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こんにちは、翼祈(たすき)です。
2024年1月1日(月)、16時10分頃、石川県能登地方で震度7の地震が発生し、新潟県でも震度6弱が発生しました。M7.6だったそうです。
その後も富山県など北陸地方を中心に、幅広い地域で大津波警報や火災、道路もひび割れや液状化現象が起きていて、甚大な被害が出ています。
大規模な地震で被害が大きかった地域では、復旧に向けた活動が続けられていますが、災害が発生した時に住宅に流れ込んだがれきや泥などの後片付けをする際に、気を付けて頂きたい感染症は、「破傷風」です。
日本での発生状況を見てみると、1947〜1954年にかけては毎年破傷風は、およそ1,000〜2,000例あったというデータもあります。先進国では感染者は少なくなっていますが、日本では、毎年100人程度が破傷風を発症し、5~9人が亡くなっています。
破傷風菌は嫌気性(けんきせい)菌という、世界中の土壌などに「芽胞(がほう)」と呼ばれる硬い殻を被った状態で存在し、酸素のない環境で増殖していきます。
1889年に北里柴三郎が初めて患者からの分離・培養に成功した細菌となっていて、土壌中に広く分布します。
破傷風菌は小さな傷からでも侵入し、中には傷が見当たらないのに破傷風に感染する場合もあります。
極めて少ない量の嫌気性菌でも侵入して増殖すれば容易にヒトは破傷風を発病します。
感染症に詳しい日本環境感染学会の医師の男性は、浸水した自宅の後片付けをするときには怪我をしない様に、丈夫な安全靴や手袋を着用する様に、呼びかけています。
今回は破傷風の症状、原因、治療法などをお伝えします。
破傷風にならないための注意点
東日本大震災などの被災地でも破傷風を発症した事例があり、自宅の後片付けを行う時は、注意が必要です。
東日本大震災や熊本地震などの被災地で感染症予防を担当した日本環境感染学会の医師の男性は、破傷風の危険性について以下の様に懸念しています。
「破傷風の菌は土壌の中に潜んでいることから、小さな刺し傷や擦り傷から身体内に侵入する恐れがあることで、今までにがれきの中の木材のトゲが刺さって破傷風を発症した人の事例も報告されています。私も漁具のロープを片付ける時に引っ張って、擦り傷を負い、その後、破傷風を発症し、亡くなった患者を診察した経験があります。なので小さな傷でも侮ってはいけません」。
では、住宅に流れ込んだ泥やがれきなどの後片付けをする時に、どんな点に注意すべきなのでしょうかー?日本環境感染学会の医師の男性は、以下のことを気にかける様に呼びかけています。
作業時の服装
- 足下はクギを踏みつけても貫通しない安全靴を履くこと
- 手には頑丈な手袋を着用すること
- 怪我をしない様に、肌の露出を防ぐ為に長袖、長ズボンで片付けの作業を行うこと
参考:破傷風に注意!浸水した自宅の後片づけの服装は?熱中症対策も NHK 首都圏ナビ(2023年)
では、万が一怪我を負ってしまった時は、どうすればいいのでしょうかー?日本環境感染学会の医師の男性は、どんな些細な怪我でも、速やかに病院を受診して頂きたいと述べています。
「破傷風の1番怖いところは潜伏期間が比較的長い感染症だというところです。私が診察した患者さんは破傷風の発症までに1週間程度かかっていました。その間に無熱や倦怠感など、風邪に似た症状が出現し、その後、口がしびれて思う様に話せないなどの症状が出現していました。患者さんに症状が出現する前に、どんな行動を行なっていたのか質問しても、些細な怪我だと忘れてしまうんですよね」
とし、
「破傷風は、治療が遅れてしまうと発症した人の3割ほどが亡くなるというデータもあり、とても怖い病気です。だから泥やがれきの除去作業を行っている最中に怪我をした場合は、速やかに病院に受診することが大事なんです」
と説明しています。
▽症状
潜伏期間は、3日~21日程度(平均10日間)ですが、傷口の程度や感染者の免疫状態にも左右されます。感染して3日から3週間の症状のない期間があった後で、肩こりや舌のもつれ、嚥下障害、顔がゆがむなどの痙笑(けいしょう:ひきつり笑い)で発症、口が開けられない開口障害、顎が疲れる、首筋が張る、身体が痛いことや、しびれなどの症状があらわれます。その後、その後、開口障害が強くなり、顔の筋肉がこわばり、破傷風顔貌(はしょうふうがんぼう:苦笑した時の様な引きつった表情)となります。
