この記事は約 32 分で読むことができます。
こんにちは、どうも、ゆたです!
今回は、視覚障害者の新しい働き方を照らす「Moonloop Cafe」の代表をしておられる、浅見幸佑さんにインタビューをしました!
「Moonloop Cafe」ってどんな場所でどんな目的があるのか、そして、代表が思い描く見えるひとと見えないひと、見にくいひと、色んな人たちとどう生きていくのか、たっぷりと質問に答えて頂きましたので是非、最後までお楽しみに!
浅見さんの回答は太字で書いています。
「Moonloop Cafe」の成り立ちと。
翼祈:このカフェは視覚障害者の方が、接客業をしてみたいという思いから生まれたカフェだと伺いましたが、このカフェが生まれたきっかけなどを詳しく教えて頂けませんか?
このプロジェクトは2024年5月頃に始まりました。視覚障害のある方も働けるカフェを作ろうという思いからスタートしたんです。
これまでビーラインドプロジェクトとしてイベントを行う中で、多くの視覚障害のある方々とお会いし、お話しする機会がありました。その中で、「アルバイトになかなか就けない」や「接客業をやってみたいけど難しくて諦めている」といった声を多く聞きました。
また、社会的な状況を見ても、江戸時代から視覚障害者の職業ランキング一位がマッサージ師であるという話もあります。視覚障害者が働ける場所は実際少ないのが現状です。でも、「もっとできることがあるはずなのに、社会も個人も諦めてしまっているのではないか」と感じ、カフェを始めようと思いました。
島川:浅見さんは晴眼者でいらっしゃいますが、何でこの視覚障害の世界に興味を持たれたのでしょうか?
きっかけは、大学1年の時に何となく取った福祉の授業で視覚障害の話が出てきたことです。自分は遊びが好きな分、視覚障害が「一緒に遊び、楽しさを共有する上でかなりハードルになってしまっている障害で大変だな」と率直に感じました。それで、実際に遊べるものを作った方がいいよね、ということで仲間と始めました。
視覚障害の分野には、思っている以上にいろんな課題があると感じています。仕事や教育、普段のライフスタイルなど、いろんな面で「解決したいが諦めてしまっている」課題がある状況を、200回以上のイベントを通じて知りました。
最初は「ボードゲームを作って、クラウドファンディングで広げよう」くらいの軽い気持ちで始めました。でも、やればやるほど、もっとやりたいなと思うような話を聞くことが多く、今に至ります。
翼祈:この点字と目と月の満ち欠けなどをモチーフにした、今まで見たことのない斬新なカフェの素敵なロゴが誕生した経緯なども知りたいです。
![]()
画像引用元:PRTIMES 視覚障害者の新しい働き方を照らすカフェ「Moonloop Cafe」、2月17日よりオープン! 2025年2月4日
コンセプトは、「視覚障害の特性や文化をもっとポジティブに楽しく体験できるカフェにできないだろうか」という思いから始まりました。プロジェクトを始めた5月頃から3、4か月かけて仲間と作り上げてきました。
視覚障害の中でも、視力だけでなく視野障害があります。視野の欠け方が半分見えない、中心だけ見えない、まばらに見えるなど様々です。これが月の満ち欠けに似ているね、というところから、「その日の店長となる視覚障害のあるスタッフの視野に合わせた体験ができるカフェにしよう」と広がっていきました。
ロゴについては、月と目を掛け合わせているMoonloop Cafeならではのデザインがいいなと思っています。ムーンが2つで目っぽくもあり、月っぽくもなっているデザインです。また、点字が打ってあることで、「視覚障害のある人が働いている、視覚障害のある人も一緒に楽しめるカフェ」というのを直感的に理解できるようにしています。
例えば、東京の国立市に聴覚障害のある方々が働いているスターバックスがありますが、そちらのロゴは文字の下に手話のマークが付いていて直感的に分かりやすいです。自分たちの場合は何だろうと考えたときに、「点字だな」と思って取り入れました。
どんはれ:「スタッフの視覚の状態に合わせて“今日の月“が決まり、その満ち欠けに沿った体験を提供するユニークなカフェです。」とのことですが、具体的にどんな状態なのでしょうか?三日月なら、三日月の光くらい見えているということでしょうか?
