ドラマ『silent』から見えてくる、難聴者とのコミュニケーション

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わたしは毎シーズン、医療系・福祉系のドラマ作品が楽しみで、前回は『Dr.コトー診療所』と『PICU』の作品について熱く語ってしまいました。
これまでも、『ナイトドクター』や『ヤンキー君と白杖ガール』についても記事を書いています。

そして現在視聴しているのは、『silent』です。

ドラマの主人公佐倉想は、「若年発症型両側性感音難聴」を患い、聴力をほとんど失ってしまいます。健常者が突然難聴になってしまったときの、お互いの戸惑いやコミュニケーション、人間関係についてがテーマになっています(…だと思います…)

今回はドラマのあらずじや耳の構造や難聴の種類、コーダの存在などについてまとめていきます。

紬が手話を始めた理由→大切な存在の想ともう一度話したいから

簡単なあらすじを説明いたしますと、このドラマは紬・想・湊斗の3名のお話です。

学生時代仲がよかった3名ですが、高校卒業と同時に、想は自分の友人全員と連絡を徐々に取らないようになり、想が何をしているのか誰も分かりませんでした。
そして年月が過ぎ、偶然遭遇した時に、想は耳が聞こえなくなっていたのです。
2名は、気づかないまま想を独りにしていたこと、もう声が聞けないことを悔み、苦しみます。

その中で、想が紬を遠ざけた理由は、紬が「想の声が好き」と言っていたことでした。
紬は後悔しながら、もう一度話がしたくて手話を勉強をし始めます。

湊斗が手話を学ばない理由→想の耳が聞こえないことを認めたくなかったから

湊斗が初めて想の難聴を知ったときは、かなり動揺してしまい、紬に教えることができませんでした。

そんな戸惑いの中、居酒屋で偶然、ろう学校の教師と出会います。
再会した友人の耳が聞こえなくなっていたと話すと、手話を習うことを提案されたのですが、湊斗は拒否をします。
その理由は、

・想の耳が聞こえなくなったのを認めたくない
・声で会話がしたい

という思いからでした。

その後、一緒に過ごすことになった時、聞こえないと分かっている想に思いの丈を吐き出します。
これをきっかけに、2人は絆を取り戻し、音声変換アプリでコミュニケーションを取るようになったのです。
そして、学生時代の仲間と一緒にフットボールをするきっかけを与えたのです。

ここからは、耳の構造や難聴の種類について整理していきます。

耳の構造

引用:耳の構造と聴こえの仕組み・難聴・耳鳴り | 耳の主な病気 | さかした耳鼻咽喉科 | 平野区平野西の耳鼻咽喉科 (sakashita-jibika.com)

耳は大きく「外耳」、「中耳」、「内耳」の3つに部分に分けられます。

音は物理的には空気を伝わる微小な圧の変化(粗密波)です。音が外耳道を通って入ってくると、この圧の変化に応じて鼓膜が振動します。鼓膜には耳小骨が付着しているので、鼓膜の振動は耳小骨の振動となり、内耳へ伝えられます。振動が耳小骨を伝わるあいだに音の圧変化が増強されます(中耳の音圧増強作用)。振動が内耳に達すると、内耳の中のリンパ液、さらには有毛細胞が振動することになります。

耳というのは空気の振動(音)という物理的エネルギーを中耳で増強して内耳に伝え、内耳で電気的エネルギーに変換する装置ということができます。「外耳」と「中耳」は音を増強して「内耳」へ伝えるための器官ということで“伝音器官(伝音系)”、「内耳」から聴神経を通って大脳の聴覚中枢にいたるまでの聴覚系の部分は音を感じるための器官ということで“感音器官(感音系)”と分類されますが、この分類は難聴を理解するうえで重要になります。

難聴とは?

引用:聴覚障がいとは? 等級や種類、コミュニケーション時に配慮すべきこと | コラム | SureTalk (softbank.jp)

難聴の種類は、大きく分けて3つです。

<伝音声難聴(でんおんせいなんちょう)>
伝音難聴は、外耳または中耳が損傷して、音の振動が内耳に届かない場合に起きます。耳が詰まったように感じたり、音がこもって聞こえるかもしれません。一般的な原因には、慢性中耳炎、先天的欠損症、良性腫瘍などがあります。

<感音性難聴(かんおんせいなんちょう)>
感音難聴は内耳または聴神経が損傷しているか適切に機能していない場合に見られます。音が小さく聞こえて聴き取りが難しく、特に騒がしい環境で聴こえにくくなります。一般的な原因として、加齢、騒音への曝露、メニエール病などがあります。今回のドラマの主人公はこの障害を抱えています。

<混合性難聴(こんごうせいなんちょう)>
混合難聴は伝音難聴と感音難聴が合わさったもので、外耳または中耳とともに、内耳にも損傷がある場合に起きます。伝音難聴の原因のいずれかに、感音難聴の原因のいずれかが加わって起こることが一般的です。

もし友人や知り合いが難聴になったとき、どのような配慮が必要?