さらに、破傷風が悪化すると、体幹筋、四肢の硬直性痙攣、 歩行困難、排尿・排便障害となり、腕や身体の大きな筋肉のけいれんが出現する様になって、重症化すると、身体のしびれや痛みが身体全体に拡大し、“後弓反張(こうきゅうはんちょう)”という、全身を弓の様に反り返らせる姿勢や全身のけいれん、呼吸筋や喉の筋肉にも影響を及ぼす為に呼吸困難が現れた後に、最悪の場合、亡くなります。
致死率は10-20%と高いです。
▽原因
破傷風は、錆びたクギが刺さった、動物に噛まれた、グランドで転んで皮膚を擦りむいた、傷があるのに土いじりをした場合など、破傷風菌で破傷風に感染し、感染した場合に亡くなる割合が非常に高い病気です。以前は新生児の感染もありましたが、近年は30歳以上の大人をメーンに患者さんが出ています。
主に傷口に破傷風菌が侵入して感染を引き起こし、毒素を通して、色んな神経に作用します。不潔な状態の深い刺し傷から破傷風菌が侵入して感染しますが、小さな傷や、凍傷、火傷なども破傷風の感染の原因となり、感染すると重症化することが多いといいます。最近では1年間に120例程の報告があり、中高年の人が破傷風に感染する頻度が高いです。
▽原因菌
破傷風菌がつくる毒素には、神経毒(破傷風毒素、別名:テタノスパスミン)と溶血毒(テタノリジン)の2種類があります。破傷風の主症状である強直性痙攣きょうちょくせいけいれんの原因は、主に神経毒である破傷風毒素によるものと考えられています。
▽感染経路
怪我をしたときに傷口から破傷風菌が身体の中に侵入します。破傷風菌は、世界中の土の中に存在します。特に、動物の糞便で汚染された土壌が大変危険です。
交通事故などの外傷や動物による咬まれて傷ができた時に、
・動物やペットによる咬まれた傷
・交通事故などでの外傷
・ピアス
・傷口に付いた木片や土などから破傷風菌が身体内に侵入して感染成立する経路
・熱傷
・人工妊娠中絶
・覚せい剤注射に伴う感染
・出産時の臍帯不潔処理による新生児感染 など
ヒトからヒトに感染することはありません。
▽流行りやすい国
破傷風は、創傷部位で嫌気的(けんきてき)に発育をする破傷風菌が、産生する神経毒で発生する急性中毒性疾患です。破傷風菌は世界中の土壌に広く分布しています。この破傷風菌は空気にさらされると発育できない仕組みです。
2006年の報告によりますと、アジア、南アメリカ、アフリカでの破傷風の報告数が多く、その年に世界中で29万人が破傷風の感染で亡くなりました。
▽診断基準
培養検査という傷口から採取された破傷風菌を増殖させ、菌を検出することで診断を下します。ですが、実際に破傷風であっても、破傷風菌の分離・培養は困難で、培養検査での破傷風の検出率は低く、病原体が検出できなかった時でも破傷風の可能性もあるため、医師の所見や患者さんの症状から破傷風と診断する場合もあります。
破傷風は症状が特徴的なことから、怪我などの既往歴や、開口障害とその後のけいれんなどの症状・経過から医師は診断を行い、破傷風の治療を開始します。
感染症法上、五類感染症(全数把握対象)に定義されていて、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ることが義務付けられています。
▽治療法
破傷風に感染した患者さんには、治療の為の抗菌剤や血清などを投与します。傷口の治療や呼吸困難な人には呼吸をしやすくする為の治療が実施されます。
まず、破傷風の感染の原因である傷口を十分に洗浄して消毒し、不潔な組織を取り除きます。外傷を負った時の初期治療が重要な鍵です。
そして、主な治療では、血液中の破傷風の毒素を中和する為に抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)という薬剤を投与します。その上で、破傷風の毒素を中和する抗体を作る目的で破傷風のワクチン(破傷風トキソイド)、破傷風菌自体を除去する目的でペニシリンなどの抗菌薬を患者さんに投与します。
破傷風の感染予防として破傷風トキソイドの追加接種を、また感染の危険性が特に高いと判断された場合には、抗破傷風免疫ヒト免疫グロブリン(TIG)投与が必要となります。
破傷風が重症化した時はICU(集中治療室)での全身管理が必要です。破傷風に感染した後は、刺激を避け、鎮静薬の投与やけいれん発作から呼吸困難を引き起こす可能性があることから、抗けいれん薬や筋弛緩剤、抗菌薬などの投与や人工呼吸器の使用に合わせて、心拍数や血圧などの管理を行います。
