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こんにちは、翼祈(たすき)です。
この記事のテーマは「不育症」なのですが、まずその説明をします。
「不育症」とは、妊娠しますが、2回以上流産・死産した既往歴がある時を「不育症」(recurrent pregnancy loss)と呼ばれています。今の法律では、妊娠反応のみ陽性で赤ちゃんの胎嚢が子宮内に確認されないまま、それから生理になる生化学妊娠に関しては流産回数には含めません。既に赤ちゃんがいるお母さんでも、2回以上の流産・死産した既往歴がある時には(流産・死産が連続していない時も)、「不育症」に含まれます。
また、流産・死産歴が2回未満でも次回妊娠で流産・死産はハイリスクで、原因解析のきっかけになる状態も「不育症」として治療対象になります。流産を繰り返す「習慣流産」や「反復流産」も「不育症」に含まれます。
「不育症」の頻度に関して、厚生労働省の班研究によりますと、2回以上の流産・死産の既往歴がある人は4.2%(40人に1人)で、3回流産の流産・死産の既往歴がある人は0.88%です。このことを受けて計算していくと、「不育症」は毎年3万人の日本の女性で起きている病気だと推定されています。
日本、ヨーロッパ、アメリカでは2回以上の流産・死産を経験すると「不育症」と診断され、原因を解析することを推奨しています。また1人目を正常に出産できても、2人目、3人目が続けて流産・死産になった時に、「続発性不育症」の疑いで検査を促し、治療を実施するケースがあります。
「不育症」のリスク因子で最も頻度の高いものは、胎児の染色体異常です。それ以外の要因には、血液凝固異常、抗リン脂質抗体、子宮形態異常、夫婦染色体異常、甲状腺異常などがあり、検査を受けても原因不明なままの人もいます。
今回は「不育症」になるリスク因子、検査方法、治療法、天使ママ、死産などでも産休取れますなどの話を多角的にしたいと思います。
▽流産しやすい確率
画像引用・参考:不育症/富山大学産婦人科
流産・死産は、妊娠しても10〜20%で起きます。
女性は35歳以上になると流産・死産する確率が高くなり、40歳で妊娠した時には流産・死産する確率は40~50%以上、45歳になると90%以上になります。40歳以上では、一般的な染色体異常が原因で2回続けて流産することは、決して珍しくないことです。
近年、妊娠・出産数が減少した反面、妊娠する女性の高齢化により流産・死産率は増加傾向です。
「不育症」は、決して珍しい病気ではありません。
▽リスク因子
画像引用・参考:不育症 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ(2021年)
◉子宮形態異常
画像引用・参考:不育症について 竹下レディスクリニック
「不育症」のリスク因子となる子宮の異常には、形態異常という先天性と後天性があります。1番知られている子宮奇形(先天性子宮形態異常)は、子宮の内腔に中隔子宮があることです。検査方法には子宮卵管造影やMRI、子宮鏡検査などがありますが、3D超音波検査でも正確な「不育症」の診断が可能となりました。
後天性の子宮形態異常には子宮腺筋症や子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腔癒着症などがありますが、それが「不育症」や流産・死産の原因になっているかどうかは専門的な診察を受けることが必要と言えます。
◉抗リン脂質抗体症候群
自己抗体の抗リン脂質抗体は、流産・死産や血栓症を誘発させる病気です。抗リン脂質抗体症候群を疑う時には、①3回以上の初期流産、②妊娠中毒症(重症妊娠高血圧腎症)、③1回以上の妊娠10週以降に原因が分からず、流産・死産などが起きたことで早産、低出生体重児出産の既往歴がある人です。
こうした時には抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体IgG、ループス・アンチコアグラント、抗β2GPI抗体、IgMなど)に関連しているかを解析します。抗リン脂質抗体症候群では次に妊娠した時に、「不育症」の治療として低用量アスピリン・ヘパリン療法を実施します。
◉夫婦染色体異常
染色体は細胞の核内にあるので、DNAが格納されている構造体であって、カップルのどちらかに染色体異常があると流産・死産を繰り返す時があります。「不育症」で問題に浮上する染色体異常は転座などの染色体構造異常です。この時は、DNAの総和には全く問題がないことを受けて、健康に差し支えることはないですが、妊娠を希望したい時のみ問題が発生します。
