心臓パッチ『シンフォリウム』が、2024年6月12日より販売!日本の技術で、子ども達を救えー。

心臓パッチ シンフォリウム

この記事は約 15 分で読むことができます。

こんにちは、翼祈(たすき)です。

この記事のテーマは、『心臓パッチ』です。まず、『心臓パッチ』の説明をしたいと思います。

『心臓パッチ』とは、2012年にスタートしたプロジェクトで、「患者さんの成長に合わせ伸びるパッチ」を掲げ、この『心臓パッチ』の開発にチャンジしたのは、腎臓の病気で我が子を亡くした「大阪医科薬科大学」の根本慎太郎医師、斜陽と呼ばれた繊維産業を勝ち残った福井県福井市にある町工場「福井経編(たてあみ)興業」、町工場からのSOSに賛同を買って出た、東京都にある大手化学メーカー「帝人」でした。

日本小児循環器学会の実態調査によりますと、心臓の形状に異常がある「先天性心疾患」の新生児は100人に1人の割合でいると推定されていて、その中には小さい時に手術をしても、その後繰り返し手術を行わなければならない子ども達がいると言われています。

再手術の1つの原因が、手術で使用される心臓や周囲の血管の穴を塞ぐ心臓パッチで、従来使用されてきたものは伸縮性がないことで、成長に伴って、心臓の成長に合わない時に、再手術を行って大きな心臓パッチを取り替える必要がありました。

誕生してから8倍も大きくなるといわれる心臓の成長に対応可能な心臓パッチの開発を下支えしたのは、「再手術を無くして、身体的にも精神的にも負担になる子ども達を救いたい」という、共通する関係者全員の一筋の想いからでした。

2023年、厚生労働省が製造販売を承認し、2024年6月12日(水)から心臓パッチ『シンフォリウム』は、医療現場での実用化がされます。

今回は2023年の分からとなりますが、2024年の手術の現場での実用化に至るまで、動き出した、この心臓パッチ『シンフォリウム』の歩みを紹介したいと思います。

2023年、

作家の池井戸潤氏のベストセラー小説、[下町ロケット]では地方の繊維メーカーが、全く畑違いの医療機器の開発にあくなきチャレンジする様子が活き活きと描かれていました。

[下町ロケット]の中では[ガウディ計画]と言われていたこの心臓パッチの開発プロジェクトですが、心臓パッチ『シンフォリウム』の開発のきっかけとなった一人の外科医の元に行きました。

新しい心臓パッチを企業に提案し、開発者の一人である、「大阪医科薬科大学」の教授、根本慎太郎医師は、専門分野は小児の心臓血管外科で、30年近くに渡って第一線で心臓の手術を執刀しています。

第一線で活躍する根本医師を長年悩ませていたのが、日本では100人当たりに1人いると推定されている「先天性心疾患」の新生児です。「先天性心疾患」は、新生児の時に心臓や周囲の血管に穴などが発見される病気で、そのほとんどは手術が必要な疾患です。

「先天性心疾患」の新生児に手術することで、長年課題だったことは、穴などを塞ぐために手術で使用される医療用の「心臓パッチ」でした。

この日も、1歳になる「先天性心疾患」の男の子の手術が行われていました。男の子の心臓には穴が2つ空いていて、この2つの穴を塞ぐための手術となりました。

心臓を開けて中にある穴を塞ぐには、最初に心臓の機能を止める必要があるので、手術を行う時は、心臓の代わりを担う「人工心肺装置」が使用されます。

男の子の心臓を止めた時、手術室の誰もが冷や汗を流しました。心臓の鼓動を表示するモニターの音が消失し、根本医師などが手術の器具を操る音だけが響く様になりました。

心臓が完全に停止すると、血液が「人工心肺装置」を介して血液の循環し始めました。約4時間に及ぶ大手術でした。男の子の小さな身体には負担がとても大きい手術と言えます。

1歳になる「先天性心疾患」の男の子が再手術をした理由は、使用される心臓パッチの素材だったといいます。現在医療の場で使用されている心臓パッチは、合成樹脂や牛の心臓の膜で作成され、伸縮性がありません。

そのことで、「先天性心疾患」の子ども達が大きくなると、心臓パッチのサイズが合わなくなり、貼り付けた部分の血流が滞って、心不全を発症する可能性もあります。

その上、心臓パッチが劣化するという大きな課題もありました。どういうことなのでしょうか?心臓パッチを異物と認識した免疫細胞が心臓パッチを攻撃し、カルシウムなどが付着して石の様に固くなったり、使われている素材が劣化します。

