長は、「鹿沼市は一人ひとりの多様性を認め合う社会を目標として提唱しています。先進的な取り組みに励む他自治体を孤立させたくありません」と説明しました。
参考:栃木 鹿沼 同性カップルに「夫(未届)」「妻(未届)」住民票 NHK NEWS WEB(2024年)
2024年5月29日、長崎県大村市が同性カップルに事実婚関係を示す「夫(未届)」と記載した住民票を交付したことに関して、京都府与謝野町の山添藤真町長は、同町でも同性カップルから同様の対応を求められた時には、積極的に受け入れる意向を示しました。具体的な対応に関しては「個別対応を取ります」としました。
定例記者会見で山添町長は、「大村市の対応は勇気ある判断です」と大きく評価しました。与謝野町は互いの多様性を尊重し、地域社会で安心して仕事のできる社会の実現に取り組んでいるとし、「役場は住民に1番近い存在なので、住民の意向に沿いたいです」と述べました。
参考:同性カップル住民票に事実婚表記、京都・与謝野町も対応方針…町長「役場は住民に一番近い存在」 読売新聞(2024年)
2024年6月3日、福岡県古賀市の田辺一城市長は記者懇談会で、同性カップルの申請に基づいて、住民票に事実婚の関係を示す「妻(未届)」や「夫(未届)」と記載することに関して「前向きに検討している」と発表しました。
田辺市長は、「同性婚に関しては国が早急に制度を整備するべきです」とした上で「医療保険など古賀市以外の民間や公的機関の手続きにどんな影響があるのか、現在、整理を進めている段階です」と語りました。
参考:同性カップルの事実婚表記、福岡県古賀市も「前向きに検討」…市長「国が法整備するべき」とも 読売新聞(2024年)
2024年6月11日、東京都世田谷区の保坂展人区長は、同性カップルの住民票の続き柄欄を男女の事実婚と同様に「夫(未届)」などと表記する方針を発表しました。同日の区議会定例会の本会議で、レインボー世田谷の上川あや区議の質問に対し、回答しました。
世田谷区は、2020年に「同性パートナーも、事実婚に準ずるとする社会通念が形成されている」という見解を表しました。災害によって亡くなった人の遺族に弔慰金を支給する制度といった、事実婚の夫婦が対象に含まれる既に存在する制度に関連し、同性パートナーも対象にする制度を独自で導入しています。
世田谷区は現在、「ファミリーシップ宣誓制度」や「パートナーシップ宣誓制度」を希望したしたカップルの続き柄を「縁故者」としています。
保坂区長は「当事者の実情により近いカタチとなると考え、導入していきたいと思います。制度設計に関して早急かつ具体的な検討を指示しました」とコメントを出しました。
参考:同性カップルの住民票続き柄欄、事実婚と同表記に 東京・世田谷 毎日新聞(2024年)
2024年7月、同性カップルの事実婚関係を公認する「パートナーシップ宣誓制度」を2020年11月に取り入れた栃木市は、栃木市内に住んでいる同性カップルが希望すると、続き柄欄に「妻(未届)」「夫(未届)」と書いた住民票の写しを、2024年8月から交付すると明らかにしました。
栃木市によりますと、同じ様な対応を行うのは全国で6例目。2024年7月から取り入れた栃木県鹿沼市などの先行事例を踏まえ、続き柄欄の表記を改めることに伴った行政事務へ与える影響などを議論を重ねていくと、「何ら支障がない」と判断しました。
同性カップルは、栃木市が交付する従来の住民票では、世帯主のパートナーはどの同性カップルにおいても「同居人」と書かれます。この運用を見直し、2024年8月からは世帯主はパートナーの書き込みに関して、「妻(未届)」や「夫(未届)」と表記できます。
対象は栃木市や栃木県の「パートナーシップ宣誓制度」を行った同性カップルで、栃木市などに「住民票続柄変更申出書」の提出が必要です。
参考:栃木市も同性カップル住民票に「夫」「妻」 8月から交付 毎日新聞(2024年)
栃木市内では今までに、「パートナーシップ宣誓制度」で2組、同じ様な栃木県の制度で2組のトータル4組が宣誓しています。
栃木市の担当者は、「住民票の書き込みは自治体の責任で執る自治事務で、栃木市の裁量で同性カップルを笑顔にできるのなら取り入れるべきだとの意見がまとまりました」と説明しました。
この様に、大村市が「夫(未届)」と認めたことで、追随する都道府県も出て来ました。この記事は2024年6月下旬に書いていますが、この記事以降にもしかしたら、また違う都道府県が「夫(未届)」を認めるところが増えるかもしれませんね。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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