検査は血液検査でカップルのどちらも解析します。染色体異常が発見されても、染色体自体を完治させることはできませんが、近年では体外受精を受けて、受精卵の染色体検査を実施することで、流産・死産の確率を下げる着床前検査(PGT-SR)が実施されています。
◉血液凝固異常
妊娠をすると血液は固まりやすい状態になりますが、元々血液が固まりやすい気質「血栓性素因(プロテインS欠乏症、第XII因子欠乏症、プロテインC欠乏症など)」があると、流産・死産を始め、妊娠合併症の原因になると想定されています。先天的に血栓性素因がある時と、凝固因子に対する抗体ができる後天性の血栓性素因の2つに分類されます。
◉内分泌代謝異常
糖尿病、甲状腺機能亢進・低下症では流産・死産のハイリスクとなります。妊娠前から妊娠中にかけて、良好な健康状態を維持することが妊娠する上で重要です。
血液検査でこれらの病気による異常が発見された時には、内科医の協力を仰ぎながら治療を受ける必要もあります。
◉胎児染色体異常反復
「不育症」のリスク因子を系統的に実施しても原因の特定が不可能なケースは少なくありません。厚生労働省の研究班やAMED研究班の実態調査では、60〜70%が異常所見はなかったという総括となりました。
これらはこれまで「原因不明」とされてきましたが、この中には受精卵(胎児)の染色体異常を繰り返している症例が多くの割合で含まれていることが判明しました。特に近年女性の妊娠年齢高齢化で、このリスク因子による不育症が増加傾向と想定されています。
◉その他
過度のカフェインやアルコール摂取、喫煙、肥満も流産・死産のハイリスクとなると想定されていますが、大きな要因にはなりません。
母体の高齢化も流産・死産のハイリスクです。加齢に伴い卵子も老化し、染色体異常などを生じやすくなります。
この様に流産・死産のリスク因子は人によって異なりますが、「不育症」の原因になったリスク因子が判明しない事例も多いことも現実問題です。
▽検査方法
◉一般検査:生化学・血算
採血で全身の健康状態を総合的に評価をし、「不育症」を誘発するものが有るか無いかを解析します。
◉子宮形態検査:3D/2D経腟超音波、子宮卵管造影、骨盤MRI、ソノヒステログラフィー
それぞれの画像検査で、双角子宮や中隔子宮などの流産・死産を誘発する子宮奇形が有るか無いかを解析します。
◉感染症検査:クラミジア、梅毒、AIDS、C型肝炎、B型肝炎、細菌性腟炎の腟分泌物が有るか無いか
腟分泌物の培養検査や採血で、早い段階で流産・死産、早産を誘発する感染症が有るか無いか、その上で胎児に感染する可能性を持つ感染症が有るか無いか解析します。
◉内分泌検査:甲状腺機能評価、低温期/高温期ホルモン、糖尿病/耐糖能異常が有るか無いか
採血で、黄体期の不全、高プロラクチン血症、糖尿病/耐糖能異常、甲状腺機能異常など、「不育症」を誘発する病気が有るか無いか解析します。
◉抗リン脂質抗体症候群:抗CL抗体、抗核抗体、抗PS/PE抗体、抗CL-β2GP1抗体、ループスアンチコアグラント
採血で、身体内にある蛋白質の1つである抗体が、自分の身体を攻撃して「不育症」を誘発して有るか無いかを解析します。「不育症」になるリスク因子でも珍しくない病気です。
◉血液凝固検査:PT-INR、APTT、Dダイマー、アンチトロンビン、フィブリノーゲン、血液凝固第XII因子、プロテインS/C
採血を受けて、「不育症」の原因になりやすい血栓を、胎盤内で作製されやすい病気が有るか無いか解析します。
◉染色体検査:カップルや流産検体の染色体検査
ロバートソン転座や相互転座など、DNAに存在する染色体の構造異常で、「不育症」を誘発して有るか無いかを解析します。
「不育症」以外の病気にも派生する、個人情報が含まれていることで、その取り扱いには十分注意を払わなければならず、検査を受ける前に、臨床遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医などの資格を所持する医療従事者から、カウンセリングを受けなくてはなりません。
◉ストレス検査:K6/K10スコア
K6やK10などのストレス評価検査を活用して、「不育症」があることでのストレスから、不安やうつ状態に陥っていないか解析します。
それぞれの検査で異常を認めなかった「不育症」の女性は、カウンセリングを受けることで、そのおよそ80%が正常妊娠に至るとの研究成果も出ています。