根本医師は、なるべく「先天性心疾患」の子ども達の再手術を避けられる様に工夫をしています。この日の手術で根本医師は、男の子の心臓を覆った心膜の一部を切り取って心臓パッチとして活用しました。

ですが、心膜の一部を切り取った時にできた穴を塞ぐためには、やはり合成樹脂を使わざるを得ません。

外科医として技術を向上させ、工夫をしても避けられない「先天性心疾患」の子供達の再手術は、早ければ2年ほどで再手術となる事例もあります。

根本教授は、

『先天性心疾患』の手術は心臓を止めて行うので心身共に負担が大きく、子ども達の身体のことを考えると、再手術はどうにかして避けたいことでした。原因が心臓パッチの素材であるなら、化学の力でどうにかすべきなんじゃないかと、若い頃から長年思って続けていました

ですが、10年、20年とどれだけ年月が経過しても、心臓パッチを改良してくれるメーカーは現れることはありませんでした。

これ以上もう時間がないと、2014年、根本医師は子ども達の成長に一緒に伸びる新しい心臓パッチを開発するために、賛同してくれるメーカーを探し歩いて回りました。

「賛同してくれませんか?」と電話をかけても10社以上の繊維メーカーが断った中で、1社、根本医師の話を伺いたいと電話で返答をくれたメーカーが、社員90人が働く、創業から80年を迎えた、福井県福井市にある老舗の繊維メーカー「福井経編興業」でした。

「福井経編興業」は、編み物の技術を活かして伸縮性の高いニットの生地を製作し、インナーやスポーツウエアなどを受注し、工場から生産しています。

「福井経編興業」は、平成に入り、海外製の安価な生地が先頭に来て以降、日本での繊維産業の行く末を案じる中で、新しい分野を開拓する必要に迫られていました。新しい心臓パッチの素材に、弊社の編み物の技術が応用できるかもしれないー。そう考えて、根本医師の協力を申し出ました。

「福井経編興業」の開発チームが最初に始めたことは、細菌やほこりを除去する「クリーンルーム」を作ることでした。

医療機器を扱うために欠かせないものですが、繊維メーカーである「福井経編興業」にはない部屋でした。

「クリーンルーム」を一から作るためにかかった初期費用は7200万円で、「福井経編興業」が設備投資に使用する額の約2年分に該当する高額な設置費用でした。

「福井経編興業」の開発チームが目指した心臓パッチは、身体の成長に合わせて伸縮する心臓パッチです。さらに、時間が経過しても劣化しない様に、心臓の組織に一体化する心臓パッチを作ろうと思い付きました。

「福井経編興業」がこの難題な問題を克服するために、生地や糸についての技術や知識など経験も兼ね備えた6人の技術者を、社内から選抜して開発チームに加入させました。

心臓パッチの外部に情報が漏れない様に、その他の社員に一切開発していることを知らせませんでした。まさに、開発チームの6人だけが進める極秘プロジェクトでした。

態勢と環境を整え、ようやく始動した心臓パッチの開発で、最も大きな障壁となったのは、伸び縮みする生地の強度をどう維持できるかでした。

「福井経編興業」の試作品の第1弾は、心臓に貼り付けることを想定して伸ばすと、強度が足りず、解けて糸の状態に戻ってしまいました。

伸縮性のある生地は強度が足りない反面、強度を上げると逆に生地が伸縮しない。何度も改良と失敗を繰り返しながら、糸の編み方や種類などをちょっとずつ変えていって、20個以上の試作品を開発しました。

およそ10年を要して、納得のいく強度と伸縮性を両立する方法を確立しました。この様にして完成された心臓パッチは、子どもの成長に合わせて伸縮する様に、2種類の糸を独自の製法で編み込んでシート上に作りました。

「福井経編興業」が開発した心臓パッチのシート化には、大手化学メーカー「帝人」の賛同が必要不可欠でした。

「帝人」の主力戦力の特殊な加工技術を使用することで、血液が漏れない強度を維持しながら、血管や心臓の動きに合わせてしなやかに湾曲するシートが実現できました。

シートと糸の一部には身体の中で吸収される素材が使用され、時間の経過に合わせて、溶けて心臓の組織と一体化するため、劣化する心配も少なくできました。

参考:WEB特集 リアル「下町ロケット」 心臓病の子どもを救え!(2023年)