基本的には満ち欠けという形で、スタッフの視野の欠け方に合わせています。ただ、明確に何度ぐらいという訳ではなく、そのスタッフ本人が決める形になっています。
メニューも現在広げているところで、まだ初期段階ではありますが、例えば提供しているチャイは月の満ち欠けによって味わいが変化するようになっています。
今は、半月のスタッフと新月のスタッフが働いています。半月のスタッフが作るチャイは、光の加減が満ちているので、よりミルキーな味わいになっています。逆に新月のスタッフが作るチャイは、よりスパイシーな味わいになるという形で提供しています。
![]()
画像引用元:PRTIMES 視覚障害者の新しい働き方を照らすカフェ「Moonloop Cafe」、2月17日よりオープン! 2025年2月4日
どんはれ:提供するお料理も視覚障害を持たれてる方が自ら作られているのでしょうか?
現在は晴眼のスタッフがキッチンに立って、チャイとデザートを作っています。ただ、これから4月以降に、例えば「半月のスタッフによるコーヒー」や「新月のスタッフによるカクテル」など、視覚障害のあるスタッフ自身が作るメニューも増やしていく予定で、現在開発中です。そういう形で、少しずつ一緒に作る料理や飲み物のバリエーションを広げていけたらと思っています。
どんはれ:カフェにはアロマテラピーなどのサービスはあったりしますか?
今はまだアロマテラピーなどのサービスはありませんが、他の視覚障害当事者の団体や個人とコラボして、イベント企画としてマッサージや音楽などの体験を提供できたらと考えています。例えば、新月のスタッフであるまりりんはピアノを弾くのが得意なので、演奏イベントなども企画中です。
翼祈:近年無人化で、「タッチパネルやICTの操作が複雑化して、視覚障害者の方が操作がしづらくて困っている」と聞いたことがあります。 このカフェでは訪れた視覚障害のお客さんに向けて、どんな配慮がなされていますか?
タッチパネルの操作に関する困りごとは、当事者の方々からよく聞きます。このカフェでは、視覚障害のお客様向けに点字メニューを用意していますし、3か月に1回のペースでカフェやスタッフの情報を楽しく紹介するマガジンも作っています。マガジンにはQRコードがついていて、読み取ることで音声でも内容を楽しめるようにしています。
さらに、視覚障害のある方が外で食べづらいメニュー、たとえばつけ麺やパフェのようなものも、ここでは食べやすく工夫して提供できるようにしたいと考えています。5月以降は、そういった新しい体験ができるメニューも増やしていく予定です。
翼祈:メニューが点字で書かれていることで、視覚障害者の人でもメニューが注文しやすいと感じました。実際にカフェを訪れた視覚障害の方からの反響はいかがでしょうか?
有難いことに、 飲食や店内での体験の観点でご好評のお声をいただくことが多いですね。その中でも特に興味深いというか、自分達の予想とは反した意外な点でご好評のお声をいただいたポイントが、手打ちの点字メニューです。実際に「点字メニューが置いてあるお店はかなり少ないので、それは凄い嬉しい」というお声が多いです。
私たちのメニュー表の点字は全て手打ちで打っているんですけど、例えばチェーン店とかで置いてある点字って、ほとんどが機械で打っているやつなので、何となくプラスチックっぽいんです。
実は点字にも綺麗な点字とか汚い点字があるらしくて、自分はあんまり分からないんですけど、「凄く均一に点字が打たれていることや、プラスチックじゃなくて紙に打っていることが凄く嬉しい」と言って頂けることがあります。
ほかの観点からいうと、視覚障害者がある方が多くご来店されていて、そこで新しい繋がりができるとか、実際にカフェで働いてみたかった方もご来店されて、「また来たいです」と言って頂いて、実際に来て頂くこともありました。そういったご好評の声を頂いています。
![]()
画像引用元:PRTIMES 視覚障害者の新しい働き方を照らすカフェ「Moonloop Cafe」、2月17日よりオープン! 2025年2月4日
翼祈:視覚障害のある店員さん向けの配慮として、点字器などを使っているそうですが、他にどの様な配慮をされていますか?
