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ピアサポートとは
皆さんは、「ピアサポート」という言葉を聞いたことはありますか?初めて聞いたという方もおられると思います。まだ、耳慣れない言葉ですが、日本では、1990年代以降にさかんに使われ始めるようになったと言われています。
「ピア(peer)」とは、同じような立場や境遇、経験などを共にする人たちを表す言葉です。同僚、同級生、仲間、友人、対等者などの意味を持ちます。
「ピアサポート(peer support)」とは、このように共通項と対等性を持つ人同士の支え合いを表す言葉です。
“障害領域における 「ピアサポート」に関しては、「障害のある人生に直面し、同じ立場や課題を経験してきたこと を活かして仲間として支えること(岩崎,2017)」という定義がされています。“
身体障害者の自立生活運動から始まり、知的障害、精神障害の分野でも定着し始めています。全国の地方自治体で広まりつつあるピアサポート、特に精神障害のピアサポートについてできるだけわかりやすくご紹介していきたいと思います。
ピアサポートの始まり
全国に精神障害ピアサポートが拡がる大きなきっかけは大阪府から始まりました。「社会的入院解消事業」として「大阪府退院促進事業」が 2000年に始まり、同年 8 月より「退院促進ピアサポーター事業」が 4 事業所から開始されました。そこで当事者としての体験を生かした人が自立支援員として雇用されることになりました。
2003年には、全国で国のモデル事業として精神障害者退院促進支援事業が始まり、2004年には北海道や長野県などが「ピアサポーター」として自立支援員を 雇用するようになりました。
2006年に国の事業として始まると、さらに全国的に「ピアサポーター」が支援員として活用されるようになりました。
ピアサポーターの専門性
「当事者としての経験」「リカバリーの経験」
精神疾患のある人が誰でもピアサポーターになれるのか?というとそれほど単純なことではないようです。当事者としての経験が土台や基盤になることは間違いありませんが、その経験を大まかに分けると、症状によるしんどさなど病気そのものの経験、医療や福祉を利用することから生じるユーザー経験(入院経験や作業経験)、仲間同士のピアサポートの経験などです。
そして、重要なのが「リカバリーの経験」があるかどうかです。
リカバリーとは、当事者としての経験を通じて人生を主体的に生きることを取り戻すことやその過程をいいます。仲間同士のピアサポートや家族や支援者など第三者のサポートを受けるかどうか自分で選びつつ、人生をやりくりしていくという過程(プロセス)です。
もし、リカバリーの実感がまったくなければ、当事者としての経験を否定的なものとして捉え、病気からの医学的な回復に焦点をあてて しまいかねません。
ピアサポーターが基盤とする経験とは、病気そのものの経験はほんの一部にすぎず、病気からの困難からもたらされる人生経験も含まれていて、むしろ後者が とても大切だということになります。
人は誰でもリカバリーできる!!
ピアサポーターの専門性の一つは精神疾患があっても誰でもリカバリーできるのだと信じることです。なぜなら自分がかつてそうだったようにピアサポーター自身がその証拠になり得るからです。
そして、先ゆく先輩としての役割、ロールモデルとして病気を抱えながら働くことのリアルを伝えることが重要になります。また、病気を抱えながら生活していくために日々している工夫ーセルフケアの仕方を言語化して伝えることが求められます。さらに、制度やサービスをユーザー目線で眺めることによって、「もし自分が利用するならば」という視点で、就労系事業所を選ぶ際に就労率や就労定着率などの指標だけでなく、利用者や休憩時間の雰囲気、職員の言葉使いなど、自分が使っても良いと思える事業所を勧めるなどの対応も求められます。
ちなみに本サイトakariの記事の中には、障害当事者であるライターたちのリカバリーストーリーやセルフケア方法、制度やサービスを実際に利用してみた体験談などの記事もあります。興味のある方は検索してみてください。
チームワーク
見えるところ 生活・環境面の支援 「専門的知識」
社会資源とつなぐ
見えにくいところ(心の中) 「体験的知識」
専門職による支援では得難い安心感や自己肯定感が得られる