▽予防策
日常的な破傷風に感染しない為の予防方法としては、破傷風菌が身体内に侵入しない様にし、傷ができた時はすぐに流水で念入りに洗います。自宅で対応できない様な大きな傷を負ったり、汚い場所で怪我をした時は速やかに病院を受診することが大事です。
予防接種が破傷風に感染しないための最も有効な手段です。正しい方法でワクチンの接種をすると、破傷風への免疫がおよそ10年間持続します。前回のワクチンの接種をした後10年を過ぎた人には追加接種を推奨されます。犬などの動物に噛まれた場合は、破傷風トキソイドワクチンと狂犬病ワクチンが必要となります。
旅行中に怪我をした時にもワクチンの接種が必要になる場合があるので、速やかに医師に相談して下さい。旅行先の不衛生な医療機関では、医療行為で破傷風に感染するケースもあります。安心できる病院を事前に確認して旅行をしましょう。
▽ワクチン
破傷風トキソイドワクチンの接種が最も有効な破傷風を防ぐ手段ですが、破傷風は感染しても終生免疫を獲得できず、破傷風への免疫獲得は破傷風トキソイドワクチンしかありません。
大人になってからの破傷風トキソイドワクチンの追加接種は、任意接種となるので自己負担となります。
日本では1968年から3種混合ワクチン(DPT:Diphtheria, Pertussis、Tetanus)という、ジフテリアと百日咳、そして破傷風の3つの感染症を予防可能な混合ワクチンの定期接種が開始しました。そして2012年からは、DPTに加えてポリオを予防可能な、4種混合ワクチン(DPT-IPV:Inactive Polio Vaccine)が定期接種に活用されています。
1967年以前生まれの50歳以上の方は、子どもの時に定期接種として破傷風トキソイドワクチンが存在していなかったことから、破傷風への基礎免疫がありません。そのため、3回の破傷風トキソイドワクチンの予防接種が推奨されています。
1回目と2回目は1ヵ月間隔、3回目は6〜12ヵ月後に破傷風トキソイドワクチンの接種を受けます。
ですが、外傷などにより破傷風トキソイドワクチンを接種した経験のある人は、この時だけ、ではありません。また、3回接種が済んだ人、または接種経験がある人は、破傷風トキソイドワクチンの追加接種を、破傷風の免疫の効果が切れる10年に1回の頻度で受けて下さい。
1968〜1981年の間に生まれた人や、破傷風トキソイドワクチンを接種していない人は、破傷風の免疫を持っていない可能性があるといいます。
40歳以下の方は定期接種で破傷風に対する基礎免疫があるため、10年に1回の頻度で破傷風トキソイドワクチンの追加接種を受けて下さい。
その上で、未成年の人の場合は破傷風トキソイドワクチンの効果が持続していることから追加接種は必要ありません。接種対象となる方は、最終接種から10年以上経過している人のみです。
日本では、生後3〜12ヵ月の間と11〜13歳の間に破傷風トキソイドワクチンの予防接種が行われます。それ以降は、5〜10年に一度破傷風トキソイドワクチンの追加接種が必要となります。
破傷風に感染する人は、1968年より前に生まれ、破傷風トキソイドワクチンの接種をしていない人に多い傾向です。
破傷風トキソイドのワクチン接種率が高く、衛生的な分娩を行っている日本では、新生児破傷風の発生は1995年の報告以降、認められなくなりました。
▽ワクチンの副反応
破傷風トキソイドのワクチンを接種した後には、全身症状として接種した部位の腫れや痛み、悪寒、発熱、頭痛、倦怠感、目眩、下痢、関節痛などの副反応が認めることがありますが、いずれも数日間で治癒します。
局所症状として発赤、疼痛、腫脹、硬結(しこり)などが認められる場合もあります。どの症状も一過性で数日で消失します。 ですが、局所のしこりは1ヵ月前後持続することがありますが、やがて消失します。
稀に、全身発赤・血管浮腫・呼吸困難などアナフィラキシー様症状やショックが認められることがあります。
▽予防接種を受けることができない人
①通常37.5℃を超える、明らかに発熱のある人。
②過去に破傷風トキソイドワクチンに含まれる成分で、アナフィラキシーを引き起こしたことがある人。(他の医薬品投与でアナフィラキシーを引き起こしたことがある人は、破傷風トキソイドワクチンの予防接種を受ける前に医師へその旨を伝え判断を仰いで下さい)
③重篤な急性疾患に発症していることが明らかな人。