一つは、店員が店内を移動しやすい店にあります。店内は縦長で、縦長の横にキッチンがカウンターと一緒にくっついている構造です。本来であれば、カウンター席なので、椅子などが置いてあると思うんですが、私たちが営業する時はそれを全部なくして、カウンターをつたってお客様に接客をする際に移動しやすいように設計しています。
例えば普通のお店だと、壁とか何かつたうものがないと、お客様のところまで辿り着けなかったりするので、カウンターをつたっていけるようにということと、その時にカウンターの横からすぐに出せるように席もカウンターや壁と垂直にしています。
二つ目に、食事を提供する際のリスクを極限まで減らしている点です。コップに飲み物を入れて持っていくと溢してしまう危険性もあるので、コップはカトラリーと一緒に予め席に用意しています。そして、飲み物はポットに入れて、目の前で注ぐ形式にしたりとか、そういった安全配慮の部分でも色々工夫していますね。
お客様にとっても不安にさせないカフェというのも大事な観点かなと思いますので、練習を繰り返すことや極限までリスクを減らす仕組みにしながら、通常の晴眼者のように働ける環境をどう作るのか、っていうところを模索していきました。
翼祈:視覚障害者と晴眼者が一緒に仕事をすることで、気づいたことや、他のカフェにはない強みや個性だと感じる部分はございますか?
晴眼者と視覚障害者が一緒に働いていて感じるのは、「意外と差がないな」ということです。たとえば、点字を打つのがものすごく速かったりすることに驚く一方で、日々一緒にミーティングして、「今度はこういうメニューにしよう」「こんな接客をしてみよう」と話し合いながら運営しているので、自然とチームとしての一体感が生まれています。
このカフェの一番の強みは、視覚障害の文化について“楽しく知れる”ということだと思います。たとえば、ボードゲーム『グラマ』を通じて、視覚障害のある方と晴眼者が一緒に楽しめるようにした時、晴眼者から「視覚障害のある方とは駅でしか関わったことがなかったけど、実際にお話してみると全然印象が異なる」といった反応がありました。
視覚障害があるからといって同じではなく、店員も個性豊かで、ラーメンが大好きな人や音楽が得意な人、アニメを楽しむ人など、さまざまです。カフェでの体験を通して、そうした個人の姿や視覚障害の文化が自然と見えてくるのが、このカフェの魅力です。
「Moonloop Cafe」のこれから。
翼祈:このカフェで働く前と働いたあとで店員さんに見られた変化はありますか?
これは凄い大きな変化がありました。
実際に働くスタッフの中で大きな変化があった例があります。今働いている視覚障害のある大学1年生のイッシーは、以前アルバイトに何度か応募したものの、「視覚障害があるから」と断られてしまった経験があるそうです。高校までは盲学校で活発に活動していて自信もあったそうですが、大学に入って一般環境の中でなかなかうまくいかず、徐々にネガティブになっていったようです。
でも、このカフェで働き始めてから、接客をしたり、自分でメニューを考えて実践してみたり、実際にお金を扱ってチャレンジする経験を通じて、自己肯定感がどんどん上がっていきました。今では、さらに新しいアルバイトに挑戦しようとするほど前向きになっています。とても嬉しいです。
![]()
画像引用元:PRTIMES 視覚障害者の新しい働き方を照らすカフェ「Moonloop Cafe」、2月17日よりオープン! 2025年2月4日
島川:僕は一時期視覚障害の方の特別支援学校の宿舎の職員をしたことがあるのですが、その仲間の中では本当に生き生きしてるんですよ。お互いも見えないのは分かってる者同士だからですね。多分その方も大学に行くぐらいだからかなり優秀層だと思うんですよね。
入った途端にもう全然そういう環境になっちゃうから、育ってきた自尊心や自信が損なわれてしまったけど、このカフェで働くことによってそれが回復していって、凄い良かったなと今話聞いて思ったところでした。
そういった変化が見えるのは本当に嬉しいですし、だからこそ「自己実現のきっかけになるような場所」をもっと増やしていきたいと思っています。お客様にとっても、「こういうふうに働けるんだ」「こういう人がいるんだ」という気づきが、前向きな希望になれば嬉しいですね。
翼祈:このカフェがあることで、働いている人の人との繋がりや関係性が前より良くなったなどの相乗効果は何かありますか。
相乗効果については、スタッフ同士のつながりも深まっていると感じています。たとえば、全盲のスタッフであるまりりんは、ダイアログ・イン・ザ・ダークという真っ暗な空間でのガイドをするワークショップの経験があり、そうした経験を他のスタッフに紹介したり、逆にまりりんの知り合いがカフェに遊びに来てくれたりと、カフェを起点に人の輪が広がっています。