専門職に見守られながら、ピアスタッフとリカバリーストーリーを話し合います。思いをを吐き出すことで苦しいこともあります。でも、人に話したい。それををくり返えすことで、自分のストーリーを見直すことができ、主観的だけでなく客観的に過去の経験を振り返ることができます。それにより、だんだんと苦しみに整理がつくようになり、絶望感が薄れていく、という体験を経験していくこと、リカバリーストーリーを語ることがピアサポートには重要だと考えられます。専門職との恊働は必要不可欠であり、他の職種とチーム支援の一員になれることがピアサポーターの特徴です。
ピアサポーターの業務・効果
ピアサポーターの主な業務にこのようなものがあります。
ピアサポーターの支援により、以下のような効果・安心感を得ることができます。
ピアサポートの専門性の評価
令和2年度にこのように検討されます。
(加算要件)
○ 加算については、以下のすべての要件を満たす場合に算定する方向で検討してはどうか。
1ピアサポートの専門性の確保の観点から、事業所において直接的にサービスを提供する障害当事者である職員が「障害者ピアサポート研修」のうち「基礎研修」及び「専門研修」を修了していること
2ピアサポートの適切な活用及び配慮の観点から、事業所の管理者又は障害当事者以外のサービスを提供する職員が「障害者ピアサポート研修」のうち「基礎研修」及び「専門研修」を修了していること
3事業所全体の支援の質の向上を図る観点から、研修を修了した障害当事者である職員や管理者等が、事業所内の他の職員に対する研修の実施等を行うことにより、事業所全体として障害者の立場に立った効果的な支援につなげること
令和3年度、以下のように提案されます。
ピアサポート体制加算とは、一部の障害福祉サービス事業所(※1)で働くピアサポーターが所定の条件(※2)を満たす場合、事業所に100単位/月が加算されるという制度で令和3年4月1日より始まりました。
※1:加算の対象となった一部の障害福祉サービス事業所:
加算の対象となった一部の障害福祉サービス事業所とは、自立生活援助、計画相談支援、障害児相談支援、地域移行支援、地域定着支援の5事業と、加えて就労継続支援B型については、新しく導入された「利用者の就労や生産活動等への参加等」の報酬体系の事業所が加算の対象とされます。(ピアサポート実施加算)
※2:所定の条件を満たしたピアサポーター:
所定の条件を満たしたピアサポーターとは、令和2年度より厚生労働省が創設した「障害者ピアサポート研修」(実施主体は都道府県および政令指定都市)をピアサポーター、およびその管理者、もしくは同事業所職員が修了することとしています。
ただ令和2年度は全国で1か所も実施されなかったこともあり、令和6年度末までは経過措置として算定要件を緩和し、都道府県、または市町村が上記研修に準ずると認める研修を修了したピアサポーターとしています。
そのほか、常勤換算で0・5人以上の雇用や、職員研修として障害者に対する配慮等に関する研修を年1回以上行うことや、ピアサポーター雇用を公表していることが条件とされています。
ピアサポート専門員になるには
このような流れで取得できます。
ピアサポート研修
ピアサポート研修は基礎研修、専門研修、フォローアップ研修とあり、このような内容になります。
ピアサポート専門員は、ボランティア、プロボラとは違ってこのような特徴があります。
終わりに
ピアスタッフとして正規に雇用される人も増え始めましたが、全国的にはまだまだ少なく、多くの人が、その処遇はボランティアであったり、謝礼金程度だったり、活動にあたっての考え方や配慮すべき事項が整理されていないのが現状です。その結果、当事者同士や事業者間のトラブル、労働安全衛生上の問題等が生じることが懸念されます。
まだまだ発展途上のピアサポートは、問題点・注意すべき点はたくさんあります。けれども、厚労省は、「利用者と同じ目線で相談・援助することで、利用者の自立に向けた意欲の向上や地域生活の不安解消に効果が高い」と評価しています。
本腰を入れて制度の整備が始まってきています。興味のある方はぜひご自分でも調べてみてください。
参考サイト
「精神障がい者ピアサポート専門員養成のためのテキストガイド」第3版.pdf
令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容(案) 令和3年2月4日
ピアサポートの専門性の評価について(横断的事項) ≪論点等≫
一般社団法人 日本メンタルヘルス ピアサポート専門員研修機構
COMHBO地域精神保健福祉機構 ちょっと知りたい!ピアサポート体制加算
ピアサポートについては以下の記事にも書かれています。興味のある方はご覧ください。
就労継続支援A型・B型事業所の2021年度障害福祉サービス等報酬改定のポイントを解説
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