④その他、医師が破傷風トキソイドワクチンの予防接種を受けることが不適当と判断した人。
▽予防接種を受ける時に、医師とよく相談しなければならない人
①発育が遅く、医師や保健師の指導を継続して受けている人。
②腎臓病・心臓病・肝臓病・血液の病気などの基礎疾患を抱えている人。
③風邪などの引き始めと思われる人。
④薬の投与または食事で皮膚に発疹が出たり、身体に異常をきたしたことのある人。
⑤前回の破傷風トキソイドワクチンの予防接種を受けた時に、2日以内に発熱・じんましん・発疹などのアレルギーを疑う異常がみられた人。
⑥これまでにけいれんを起こしたことがある人。
⑦破傷風トキソイドワクチンに含まれる成分でアレルギーを起こす恐れのある人。
⑧過去に本人や近親者で、培養検査で免疫状態の異常を指摘されたことのある人。
⑨妊娠の可能性がある人。
⑩現在、家族・友人・クラスメイトの間に、麻疹(はしか)・風疹(三日ばしか)・おたふく風邪(ムンプス)・水痘(みずぼうそう)などの病気が流行していて、まだその病気に感染したことがない人。
▽ワクチンの注意点
乳幼児期に受ける3種混合ワクチン(DPT)には、ジフテリア、破傷風、百日咳(DTP)に対する免疫が入っています。これを3回受けてさらに追加で1回受け(Ⅰ期は生後3ヵ月~1歳までに3回、1年~1年6ヵ月後で追加接種を1回)、さらに小学校6年生(11~13歳未満)の時に追加で1回接種します(Ⅱ期は2種混合ワクチン(DT:ジフテリア・破傷風)を1回接種)。
また、破傷風菌は世界中の土壌に存在するため、短期・長期に関係なく渡航者全員に破傷風トキソイドワクチン接種が推奨されています。なお、DPTが定期接種化された1968年以前生まれの方や破傷風トキソイドワクチン接種の副反応が問題で、ワクチンを接種していない1975年~1980年頃生まれの方は特にハイリスクなことから、国内外を問わず破傷風トキソイドワクチン接種が望ましいと言われています。
ほとんど知られていませんが、破傷風トキソイドワクチンの効果は10年程度の間しかなく、最後の追加接種(12歳)から10年後の20歳を過ぎると、破傷風への免疫力が急激に低下します。子どもの頃に受けておけば生涯大丈夫ではないので、10年毎に追加接種を継続していけば、破傷風トキソイドのワクチン効果が永続します。
参考サイト
破傷風はペットから感染するケースもある?破傷風の予防方法についても解説 MYメディカルクリニック(2023年)
ペットに噛まれた場合でも?
破傷風に感染すると症状のスピードが早いことから、早期の治療が必要となります。破傷風は、ペットに噛まれてから3〜21日の3週間以内に下記の症状が出現した時は、速やかに医療機関を受診して下さい。
・飲食物が飲み込みにくくなった
・飲食物をこぼす頻度が多くなった
・身体のだるさが有る
・舌のもつれや口の開きにくさを感じる
・首や手足のけいれん、身体のこわばりを感じる
1つでも該当する症状がある時は、破傷風を疑い、すぐに病院を受診するなどの対応することを推奨します。
破傷風が疑われる場合は、救命救急科や内科に受診して下さい。破傷風が急激に悪化するまでに早く命を落とす危険性があることから、集中治療室がある救命救急センターや二次救急医療機関という三次救急医療機関への受診を必要だといいます。
先日の石川県を中心とした地震は、「令和6年能登半島地震」と気象庁が名付けましたが、数分おきの頻発する地震で津波以外にも火災や家屋の倒壊とそれに伴った土埃、ガス漏れ、停電、停電での携帯会社の大規模な通信障害などで、身動きが取れない人が多く、家屋に閉じ込められている人も多くいます。
広範囲で津波や家屋が倒壊している地域が多く、怪我や骨折以外にも、破傷風の感染のことも心配になります。年が明けて、2024年が始まったばかりに起きた、今回の大地震。着の身着のまま避難所に避難していて、現在の家の状況が分からない人も多いと思います。
地震が落ち着いたら、今度は自宅の家具の片付けなどをしなくてはなりません。破傷風はこれまで書いた感染症とは異なり、10年しかワクチンの効果が無いという、一度受けたら安心では無いことに言葉を失いました。
どうか被害に遭われた皆さん、破傷風など感染症には気を付けて頂きたいです。
noteでも書いています。よければ読んでください。
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