新しく開発された心臓パッチは、2023年7月、厚生労働省から製造販売承認を取得しました。

これから、公的な医療保険の適用に関して国の審査が行われる見通しです。

1人の外科医の想いに、企業が共感して新しい心臓パッチの開発を実現した、リアル[下町ロケット]のプロジェクトに、池井戸氏は、

この度3つの病院と企業が賛同して開発された心臓パッチは、『先天性心疾患』に苦しむ子ども達を救おうとする大人たちの、真摯な情熱と努力の結晶です。この心臓パッチが、『先天性心疾患』で苦しむ子ども達の未来を拓き、希望の光が当てられることだと確信しています

とコメントを寄せました。

2024年5月27日、

画像引用・参考:心・血管修復パッチ「シンフォリウム」 6月12日 販売開始   帝人株式会社(2024年)

先天的に心臓などにある穴を塞ぐ手術を受けた「先天性心疾患」の子ども達は、穴を塞ぐために「心臓パッチ」を成長に共に交換する再手術が必要でしたが、福井県にある「福井経編興業」などが子ども達の成長に共に伸縮する新しい「心臓パッチ」を開発し、2024年6月から医療の場で使用可能となりました。

2024年から公的な保険が適用される対象に入り、2024年6月から開発された心臓パッチ『シンフォリウム』の販売が始まるのに合わせて、2024年5月27日、東京都内で3社合同の記者会見が行われました。

会見には、医療の場の確かな知識を提供し、心臓パッチ『シンフォリウム』の開発を促した「大阪医科薬科大学」の根本慎太郎医師、心臓パッチを開発した「福井経編興業」の高木義秀社長、心臓パッチの販売を担当する「帝人」グループなど3社が臨みました。

「福井経編興業」の高木社長は、「心臓パッチ『シンフォリウム』の開発までは苦節10年かかりました。なんて時間のかかる案件なのだろう。ですが、皆さんのご協力のお陰で早く開発できたと自負しています」と説明しました。

「先天性心疾患」子ども達の手術に使用する目的で開発された、心臓パッチ『シンフォリウム』の開発は、2014年から3社共同で励み、2019年から臨床試験(治験)を行い、それから4年が経過した2023年7月に厚生労働省から正式に承認が下り2024年6月発売される運びとなります。心臓パッチ『シンフォリウム』の開発からおよそ10年かけて販売まで漕ぎ着けました。

この心臓パッチ『シンフォリウム』は、心臓にできた穴を塞いだり、血管を広げたりする時に使用されます。

心臓パッチ『シンフォリウム』は、

①身体内で分解・吸収される糸②分解されない糸の2つで編み込んだ骨格を、ゼラチン膜で覆った製品となっております。術後3ヵ月程度で、患者さんご本人の細胞がゼラチンと置き換わって血管の壁になって、2年程度経過すると①が分解されます。素材の骨格が②だけになると、素材全体が2倍以上伸びる様な織り方

になっています。

「帝人」は、販売を開始した後もこの心臓パッチ『シンフォリウム』を使用した手術を受けた人を5年間に渡って追跡調査して、安全性などを確認すると同時に、アメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を目指し、世界にも販売販路を見出したいといいます。

日々、心臓に疾患を抱えている子どもの手術を執刀し、今回、この心臓パッチ『シンフォリウム』の開発を「福井経編興業」に持ち掛けた「大阪医科薬科大学」の根本医師は、「小児領域開発には誰も来ない分野でした。

今子どもの数は少なく、ターゲットとなるマーケットシェアも小さいものです。リスクを考えると、ビジネスにならない。初めから聞く耳を貸さない企業も多くありました。こういう状況をなんとか打破しなければならないと、『福井経編興業』と『帝人』が手を挙げてくれました」と感謝を口にしました。

一方、「福井経編興業」と心臓パッチ『シンフォリウム』を共同開発した「帝人」グループは、「日本の患者さんだけではなく、世界で数多くの『先天性心疾患』の患者さんがこの心臓パッチ『シンフォリウム』を待ち望んでいるので、一刻も早く海外マーケットシェアも視野を検討したいです」と海外販路を見据えています。

衣料から医療へ、長年培った技術を活かし、異業業のフィールドの扉を開拓した「福井経編興業」は、異業種へのチャレンジを高木社長は、「日本や世界の子ども達を助けたい気持ちをとても抱いているので、心臓パッチ『シンフォリウム』が早く浸透して頂きたいです。

医療分野に進出したい強い意志も抱いています。どうしても他の企業ではできない、『福井経編興業』の経編という業界、技術の中で活躍できる場所があります。これからもどんどんチャレンジしていきたいです」と力強く宣言しました。