◉免疫学的検査:NK細胞活性、Th1/Th2比
赤ちゃんはお父さんのDNAも引き継ぎ、お母さんの身体は異物扱いです。
一般的に妊娠すると、お母さんの身体は異物である赤ちゃんをキャッチしますが、何らかの免疫異常が生じたことで赤ちゃんが異物だと誤診し、「不育症」を発症してしまう事例もあります。
そして、採血で、NK細胞やヘルパーT細胞(Th2とTh1)などの、免疫担当細胞に異常が有るか無いか解析します。
▽「不育症」で有るか無いかの検査を実施する必要があると想定される時
・3回以上の連続した初期流産(10週未満)を引き起こした時
・1回以上の34週未満の子癇発作、重症妊娠高血圧症候群を引き起こした時
・1回以上の10週以上で原因が分からず、子宮内胎児死亡となった時
・胎児胎盤機能不全に関連した早産となった時
▽治療法
◉一般検査
「不育症」の原因がそれ以外の病気の疾患の可能性が考えられる時には、病院と連携して精査と治療を実施します。
◉子宮形態検査
中隔子宮など手術を受けたことで流産・死産の確率が減少する病気には手術を実施します。
◉感染症検査
それぞれの感染症に感染症の拡大を抑制する治療薬や、対応した抗生剤を内服します。
◉内分泌検査
それぞれの血糖値を正しくコントロールする治療薬や、ホルモンの分泌異常を治癒する治療薬を内服します。
◉抗リン脂質抗体症候群
血液凝固検査で異常が出た病気と同様に、再検査でも異常の診断を受けた時には低分子ヘパリン療法や低用量アスピリン療法を実施します。
◉血液凝固検査
再検査でも異常となる時には低用量アスピリン療法や低分子ヘパリン療法を実施します。
極めて珍しいことですが、ヘパリンの内服で、急激な血小板減少を発症することがあるので、内服開始から2週間前後で、採血にて血小板数に異常が有るか無いかも確認して下さい。
◉染色体検査
染色体の構造異常が発見された時には、その異常が「不育症」を誘発するのか確認を実施します。
その上で、誘発していると診断された時には、体外受精の技術を応用して、受精卵の着床前診断を実施し、染色体の構造に異常のない受精卵を子宮に移植するなどの治療を実施する時もあります。
◉ストレス検査
ストレス検査で不安状態や抑うつ状態と診断された女性は、産婦人科医から正しい「不育症」の説明を聞き、臨床心理士によるカウンセリングを受けたりすることで、「不育症」のストレスが改善され、妊娠継続率も高くなることが判明しています。
ですが、カウンセリングや産婦人科医から正しい説明を受けても不十分な時には、精神科に通院し、認知行動療法などの治療を受けると、効果的な時もあります。
◉免疫学的検査
赤ちゃんへのお母さんの免疫力を弱めることを期待して、お父さんの血液から採取したNK細胞(リンパ球)を移植する時があります。
ですが、輸血に準じる治療方法であることで、その治療を受けるためには同意書が必要となり、治療効果に関しても、現在まで詳細なものは許可が出ていません。
また、妊娠に対して攻撃をするヘルパーT細胞(Th1)の活動を抑制するために、免疫抑制剤であるプログラフの内服を実施します。
プログラフを内服することは、世界的には妊娠中も使える国が多いといいますが、日本では現在の法律では妊娠中に使うことは禁忌で、使用する時には主治医の同意書が必要です。
その上で、プログラフの内服での治療を希望する時には主治医の指導を仰ぎながら、説明を十分に受けて下さい。
参考サイト
天使ママ、ペリネイタルロス
「まだ貴方は若いから次も大丈夫だよ!と言われる。あの子の代わりはなんてどこにもいないのに。」
「産声のない静かなお産、人生で1番悲しい体験でした。」
#天使ママ というハッシュタグが添えられたコメントです。
流産や死産、新生児死などを体験したお母さんを指す言葉で、少しずつSNS上で静かに浸透しています。
「どこか顔が私に似ていて、本当に可愛い娘でした」。
エコー写真を眺め、笑顔で娘のことを話す女性Aさんは、1年近く不妊治療に励んだ末、2023年2月に待望の子どもを妊娠しました。
「大きくなって、人との結びつきを大事にしてくれる子どもになって欲しい」という想いから、そう名前を付けました。
女性Aさんは、
「娘はお腹の中で活発に動き回る子でした。ちょっと機嫌が悪い時にポコポコとお腹を蹴られると、なんだか娘から『ママ、落ち着いてね』って言われている気がしました。外出する時に『今日も1日一緒に頑張ろうね』とか、帰宅すると『疲れたね』という感じで、娘に語りかけていました。パパと家族3人の明るい未来を想像しただけで、嬉しい気持ちが充満し、溢れていました」