先天的に難聴である人もいれば、徐々に聴力を失っていく人(中途失聴者)がいます。
今まで普通に聞こえていたのにある日から聞こえなくなるのは、本当に不安で色々と苦労するでしょう。
本人だけでなく周りの人も、どう接すればよいのか分からず苦労します。

補聴器をつけている人を見かけたことはありますか?
「補聴器つけてるから音は聞こえるのだろう」と思ってしまいますよね。
もちろん人によって様々ですから、補聴器だけで難なく会話できる人もいれば、周囲の雑音を補助するのがやっとな人もいます。
見た目では気づきにくい病気ですから、うまくコミュニケーションがとれないと、誤解が生じるようになるかもしれません。

おそらく、主なコミュニケーションは筆談になってくると思います。
手話が分からなくても問題ない方法です。
しかし、いちいち文字に起こすのに時間がかかるのはもったいないですよね。
近頃、スマホやタブレットが普及するとともに、便利なコミュニケーションツールも開発されています。
文字越しだけでなく、翻訳機能もついているという、面白いアプリです。
【聴覚障害者におすすめアプリ】字幕なし動画も分かるようになるUDトークレビュー | 町草のブログ (machikusa110.com)

参考:中途失聴者のコミュニケーション|方法やその周りの人々はどうすれば良いのか? | 町草のブログ (machikusa110.com)

コーダの存在

皆さんは『コーダ』という言葉をご存じですか?

コーダとはChildren of Deaf Adultsの頭文字をとった言葉で、両親のひとり以上が聴覚障害を持つ、聴こえる人、つまり「ろう者のもとで育った聴こえる子どもたち」のことです。

わたしたちの多くは、言葉でコミュニケーションがとれる家庭で育ったことが普通だと思ってしまうかもしれません。
しかしコーダには、親と言葉でコミュニケーションがとれないことが普通なのです。
友人に親を紹介するのを恥ずかしいと思う人もいるのだとか…

生まれつき家と外でコミュニーケーションの違いがあることで、戸惑いが起こることもあるのですね。

参考:耳の聴こえない親に育てられた、聴こえる子どもたち「コーダ」は何を抱え、何に苦しんでいるのか | 文春オンライン (bunshun.jp)

まとめ

友人や知り合いが難聴になってしまったとき、わたしたちは戸惑いがちですが、一番苦労しているのは本人なんですよね。
ドラマのように、難聴が原因で疎遠になってしまわないよう、気をつかわずコミュニケーションができる方法はたくさんあるようですね。

ちなみに、手話は世界共通のコミュニケーションですから、できると楽しいものかもしれないです。


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4 件のコメント

  • 漫画『君の手がささやいている』では、コーダの娘が中途失聴になり、人工内耳を装着するという展開をみせていて、その漫画を原作としたドラマの脚本を担当していた岡田惠和氏は、今年1-3月期のドラマ『ファイトソング』の主人公がやはり中途失聴になるという展開で、NPO東京中途失聴・難聴者協会の協力を得ながら、UD トークのアプリを含む様々な配慮の仕方や音楽の楽しみ方さえ提示していました。今期の『サイレント』でも、同協会の協力とともに、ろう考証にも力を入れ、中途失聴者が言葉を発せず、手話を手とするコミュニケーションに傾倒していった心理を検証していました。なかなか奥が深いものですね。手話は、国際手話というのもありますが、国によって表現が違い、日本国内でも方言があります。

    • コメントありがとうございます!
      漫画の存在は知りませんでしたが、ファイトソングは心を打たれましたね。
      大切な存在に難聴になってしまったことを伝えるのは、やはり抵抗があるのだと、silentを観ていて改めて思いました。
      TVerでも視聴登録者数が237万だそうで、世間の注目度がうかがえます。
      別の障害持ちですが、うれしく思っています。

      • 昨夜の『サイレント』も、色々な謎解きがあり、紬と春尾の対照的な姿勢による当事者の受け取り方の違いをよく理解できました。
        コーダの研究者である澁谷智子氏は、近年ヤングケアラー問題にも取り組んでいて、コーダをその文脈にも位置づけているようです。

        • 堀田哲一郎さん

          そうですね。
          中途難聴者が声で話さない深い理由も、奈々が聴者と難聴者は分かり合えないと言った点にも繋がっているのだなとも感じました。
          コーダも確かに、特殊な環境下で育った点で、ヤングケアラーに含まれるのかもしれませんね。
          文春オンラインの記事で紹介されていた『デフ・ヴィオス』という小説も気になっています。
          知りたいと思えばたくさん機会はあるのだと、今回の記事で認識することができました。
          わたしの記事を読んでいただけてうれしいです。

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