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こんにちは、翼祈(たすき)です。
細菌性髄膜炎とは、子どもの感染症の中でも特に重篤になりやすい病気で、化膿性髄膜炎とも言われています。細菌が近くの臓器または血行性から脳脊髄液に侵入して炎症を引き起こします。
好発年齢は新生児、乳幼児期で5歳未満に細菌性髄膜炎の発症頻度が高くなっています。治療の開始が遅れると予後を悪くするので、早期の診断が望まれます。ですが、病初期や生後間もない赤ちゃんでは典型的な症状が分かりづらく、初めは診断が困難なケースがあります。
髄膜とは、脳と頭蓋骨の間に存在し、脳を包み込んで保護する膜のことを指します。髄膜は3枚の膜(脳に近い方から軟膜、硬膜、くも膜の3層)から成立しています。軟膜とくも膜との間にはくも膜下腔という空間があって、その中には脳脊髄液(のうせきずいえき)という栄養豊富な液体があります。
この髄膜に、ウイルスや細菌が感染して炎症を引き起こすと髄膜炎を発症します。髄膜炎は大きく、「ウイルス性髄膜炎」と、この記事で取り上げている「細菌性髄膜炎」の2つに分類されます。
細菌性髄膜炎は、ウイルス性髄膜炎よりも非常に重症度の高い病気です。細菌性髄膜炎は、全国で毎年およそ1,500人が発症しているとみられています。ウイルス性髄膜炎は通常1週間程度で自然治癒し、後遺症もほとんど残りません。
その反面、細菌性髄膜炎は現在の最善の治療を行なっても、亡くなる確率は数%~十数%と高水準で、後遺症も患者さん全体の20~30%程度に出現します。毎年30万人の患者さんに対して3万人が死に至る致死率の高い病気です。細菌性髄膜炎は、感染症法では5類に分類されています。
頭痛を訴えることのできない赤ちゃんでは「仰向けで眠れない」「首の後ろを触るといやがる」などの症状が出現します。また、赤ちゃんでは大泉門の膨隆が観察されることもあります。低年齢の子どもでは「いつもより元気がない」、「何となく様子が変」、「哺乳がいつもより少ない」ことなどがきっかけで細菌性髄膜炎が発見されることもあります。子どもの「普段と違う感じ」が、細菌性髄膜炎の早期診断においてとても大事な所見です。
今回は、細菌性髄膜炎の症状、治療法、予防策などについて特集します。
▽症状
1~14日の潜伏期間の後に、発熱、光過敏症、頭痛、錯乱、嘔吐が典型的な症状として出現します。進行すると意識障害、けいれんが現れることもあります。髄膜刺激症状としては、首を動かしにくくなる硬直(項部硬直)、Kernig(ケルニッヒ)徴候:仰向けで足を上げると、大腿筋が動かしにくくなり、膝が伸びない(135度以下)、Brudzinski(ブルジンスキー)徴候:仰向けで起き上がり、首を屈曲すると自然と、股関節と膝関節の屈曲が誘発される)などの症状が現れるケースがあります。
新生児や乳幼児など年齢が低い場合は、特徴的な症状が現われづらく、頭痛を訴えることもできません。発熱以外に嘔吐、不機嫌、食欲(哺乳力)低下、易刺激性、不活発などの症状が突出し、特異的な症状を示さない場合も多く見受けられます。
また、細菌性髄膜炎でみられる特異的な症状である項部硬直は、新生児や乳幼児では出現しない場合もあります。小さい子どもでは、一般的にぬいぐるみ(ragdoll)様の顔貌や大泉門の膨隆が見受けられます。
そこまで頻繁には出現しませんが、さらに重篤(しばし致命的)になると髄膜炎菌性疾患は、出血性の発疹や急速な循環不全を特徴とする髄膜炎菌性敗血症に陥ります。この疾患は早い段階で診断され、治療が適切に開始された時であっても、8~15%ほどが髄膜炎菌性敗血症を発症した後24~48時間以内に死に至ります。
髄膜炎菌性敗血症の未治療の場合、細菌性髄膜炎で亡くなる確率が患者さんの50%で、生存者でも10%~20%は、脳障害、難聴、発達の遅れ、水頭症、身体障害などを発症します。
▽かかる細菌性髄膜炎の年代
新生児から生後3ヵ月までの乳児…黄色ブドウ球菌、大腸菌、リステリア菌、B群レンサ球菌
生後3ヵ月以降の乳児から幼児…Hib(ヘモフィルスインフルエンザ菌b型)、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌
年長児から青年期…肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌
大人…髄膜炎菌、肺炎球菌
50歳以上…リステリア菌、肺炎球菌、グラム陰性桿菌
それ以外にも、免疫力が低下している状態では、緑膿菌や肺炎球菌、リステリア菌、黄色ブドウ球菌などが原因になる場合があります。
▽感染経路
