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1.はじめに
日本の電子政府推進者の中には、「エストニアの事例は参考にならない」という人もいます。確かに、日本とエストニアでは人口も全然違いますが、しかし、膨大な数を多く処理するというものは、そもそもICT(情報通信技術)が得意とする分野です。
一方で、日本においてもマイナンバー制度の導入、地方公共団体の情報システムの集約と共同利用を進めるための「自治体クラウド」の構築や、信頼性の向上を目指した電子行政オープンデータ戦略などが進められています。しかしながら、日本のICT推進事業が、統一的かつ長期的視野に立った活動であると言えるでしょうか。
日本の電子政府推進の問題点は、どのようなICT社会を、「何のために」、「どのような方法で」実現しようとしているのか、国民の理解ができていないからかもしれません。そのような中で、マイナンバー制度だけがとくに進められたため、この制度に対する不安や疑念が生じているように思えます。
2.ICT推進のために
ICT推進計画を立てるにあたって国民の理解を得るためには、政策の一貫性と徹底した情報公開が必要です。エストニアでは、政権が変わってもICT推進にかかわる方針が一貫して取られたことが、成功の要因ともいわれています。エストニアでは、7年計画を立てて、その中で予算案を作成しています。そして国民の理解を得られるシステムづくりを常に心がけています。
またエストニアでは、長期計画を公開するとともに、毎年の進捗状況を「年鑑」としてまとめ、インターネット上で公開してきました。これにより、国民はICT推進の計画・予算と進捗状況を知ることができます。関連する法案も公開されています。
3.ICTゼネコン
日本では、「ICTゼネコン」という言葉があります。これは、日本のICT業界の企業構造が建設土木業化に似ている構造を揶揄した言葉です。日本のICT業界か官公庁のシステム開発を受注し、中小零細企業がその仕事を請け負う構造ができあっがていて、日本のICT推進が妨げられているといいます。これを打ち破るためには、国の組織の中に、ICT会社と同等以上の人材を確保する必要があるといいます。そして、その組織に必要な役割は、以下の通りです。
1.各省庁、自治体から出されたシステム構築計画書について次の観点からチェックを行 い、施行の判断をする
・政府の方針に合った進め方をしているか。
・相互運用性は守られているか。
・既存の類似システムはないか。
2.納品物に関して、適切にユーザーに利用されているなどについてのフォローを行う。
マイナンバーカードの普及についても見直しが必要かもしれません。エストニアのeIDカードのように、健康保険証、自動車免許証、年金手帳などを共通して扱う事ができる方式に改める必要があります。さらに、モバイル時代に対応し、スマートフォンで利用もできる機能も求めれます。
4.ICT社会実現のために
最後に、ICT社会実現のための、革新的な技術が普及するために必要な5つの特性をご紹介しましょう。社会学者のエベレット・ロジャースが1962年に出版した書籍「イノベーションの普及」において、新しいアイデアや技術が社会になぜ普及したりしなかったりするかや、そしてどのように普及するかを、以下の5つの特性に分類しながらまとめました。
1.比較優位:従来のアイデアや技術と比較した優位性。
2.適合性:その個人の生活に対しての近さ
3.わかりやすさ:使い手にとってわかりやすく、易しいものが普及しやすい
4.試用可能性:実験的な使用が可能だと、普及しやすい。
5.可視性:その技術を採用したことが他者に見える度合い。
参考
エベレット・ロジャース(2007)『イノベーションの普及』翔泳社.
ラウル・アリキヴィ・前田陽二(2016)『未来型国家エストニアの挑戦 電子政府がひらく世界』インプレスR&D.
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