コロナ禍のわたしたちが『鹿の王』から学べること

コロナ

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新型コロナウイルスの勢いが止まりません。
2021年4月現在、3度目の緊急事態宣言が発令されるのも現実味を帯びてきました。
ワクチンは医療従事者に接種され、これから高齢者へと着々と進められていますが、変異したウイルスに効果があるのかないのか、専門家の意見は分かれているようです。

世界を混乱させているウイルス、過去の歴史でも、黒死病やコレラなど、人々を恐怖に陥れるものは存在していました。
それらは、ファンタジーの世界にも存在しています。

『鹿の王』という小説をご存じでしょうか。
2014年に発行された、上橋菜穂子先生の小説です。
2015年には大きな賞を受賞しています。
ひとつは「第12回本屋大賞」、多くのひとが手に取ったことでしょう、わたしもそのひとりです。
もうひとつは「第4回医療小説大賞」。
この小説はファンタジーの世界で繰り広げられる冒険小説であるとともに、医療小説でもあるのです。

鹿の王のあらすじ、未知のウイルスと戦う登場人物たちのお話

この「鹿の王」の物語は、二人の主人公を軸に進んでいきます。
謎の病が蔓延し、大勢の奴隷や監督官が死に絶えた岩塩鉱で、ただ一人生き延びた男、ヴァン。
そしてもう一人は、岩塩鉱を襲った病の真相を探り、医療の本質を問い続ける、医術師のホッサルです。

 

東乎瑠(ツォル)帝国にとらわれ、岩塩鉱で奴隷となったヴァン。
ところが岩塩鉱が謎の黒犬の群れに襲われ、謎の病気が流行してしまいます。
ひとり病気から生き残ったヴァンは、逃げる途中で幼い少女をひろい、ユナと名づけて育てることに。
奴隷である自分を探すであろう追手から逃れるために、ヴァンとユナは各地を旅します。

一方、若き天才医術師ホッサルは、その病気が伝説の病「黒狼熱」だと考え、治す方法を見つけることを決めます。
岩塩鉱で生き残った者がいると分かったホッサルは、その者が抗体を持っているのではと考え、足取りを追う旅に出ます。



この先はネタバレになりそうなので、なぜ病が広がったのか、無事終息したのかは読んでみてのお楽しみといたしましょう。

物語とリンクする点① 人々のウイルスへの恐怖・パンデミック

今までにSF小説やファンタジー、また、過去の事例を基もとにした時代小説などでパンデミック小説はいくつもありますが、まさか実際に起こるとは想像もしていませんでした。

現実社会はパンデミックの真っ最中で、自分もいつ罹かるのかと世界中が恐れおののいています。
治療薬もワクチンもなく、対症療法で様子を見る以外にありませんでした。
中国での医療崩壊を他人事のように見ていたヨーロッパもアメリカも、あっという間に感染は爆発しました。

『鹿の王』の世界もまた、謎の病気に怯え、治療法を探しています。
しかし、この物語にはヒーローがいる。
彼が何とかしてくれるだろうという希望が見えます。

悲しいことに、現実にはヒーローどころか後手後手にまわる政治家たちの姿しか見えません。
ファンタジー小説の『鹿の王』はまるで疫病の参考書のようにリアルに迫ってきているのです。

物語とリンクする点② 治療法を模索する医療従事者達

物語では、黒狼熱とは何なのか、その時代のひとびとが経験したことのない病の謎や治療法を見つけるために、ホッサルは奔走します。
奇跡的に生き残ったヴァンを探して、仲間と旅に出ます。
しかし、それは簡単な道のりではありません。
時間をかけてヴァンの行方を探し、時に助けがあり、時に困難があり、それでも後を追います。

現実でも、医療従事者達はコロナの治療法を探り、ようやくワクチンの開発に至りました。
未知のウイルスに悪戦苦闘しながら、やっとたどり着いた対策のひとつです。
医師たちにも感染が広がり、医療崩壊が起こりながら、命がけで見出したものです。

特効薬を作ることができるのか…

物語では、着々とワクチンの開発が進められます。
ウイルスに感染して亡くなったひと、感染しても生き延びたひと、ウイルスがなぜ発生したのか…。
現実と同じように、過去の感染症を教訓に、人々は試行錯誤です。

現実世界でも、飛沫感染であることを特定したり、感染したひとの抗体を調べたり、そうやってワクチンが開発されました。
しかし、これはあらかじめ予防するもの、感染したときの重症化を防ぐもの。
発症してしまった後は、抗インフルエンザ治療薬などの既存の薬を転用しているのであって、新型コロナウイルスの特効薬は残念ながらまだありません。

我々はこれから新型コロナウイルスにどのように立ち向かえるのか…。
「with コロナ」と言われていますが、いつまでも「with」で甘んじていいのか…。
『鹿の王』の結末が、果たして我々の結末となるのか…。
これはフィクションではないのです。

 

 

医療がテーマとなっている小説ですが、ファンタジー小説として冒険の要素も含んでいるため、堅苦しいこともなく、とても読みやすい作品になっています。
作者の上橋菜穂子先生は、元々は児童小説の専門でもあるので、子供から大人まで幅広い世代で楽しめる作品です。

現実とリンクしているところが散りばめられているので、読んだことがあるひとも改めて読んでみると、より楽しめるかもしれません。
(しかし、現実は楽しいものではありませんが…。)

『鹿の王』はアニメ映画化もされます。
ウイルスの感染対策で上映が延期されていましたが、今年の9月10日に公開される予定です。
小説は苦手だという方は、そちらで楽しんでいただきたいです。

映画『鹿の王 ユナと約束の旅』特報①【9月10日(金)公開】 – YouTube

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