ですが、出産予定日の約1ヵ月前、急に胎動が感じられなくなりました。
急いで病院を受診し、主治医から告げられたのは「子宮内胎児死亡」。原因不明で、突然の娘との別れでした。
女性Aさんは、
「現実を受け止められなくて、信じられず。感情も言葉も全て失った感覚になって、涙も一滴も流れませんでした。帰宅すると玄関を開けてリビングに入った瞬間、『娘にもう会えないんだ…』と一気に感情が爆発し、涙を止めることができませんでした」
亡くなった赤ちゃんがお腹にいたままでは母体に危険があるので、4日後、陣痛促進剤を用いて出産しました。
女性Aさんは、
「出産当日は悲しさよりも、大好きな娘にやっと会えた嬉しさで感情が溢れました。ずっと想像してきた顔が、エコー写真で見ていた顔が、目の前にあって。凄く愛おしくて可愛くて、火葬までの時間は娘と一杯写真撮影をして、家族3人で大事な日を過ごしました」
ですが、その後は、「どうしていないの…」という寂しさが襲いました。
「昼間はずっと泣き続けて、夜になると主治医にエコーが当てられ『心臓が止まりました』と言われるシーンが脳裏にフラッシュバックしてきます。今もスーパーで娘と同じ年齢の赤ちゃんを見ると、どうしても悲しい気持ちを抑えきれません。私も本当は抱っこして娘と一緒に買い物に来ていたはずなのに…。
出産しましたが、娘はいない。娘がいた証拠はどこにありますかと尋ねられても、戸籍にも残っていません。法律上、存在が認められていません。それが凄く悲しいことです」
参考:WEB特集 知ってほしい 「#天使ママ」の気持ち|NHK(2024年)
2021年、厚生労働省は通知を発令し、流産・死産を体験した女性などにサポート体制の拡充を、全国の自治体に伝達しました。
全国の自治体の母子保健課などで不育症の相談窓口が設置されています。こども家庭庁の公式ホームページに、都道府県等の相談窓口の一覧が総括されています。
参考記事
亡くなっても大切な命 流産・死産“ペリネイタルロス” クローズアップ現代(2024年)
亡くなっても大切な命 流産・死産“ペリネイタルロス” NHK みんなのプラス(2024年)
支援団体、《iKizuku(イキヅク)》が訴える、死産でも育休が取れるということ
画像引用・参考:【流産・死産】赤ちゃんを亡くしたご家族の「支援リボンピンバッジ」を作りたい! CAMPFIRE
妊娠4ヶ月(妊娠85日/12週)以降の流産・死産・中絶は制度上では「出産」です。以下に関連の制度について紹介します。詳細は「企業の皆さまへ」のページで働く女性の妊娠・出産に関する法令・制度に関する情報をまとめていますのでそちらもご参考になさってください。
妊娠出産後も働く女性が少ない職場などの場合、ペリネイタルロスでも出産であり、各種制度が使えるということを、働く天使ママ自身も、また職場の人事担当者も知らない場合も多いです。このサイトや関連記事を見せて頂くなどしながら、人事担当者などに問い合わせてみてください。
必要な人に正しい情報が届きますように。
ツラい。
「不育症」の主な原因は分からないことが多いそうですが、次に多い原因が内分泌異常だそうです。内分泌の異常は甲状腺の病気も含まれ、その中に私が罹患する甲状腺機能低下症が、甲状腺機能亢進症より遥かに「不育症」への高いリスクがあると検索した時に書いてありました。
以前甲状腺の病気の記事を書いた時に確かに不妊になりやすいとは書いてありましたが、数字でこんなに違うんですよ、と書かれていたことがショックでした。
私は今のところ結婚や妊娠の予定はありませんが、小さい頃から「いつか結婚して、子どもが欲しい」という想いを持っています。
しかし実は20代前半から罹患している甲状腺機能低下症にも、子どもを望めないリスクがあると書いてあって、他の病気も持っていますし、「私に子どもを持つなんて、叶わない夢なのか」と現実を突きつけられました。
色々病気を発症してから、「妊娠をしたら、今飲んでいる薬はその間は飲めなくなるし、その場合はどうなるんだろう」という不安は常にありました。
この記事に関しては、自分は妊娠の経験はないですが、その前から貴方には無理だよ、と言われたみたいで、悲しい気持ちで書きました。今回は当事者の方の声に答えられず、自分の想いだけで話を〆て申し訳ないです…。
参考サイト
noteでも書いています。よければ読んでください。
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