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こんにちは、翼祈(たすき)です。
「夫が震災で亡くなり、避難所に娘と身を寄せた。避難所のリーダー格の男性を含め複数の男性から性暴力に遭った。騒いで殺されても、性暴力を受けた後、海へと押し倒されて、亡くなったのは津波のせいにされる恐怖心があり、誰にも相談できなかった。『娘に被害が及ぶぞ』『断ったら避難所にいられなくなる』とも言われやむなく応じた」
「ボランティアを称する男から付きまとわれ、身体を触られた。避難所でも寝る時やトイレは絶対に1人にならない様に。必ず声を掛け合って一緒に行動して」
「授乳中にじっとその様子を見てくる男性がいる。妊娠中や産後の女性、赤ちゃんは特別なサポートが必要です。今すぐママ達に避難所での配慮をお願いします」
「段ボールで仕切ったスペースで身体を撮影された」
「東日本大震災で避難していた時、着替えようとしていたら、近付いて寄って来て、横たわる不審な人がいてとても怖かった。周囲の大人が注意してくれて、事なきを得た」
「夜寝ていると知らない男性が毛布の中に入ってきて性被害を受けた」
「ナプキンを貰いに行ったら、見ず知らず男がニヤニヤして話しかけて来た。下着や生理用品は周囲の目に付かない様に気を付けて、受け取って欲しいです」
これらは東日本大震災などで被災した女性が受けた、性暴力への証言です。
これらの性暴力は、「対価型(見返り要求型)の暴力」と言われており、失業する、震災や津波などで夫や家族を亡くす、家財を失うなど、弱い立場の女性にサポートする対価として、性行為を要求するというケースが相次いで報告されています。
今被害に遭った女性の実態調査が行われ、徐々に避難所での性暴力の実態も明らかになりつつあります。
今回は災害が起こり、避難所に身を寄せた女性の証言を元に、この性暴力について炙り出していきます。
熊本地震での性暴力のケース
地震から間もない16年4月下旬、熊本県内の指定避難所。避難者が寝静まった深夜、家族から離れた場所で寝ていた10代少女の布団にボランティアの少年が潜り込んだ。少女は服を脱がされ、体が固まった。助けを求める声を出せず、恐怖と痛みに耐え続けた。
少女の無料通信アプリLINEのやりとりを見て、被害に気付いた母親が警察に被害届を出したが、「明らかな暴行、脅迫があったと認められない」として強制性交等罪は適用されず、少年は不起訴になった。一方、民事訴訟では被害が認定され、全面勝訴した。少女の母は「地震直後の混乱のまっただ中で、娘が被害に遭うとは想像できなかった。娘の傷は一生消えない」と憤る。
引用:「娘の傷は一生消えない」避難所での性被害の闇 把握10件、相談できず潜在化も 熊本地震2年 西日本新聞(2018年)
東日本大震災で被災し、性暴力に遭った女性の心のケア「よりそいホットライン」
東日本大震災の発生から9年経過した2020年。2020年2月、「よりそいホットライン」という24時間の無料電話相談では、2013年から2018年の5年間に女性専用回線に寄せられたおよそ36万件の相談に関して内容をまとめました。まとめた結果、宮城、岩手、福島の被災3県からの相談の5割以上の女性が、性暴力に遭ったことに関する内容であることが分かりました。10~20代の若年層の女性の性暴力の被害も、全体の4割を超えました。
「よりそいホットライン」は、東日本大震災をきっかけに、2012年3月に色んな生活困難を持つ人たちの悩みに寄り添いながら、具体的な問題解決へと導くことが狙いで、開設されました。主な相談内容は、「人間関係」「心と身体の悩み」「家族の問題」「仕事の悩み」。相談者の全体の6割が女性で、その中でも、女性特有の相談として圧倒的に相談が多い内容が、レイプやDV、性的虐待など、性暴力の被害の話でした。
「よりそいホットライン」事務局長の女性Aさんによりますと、震災が発生した環境の変化などが背景にあるDVや性暴力の被害は、数年後も変わらず継続すると言います。性被害に遭った女性の中には、誰にも言えず、長い期間ずっと一人で苦しんでいる人が多くいて、東日本大震災から9年経過してから、ようやく苦しい胸の内を話したいと相談の電話をかけてくる人も多いとします。
そうした現状を重く捉え、「よりそいホットライン」事務局長の女性Aさんは、「別のエリアで災害が発生する度に、その情報やニュースが目に入り、性被害を遭った経験を思い出し、恐怖や不安から不眠やフラッシュバックに苦しむ女性もいて、電話相談が倍増する傾向が起こっています。『よりそいホットライン』の窓口では、相談内容に合わせて警察や民間サポート団体・病院を紹介したりなど、関係機関の横繋がりを強化して対応していますが、これから先は、子ども達や女性が『震災弱者』に陥らない様に、日々の暮らしの中から社会全体が暴力を根絶しようと活動することが大事だと考えています」と、これから後の対策の必要性を訴えています。
