「そろそろ家に帰らせていただきます」〜認知症 夕暮れ症候群の対応法〜

夕暮れ症候群

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はじめに

認知症の母は夕方になると怒りっぽくなります母曰く、日が暮れるとなんとなく気分が優れなくなるようです。どこか悪いの?どこか痛いの?と聞いても具体的には答えません。

日本全国、世界各国の認知症ケア病棟や施設の中でも、夕方になると「そろそろ家に帰る」と言い張るお年寄りたちとそれを押し留めようとする施設職員との攻防戦が毎日のように繰り広げられています。

日中穏やかに過ごしていた人も、夕方近くなると少しずつ落ち着きがなくなり、徘徊独り言が始まり、ときには興奮して叫び出すという光景もしばしば見られます。

このように夕方から夜間にかけて認知症患者が不穏になる現象を「夕暮れ症候群 Sundowning syndrome」と呼びまた、「日没症候群」や「たそがれ現象」などの別名もあるようです過去の幾つかの調査では認知症高齢者の少なくとも10%以上で認められると推定されています。

 

メカニズム

実は、夕暮れ症候群のメカニズムはよくわかっていません。しかし、夕方から就寝時間にかけて脳の覚醒度が低下することが一因ではないかと考えられています。

認知症患者覚醒度を高める脳神経核の機能が低下するため、夕方6時ごろから眠気が強くなってしまうことがあります。

軽い眠気が生じただけで注意力や集中力が大幅に低下し、周囲の状況を理解できなくなり、自分の部屋や、トイレの場所がわからなくなったり、そのことに困惑して徘徊してしまったり、昼間には施設職員の顔を朧げながら認識していた人も、夜になると顔が識別できなくなり、介護に抵抗するようになったりします。

さらに周囲が暗くなることで不安が強まり、「家に帰る」と言い出して落ち着かなくなったりします。

夜間にトイレに目が覚めたとき、若い頃と違ってしっかりと覚醒することができず、中途半端な覚醒状態で朦朧としてしまい、徘徊してしまうこともある。

夕方に「せん妄」が多いことはこの限りであるようです。

せん妄とは、

幻覚、妄想、興奮、失見当識(見当識というのは、現在の年月や時刻、自分がどこに居るかなど基本的な状況把握のこと。それが失われた状態)を起こしている状態です。簡単に言うと「軽いパニックを起こしている状態」「周囲の状況が飲み込めず混乱している状態」です。

引用 沼田クリニック 夜に、家の中を歩き回ったり、独り言を言ったりするときは

 

認知症の方たちは、「しっかり目覚める」と「ぐっすり眠る」の境界領域をいったりきたりとさまよってしまうことが多く、眠気に応じて症状が夜間に悪化したり、日中に回復したりするため、周囲から見ると1日の中でも、いわゆる「ボケの具合」に大きな変化があるように感じられ、夕暮れ症候群もこのような眠気の日内変動に関連して現れる現象の一つと考えられています。

もちろん、夕暮れ症候群を全て眠気だけで説明できるわけではありません。

一般的な生活の中でも、夕方は晩ご飯の用意を始めたり、帰宅したり、何かとあわただしくなる時間帯です。それゆえに、認知症の方たちも「いつまでもここにいていいのかしら?」「何かしなくてはならないことがあるのではないかしら?」と、落ち着かない気持ちになってしまうのだと思われます。

私も社会福祉士を取得する際に行った実習先の施設では、特に女性の認知症の方たちが勝手にエレベーターで1階に降りてしまい、家に帰ろうとされるというお話を聞きました。

家族のために食事を作り続けてきた彼女たちの習慣はそう簡単には消えることはないようですその実習先の施設では鍵を二重三重にかけ、外に出て行かれないよう対応されていました。


 

対応法

 では、このような夕暮れ症候群具体的な対応方法をいろいろ調べてみましたのでご紹介します。

好きなこと・得意なことをしてもらう

ご本人が好きなことをしていたり、夢中になっている時には「夕暮れ症候群」は起こりにくいらしいとのことです。

なるべくこの時間帯に合わせて、ご本人の好きなこと、得意なことをしていただけるよう、一日の予定を組んでみましょう。

例えば、ご本人が若い頃から慣れ親しんだ趣味や、趣味がない方なら現役でされていたお仕事の一部を再現してやってもらうなどをしてみてはいかがでしょうか?