心臓パッチ『シンフォリウム』は、2024年6月12日(水)から、「帝人」傘下の大阪府大阪市にある帝人メディカルテクノロジーより、日本各地の病院で販売が開始されます。

参考:子どもの成長に合わせて伸びる新たな「心臓パッチ」負担軽減へ NHK NEWS  WEB(2024年)

この記事を書く前、

大変興味のある話題でしたが、「話が難しいので、最後の自分の感想を考えるのが難しいな」と思っていた時、先日NHKでこの心臓パッチを取り上げた番組の放送がありました。

全文は書けないので、この記事の本文に出て来なかった話を少し抜き出すと、

根本先生は、心臓の手術を終えても、これまでの心臓パッチでは伸縮性などがなく、再手術が必要で、親御さんからの「またこの子の手術を宜しくお願いします」という手紙を受けて、「この子たちの笑顔を奪わない様に、辛い手術をもう経験させたくない」と感じていました。

根本先生は色んな繊維メーカーに問い合わせをしましたが、「心臓はリスクが高すぎる」と言われて断られ続けて、偶然目に留まった新聞記事の「福井経編興業」に声をかけました。

福井県はかつて一大繊維の産地でしたが、安価な海外製品に押されて、廃業で倒産が相次ぎ、80年の歴史を誇っても、近年は洋服などの注文しか請け負っていなかった「福井経編興業」にとって、心臓パッチの開発は社運を賭けたものでした。

開発から数年後、おおよそ完成の試作品ができましたが、それは網目から血液が漏れ出す欠点があり、そこで頼ったのが「帝人」で、「福井経編興業」と、「帝人」の技術によって、心臓パッチ『シンフォリウム』は開発されました。

ここからは参考文献にも出てくる話ですが、2019年に臨床試験(治験)が始まり、1例目の手術は岡山大学病院で行われました。

第1例の男の子は、ご両親が「何でうちの子が最初の事例なの?もし失敗したら…」と不安で、従来の手術を選ぼうとしましたが、「この子の心臓パッチを変えなくて済むなら、この治験に賭けたい」と思って、治験に臨みました。

治験には34人が参加し、1年の経過観察後、心臓パッチに問題はなく、再手術となったケースはありませんでした。

放送では後日談で、5歳になった第1例のご家族が紹介されていました。男の子は体重も増え、元気に兄弟と走り回り、のびのびと過ごしていました。

ご両親にとって、「誰も受けたことない手術の第1例というのはとても、引き受けるのに勇気のいること」です。それを僅かな可能性に賭けて、今男の子は元気に暮らしている。凄く良い話でした。

日本は昔と違い、海外のメーカーに吸収され、日本の企業だけの会社はかなり減って来ました。日本の良いところが失われつつある現代ですが、それでも「日本はまだまだ捨てたもんじゃないな」と、これからも続く希望を感じられた瞬間でした。

本当に、色んな出逢いが奇跡を生んだ、そんな貴重な瞬間をテレビで体験できたこと、本当に幸せでした。

参考サイト

noteでも書いています。よければ読んでください。

→HOME

心臓パッチ シンフォリウム

2 件のコメント

  •  『新プロジェクト X』を観ました。よく困難を克服されたものだと感心しました。
     映画『ディア・ファミリー』も、同様に町工場の社長の技術革新の挑戦がたくさんの命を救う結果を生み出した話で、
    医学界の権威主義との確執も描いていて興味深いものでした。

    • 堀田哲一郎様。
      コメントありがとうございます。本当に苦節10年だったと思います。心臓パッチは世界に誇れる技術だと思います。

      映画は私は公開初日に観に行きました。感動しました。先週から特に医療のニュースの記事を続けて書き過ぎたせいで、医療に携わっている人の様な目線で、人とは違う映画の楽しみ方をして観ました。

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    ABOUTこの記事をかいた人

    左耳感音性難聴と特定不能の発達障害(ASD,ADHD,LD全ての要素あり)、糖尿病、甲状腺機能低下症、不眠症、脂漏性皮膚炎などを患っているライターです。映画やドラマなどのエンタメごと、そこそこに詳しいです。ただ、あくまで“障害”や“生きづらさ”がテーマなど、会社の趣旨に合いそうな作品の内容しか記事として書いていません。私のnoteを観て頂ければ分かると思いますが、ハンドメイドにも興味あり、時々作りに行きます。2022年10月24日から、AKARIの公式Twitterの更新担当をしています。2023年10月10日から、AKARIの公式Instagram(インスタ)も担当。noteを今2023年10月は、集中的に頑張って書いています。昔から文章書く事好きです、宜しくお願い致します。