参考:災害時の性被害 東日本大震災で見えてきた被災地の声【vol.58】 NHK(2020年)
「災害発生時の子ども達や女性に対する暴力」の実態調査に参加した静岡大学教育学部・同総合防災センター教授の女性Bさんは、「災害が発生した時は、普段の時の社会的構造の問題が顕著に表れる」と懸念します。その上で、海外では、早くから災害時の性暴力の実態に関して研究や調査が加速し、具体的な対策が取られてきましたが、その一方で日本においては、東日本大震災の発生まで、具体的な議論がほとんど行われて来ませんでした。
災害の発生時は、所得や雇用などの経済的格差が拡大した上に、子育てや介護などの役割を担当することが困難な状況も加わり、弱い立場にいる人たちがますます立場が弱くなります。誰かに依存し続けなければ被災の状況下を生き抜いていけない人々には子ども達や女性が多く、その立場の格差が、性暴力に発展する余地を孕んでいます。
「どんな性暴力事件が、どこで、どんな状況で遭ったのかを詳細に理解することは、具体的な対策に繋げるために非常に重要な対応です。災害に強い社会を構築するという意味でも、今後の大きな教訓が生み出せたのが、東日本大震災ではないかと思います」
と説明しています。
性暴力は許さないー、注意喚起のポスターを避難所に掲出
画像引用・参考:熊本市男女共同参画センターはあもにい
兵庫県神戸市にあるNPO法人「ウィメンズネット・こうべ」の代表理事の女性Cさんと国内外の専門家らで設立した「東日本大震災女性支援ネットワーク」が、直接性暴力を目撃した人や性暴力被害の相談を受けた人たちから回答された82件の中で、夫や交際相手によるDVが45件、それ以外の人から受けた性暴力は37件となりました。性暴力に遭った被害者の年代は5歳未満から60代以上までとなり、中には小さい男の子もいました。
暴力の根幹にあるものは、相手を落とし入れ、思い通りに操り人形にすることで優位な立場に立ちたいという「支配欲」からでした。日本福祉大学の教授で性暴力被害者支援看護師(SANE)の女性Dさんは「災害が発生すると心身共にストレスがかかり、自分より立場の弱い人に支配欲が向けられます。普段から誰かを支配したいと思っている人はこの行動に拍車がかかります。子ども達が性暴力を話しても信用されないだろう、中高年の女性だったら恥ずかしくて被害に遭ったことを相談しないだろうと、見落とされる状況を熟知した上で犯行に及びます」と述べています。ボランティアの女性が性暴力に巻き込まれることもあるといいます。
「災害が発生している時に性暴力を起こすわけがない、という社会の誤った認識があります」とも危惧します。実際に1995年に阪神・淡路大震災が発生した時には、性暴力を訴える声に「デマを言うな!」といった批判が出て来て、長い間被害の実態が語られませんでした。
性暴力から身を守るにはどうすれば良いのでしょうか?「まず、避難所に男性ではなく、女性のリーダーを配置することが重要です」と語るNPO法人「ウィメンズネット・こうべ」の代表理事の女性Cさん。例を挙げるとトイレの設営では、東日本大震災が発生した時も他人から分からない鍵のないトイレや校庭の隅にあって、怖い想いを抱えて過ごした女性は多かったといいます。「女性が避難所の運営に携わると、明るく安全な避難所にしようという発想が持てます」。そうなるためには日々の暮らしで、避難所の組織運営が可能な女性を地域で育成することがキーとなります。
・人目につかない、暗がりの場所への照明を設置すること
・入浴施設やトイレなどは安心できる環境にすること
・間仕切りやついたてでプライバシーを確保にすること
・性暴力を許さない意識作りを地域全域でシェアすること
・電話やメールなど性暴力の被害状況を相談をしやすい体制の構築すること
・女性だけの世帯のエリアを設定すること
・性暴力・DV防止に関連するポスターなどの避難所に掲示すること
同様の性暴力の被害が繰り返されないためにはー。専門家などが集まり調査チームが作成した報告書には、具体的な対策案や提言が次の様に盛り込まれ、国へ伝達されました。
・プライバシーの保護など避難所での暮らしの改善
・災害が発生した直後からの性暴力防止の啓発・相談サポートの充実
・災害と防災対策での女性を参画し男性との協働をすること(意思決定の場のジェンダー平等)
・性暴力被害者へのサポート・連携体制を完備(警察・行政・病院・女性サポートセンターなど)