病原体によって様々ですが、病原体が付着した手で鼻や口に触れることでの「接触感染」や、患者のくしゃみや咳などのしぶきに含まれる病原体での「飛沫感染」によるものが多くの感染経路になっています。
鼻の粘膜などに付着した病原体が何らかのきっかけで血液内に侵入すると、脳と血液の間にあるバリアー(血液脳関門)を破壊し、血液内の細菌が髄液内に侵入して感染を引き起こします。極めて稀に副鼻腔炎や中耳炎から直接菌が侵入して感染を引き起こす場合もあります。
▽かかりやすい国
アフリカ中央部に多発し、髄膜炎菌性髄膜炎は世界中で出現しますが、最も脅威が恐ろしいのは、西のセネガル、サハラ以南のアフリカから東のエチオピアに渡って広がる、特に髄膜炎ベルト地帯と呼ばれる地域が危険なエリアです。乾季(12月~6月)に流行が見受けられます。
▽診断基準
症状から細菌性髄膜炎が疑われる時には、速やかに採血し病原体を特定します。細菌性髄膜炎の初期診断は、臨床診察を行い、続いて、化膿性髄液を示す腰椎穿刺(ようついせんし)による脳脊髄液検査を行い、炎症の程度や有無を解析します。脳脊髄液検査で調べる前には安全に検査を行うため、頭部のMRIやCTなどの画像検査を先に行います。時に、髄液の顕微鏡検査で病原体が見つかるケースもあります。
血液検体や髄液からの細菌培養、PCR法検査、凝集試験によって確認します。抗生物質への感受性検査、血清型の確認は、感染制御対策を決定づける上で重要な検査です。
▽治療法
髄膜炎が疑われたら、できるだけ早く抗生物質と抗ウイルス剤の投与を施します。細菌性髄膜炎と診断された段階で抗生物質の治療だけに絞り込んで投与します。
治療には、アンピシリン、ペニシリン、セフトリアキソンなどの様々な抗生剤が使います。社会資本や公衆衛生基盤の限られるアフリカ地域での流行時には、セフトリアキソンが第一選択薬となります。
抗菌薬の投与期間は病原体や感染のもととなる病気によって異なり、2~3週間の投与で自然治癒することもあれば、長い間投与されるケースも少なくありません。また、細菌性髄膜炎の治療には抗菌薬に加えて副腎皮質ステロイド薬を使うこともあります。
細菌性髄膜炎の治療は基本的に入院をした上で、集中治療が行われます。早期診断・早期治療が重要な行動となります。
▽予防策
細菌性髄膜炎のワクチンが有効な予防策です。流行地域へ渡航する場合にはワクチン接種が推奨されます。日本では2015年5月からワクチンが使用できるようになりました。
細菌性髄膜炎の原因菌として多くを占めるHibや肺炎球菌はワクチン接種によって高い予防効果が期待できます。いずれも乳児早期(生後2ヵ月)からワクチン接種をスタートし、1歳で追加接種を受けることが必要となります。
参考サイト
細菌性髄膜炎 Bacterial meningitis(髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌を原因として同定された場合を除く。) 東京都感染症情報センター(2018年)
髄膜炎(ずいまくえん) 社会福祉法人 恩賜財団 済生会(2014年)
髄膜炎菌性髄膜炎(ファクトシート) 厚生労働省 検疫所 FORTH
細菌性髄膜炎 かわかみ整形外科・小児科クリニック(2017年)
後日談
細菌性髄膜炎を発症する病原体は年齢により頻度や種類が違いますが、Hibや肺炎球菌、新生児期には大腸菌やB群溶連菌などが多い傾向です。
日本では細菌性髄膜炎に対して2008年にHibワクチン(インフルエンザ桿菌)、2010年に肺炎球菌ワクチンが発売され、2013年に定期接種に入りました。以前は日本で毎年およそ1000人の子どもが細菌性髄膜炎を発症し、後遺症に苦しむ方も少なくありませんでした。
ワクチンを導入する前は、インフルエンザ菌が細菌性髄膜炎では最多のおよそ60%、2番目は肺炎球菌でおよそ20%、次いでHib、大腸菌を発症する病原体となっていました。
ワクチンが導入された後、全国調査(10道県サーベイランス)では、2014年と2015年ではインフルエンザ菌による細菌性髄膜炎の報告はゼロで、Hib菌髄膜炎はおよそ90%、肺炎球菌髄膜炎はおよそ70%減少しました。このHibと肺炎球菌のトップ2の原因菌による細菌性髄膜炎は著減しました。ワクチンを導入してから驚くべきスピードで減少しました。生後2ヵ月から高い接種率となったワクチンの効果と推定されます。
細菌性髄膜炎の再診の目安では、発熱、頭痛、意識障害、嘔吐、けいれん、項部硬直などを認めた場合には速やかに病院を受診して下さい。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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