私の母は折り紙数独にはまっていました。私の知り合いの方は元税理士さんで伝票をそろばんで計算すると気持ちが落ち着くそうです。

 

会話のなかにご本人を加える

夕暮れ時は誰でも物悲しい気持ちになる時間帯です。認知症の方も同じです。周囲が夕飯の支度や、帰宅のために慌ただしくなっているさなか、ひとりだけポツンと放っておかれるとことのほか疎外感を感じてしまいます。介護者は用事をこなしながらでもいいので積極的に話しかけてください。会話の内容は必ずしもご本人と関係なくとも、語尾に「ねぇ、お母さん」などと付け加えるだけでも一体感を感じます。私の母も寂しくなると物取られ妄想がひどくなる印象があります。

いくつ歳を取ろうとも、見栄っ張りなところがあるのが人間です。「髪切りました?」とか「今日のお洋服は素敵ですね」外見のことをお話ししたり、「今日は雨が降って寒いですねー」とか天気のお話をしたり、いま現在起きていてお互いに共感を呼ぶ事柄などを話したりすると気持ちが落ち着いてくることもあります。


 

軽食やおやつを食べてもらう

夕方、お腹が空いてくると気分がソワソワしてくることもあります。お茶やお菓子、おにぎりなど少しおなかを満たしてもらうと気分が落ち着いてくることもあります。さらに、介護者も一緒にゆっくりとお茶を飲んで同じ時間を共有してあげると気持ちが和らぐようです。


 

照明を工夫する

就寝時刻が近づくまでは室内の照明は明るい方が良いでしょう。夕日にはブルーライト成分がほとんど含まれていません。ブルーライト成分が多く含まれているLEDなどの人工照明を使って明るい光を浴びることで、即座に脳波活動を高めて覚醒度を上げることにより、夕暮れ症候群を治療的に抑える効果も期待できます。


 

徘徊への対応

徘徊とは、あてもなくうろうろ歩き回ることとされています。

徘徊」という言葉には本来悪い意味は含まれていませんが、実際に使用される「徘徊」には認知症の方に対する偏見が含まれている場合があります。

認知症の方がうろうろ歩き回ってしまうことは、ご本人なりの目的がなにかしらあります

それゆえに「徘徊」という言葉を使用せず、「ひとり歩き」などの言葉に言い換えている地方自治体が増えています。

行動や言動を否定しないで傾聴する

「なぜ歩いているのか」と理由を尋ねるなど、本人の気持ちに寄り添って傾聴しましょう。ただ単純にトイレや部屋を探していることもあります。なにに困っているのかよく聞き取り、安心してもらってから「帰りましょう」と声かけすると納得されることもあります。

気をそらせる

例えば、自宅を自宅と認識できずに「早く家に帰らないと」と思い、自宅を出て行こうとするケースで考えてみると、「それならお迎えが来るまでお茶を飲んで待ちましょうか」など、他の行動に気が向くようにし、徘徊しようとしていた理由を忘れて、気持ちが落ち着く場合もあります。

無理にとめずに歩かせる

徘徊を無理にとめず、一度出かけて近隣を歩き、自宅へ誘導する方法もあります。介護者が一緒に外を歩けば適度に疲れが溜まって自然と徘徊する範囲も最低限に抑えられるでしょう。

速やかに警察に届けを出す

認知症に対する家族の「」の意識が捜索の足かせになることがあります。自力でだけで捜索を行い、結果手遅れになってしまうケースもあります。速やかに警察に通報しましょうさらに、地域包括支援センター、担当ケアマネージャー利用している介護サービス事業所に連絡しておくと良いでしょう。これらのスタッフは認知症の方に慣れており、徘徊時の捜索のコツや対策法を心得ていることが多いからです。

認知症の方の行方不明はありふれた出来事としてとらえる人が増えており、地域との連携が当たり前、お互い様の時代になってきてます。たくさんの人の協力を仰ぎましょう


 

終わりに

 以上、参考になったでしょうか。

夕暮れ症候群の対応には根本的な解決方法は残念ながらありませだましだましやっていくしかありません。だからといって、介護者が疲れ果てつぶれてしまってはなによりいけません。あらゆる人々に正しい知識を理解してもらい、周囲の人全員が認知症サポーターになってくれる社会を私は望みます。

ひとりで歩いているお年寄りを見かけたら声をかけてみてください。もしかしたら、家に帰ることができず困っているかもしれません。あなたのお力が必要です。



参考サイト:

NATIONAL GEOGRAPHIC 第101回 睡眠と認知症と「夕暮れ症候群」

相談e-65.net 夕暮れ症候群

学研cocofump  徘徊とは|ご老人に多い原因・理由や予防・対策法まで紹介!

LIFULL  介護 認知症による徘徊―その原因と対応方法



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2 件のコメント

  • 映画『折り梅』のラストシーンにも、同様の対応が描かれていますね。こちらのサイトに、その他の対応も含めて、映画の分析がなされています。https://commulabo.com/colums/cinema_therapy/oriume_2nd.html

    • 堀田哲一郎様、最後まで記事を読んでくださりありがとうございます。

      ご紹介していただいたサイト拝見させていただきました。
      「祈り梅」という映画の存在を初めて知りました。認知症の方の性質がとても丁寧に描かれており、大変参考になりました。私の母と共通するところがあり、そして、まだ知らなかった情報もあり、私の母も将来的にはそのような段階で症状が進行するのだなと覚悟することもできました。
      このような良質な映画がもっと広まり、認知症患者への理解が浸透することを切に願います。

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