「性暴力は断じて許さない」という意識を、お住まいの地域住民みんなが意識をシェアすることも大事なポイントとなります。2016年の熊本地震では地震が発生してすぐ、東日本大震災の実態調査をベースに、性暴力に関しての注意喚起を促すポスターが避難所などに掲示されていました。
参考サイト
避難所でのぞきや性被害の危険…SNSで女性や子どもに注意呼びかけ 読売新聞(2024年)
被災地での性加害「ためらわずに相談を」支援団体が呼びかけ NHK NEWS WEB(2024年)
内閣府の性被害相談ダイヤル【#8891(はやくワンストップ)】
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、プライバシーが守られない避難生活が持続し、女性たちなど立場が弱い人への性被害も危惧されています。避難所での性加害防止に努める支援団体は、内閣府の性被害相談ダイヤル【#8891(はやくワンストップ)】を利用することを発信しています。
大学教授などで構成された「東日本大震災女性支援ネットワーク」が行った実態調査結果によれば、加害者と被害者が共に災害の被災者なことから被害を訴え出づらく、被害者が泣き寝入りする事例も多いとします。
内閣府の【#8891】は、相談者の最寄りの支援センターに繋がります。法律支援や医療的支援、また相談を通じた心理的支援などが相談可能です。
内閣府の関係者は「被害者は気持ちを押し殺さず、災害発生で緊急時だからこそ声を挙げて頂きたいです」と説明しました。
北陸では石川県の「パープルサポートいしかわ」が、富山県の「性暴力被害ワンストップ支援センターとやま」で性被害の相談に対応しています。
「とやま」のセンター長の女性Eさんは、「災害発生時は心身のケアを後回しにしがちです。性被害を受けている可能性がある人が避難所にいた場合、最寄りの相談窓口を相談して頂きたいです」と警鐘を鳴らします。
参考:【相談窓口】性犯罪・性暴力の電話ダイヤルは#8891(はやくワン)! NHK(2020年)
災害時に性暴力から身を守るために、それ以外の課題
「同じことが何度も繰り返されています」と女性の防災士として20年以上取り組む兵庫県尼崎市に住む女性Fさんは以前、防災リーダーの集会で「勉強会を開きたい」と提案しました。すると男性の防災リーダーから「そんなことは自分だけですべきだ」と拒否されました。
災害に遭った被災者には男性も女性だっている中で、訓練や防災会議の参加者は男性だけで開かれます。防災士の活動中に意見を話そうとしても「なんやこの女の人が‼︎」という冷たい視線を感じることがあるそうです。
被災者サポートには女性の参加が足りないと防災士の女性Fさんは感じています。「平常時から誰もが意見を出し合える環境を整えないと、災害が発生した時には何もできません」と懸念しています。
阪神・淡路大震災が発生した時でも「ブラジャーがLサイズしかない」「生理用品が避難所の真ん中に置いてあって取りづらい」「仮設住宅や避難所で性暴力に遭った」という女性からの悲痛な訴えを聞きました。
また、女性専用の相談窓口の設置がある「NPO法人ウィメンズスペースふくしま」の副代表理事の女性Gさんによりますと、災害が発生した時の女性特有の暴力相談や悩みは2012年度に2000件を超え、2021年度まで毎年100万件前後の相談が届きました。避難所でプライバシーに配慮がないという声以外にも、周囲に馴染めず孤立した、などの訴えが多く届きました。
私が今心配しているのは、2023年5月5日に発生した石川県の地震です。あの日はGW、多くの観光客も集まっていた昼間に起きた、震度6強の地震。その後も夜になっても震度5強だったり、次の日になっても余震で揺れ続けています。
まだ地震発生から日が経っていないこともあり被害の全容が分かりませんが、これから避難所も開設されるでしょうし、GWで観光客も多かった分、今までの地震とは違う、地元の人以外に被災された方も多かったことでしょう。
余震で不安に感じている人も多い中、この記事では災害時の性暴力について書いていきました。この石川県の地震は余震の回数も多く、悩んでいる人も多い中で、性暴力という卑劣な行動が起こらないことを願うしかありません…。
追記。この記事は2023年5月6日に書きましたが、2023年5月20日に地震が大きかった石川県珠洲市内の避難所は、仮設住宅に移るなど避難している人の住まいが見つかり、全て閉鎖されたとその後の記事に書いてありました。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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