お客様同士やお客様とスタッフとの間でも、自然に会話が生まれてつながりができていく場面も多く、そういった“人と人とのつながり”がこのカフェのもう一つの価値だと思っています。
翼祈:アルバイトとしてこのカフェで仕事をしている人がいると伺いました。このカフェでは大学卒業後も正社員となって、働くことなどは可能でしょうか
現状では、正社員として働くのはまだ難しいというのが正直なところです。僕たち自身も、今ビジネスの形を模索している段階で、アルバイトとしての雇用もやっと実現できている状態です。ただ、今後の展望としては、就労継続支援との連携や、企業の障害者雇用制度、『事業協同組合等算定特例』などの制度も活用しながら、可能性を探っていきたいと考えています。東京にあるローランドという企業の取り組みも1つの参考にしながら、いつか正社員として働ける形も実現できたらと考えています。
翼祈:視覚障害があることで、この他のカフェにはない独自のメニュー開発ができたとかこれからこのカフェでしたいと思っていることは、ありますか。
僕らのカフェの特徴は、視覚障害の特性と“月の満ち欠け”のコンセプトを掛け合わせた体験を提供している点だと思っています。味の面でも、特にチャイにはかなりのこだわりを持っていて、自信を持ってお出ししています。ただ、今のところはコンセプト面での独自性が大きいかなという印象です。
今後は、視覚障害のある方が普段食べにくいとされる食材や、なかなか食べる機会が少ないものを積極的に取り入れて、食の選択肢を広げるようなメニュー開発にも力を入れていきたいと思っています。
翼祈:素敵な取り組みで、もしこのカフェが近くにあったらぜひ行ってみたいと感じました。私も色々病気や障害などを抱えていますが、障害があるからこれしかできないと選択肢を狭めるのではなく、自分で道を切り開いていくものだと感じました。これから視覚障害者の方にとって、どのようなカフェであり続けたいですか?
ありがとうございます。やはり、視覚障害のある方にとって“希望”になるカフェ、そして“自己実現の一歩”になるような場所にしたいという思いは、常に持っています。先ほどのいっしーの変化の話でもありましたが、これまで社会の実践的な舞台でチャレンジの機会の少なかった人たちが、ここで小さな成功体験を積み重ねて楽しさを重ね、自信をつけていくことができる。そういった姿をたくさん生んでいきたいです。
また、来店されるお客様にとっても、「視覚障害があっても、こうして接客業ができるんだ」という気づきや、「自分にもできるかもしれない」という希望につながるカフェになれたらと願っています。
社会的な意味でも、視覚障害者が働ける職業はまだマッサージ師や事務職に限られる傾向がありますが、スペインやドイツ、イギリスなどを見てみると、例えばスペインの視覚障害者協会が運営する四つ星レストランが28棟もあり、そこでは多くの視覚障害者が働いています。日本でも、カフェを起点にそうした先進的な事例を生み出していけたらと考えています。
![]()
画像引用元:PRTIMES 視覚障害者の新しい働き方を照らすカフェ「Moonloop Cafe」、2月17日よりオープン! 2025年2月4日
翼祈:このカフェは現在毎週月曜日の夜にオープンされているそうですが、例えば2号店を構えたいとか、今後取り入れていきたいことやカフェの認知度などを上げていく為にしたい取り組みなどを教えてください
まだ月曜の夜だけの営業なので、今後は9月以降、他の曜日にも営業日を拡大し、スタッフの数も増やしていくことを目指しています。認知度の向上はそのためにも非常に大事で、現在見据えているのは2つの方向性です。
1つ目は、視覚障害者団体や企業とのコラボレーションです。たとえば、特別イベントを共催するなどして、一緒に場をつくっていけたらと思っています。
2つ目は、当事者の方々の声を反映した商品開発です。たとえば、視覚障害のあるスタッフのまりりんから「食べやすくて美味しいパフェを出したい」と提案があったことをきっかけに、今後は他の方々の声もいただきながら、メニューを一緒に増やしていきたいと考えています。
翼祈:このカフェのマガジンがあると知って、私もこのマガジンを読んでみたいと感じているのですが、カフェの公式ホームページに掲載するなどして遠方に住んでいてカフェに行けない人にも読めるようにするなど、今後の展開の予定はございますか。
ありがとうございます!たしかに、そういったかたちで多くの人に読んでもらえるようにするのは大切ですよね。今はまだ掲載できていないのですが、ぜひ公式ホームページにも掲載していこうと思います。やります!(笑)
どんはれ:視覚障害のある方の働き方についてお聞きしたいと思います。晴眼者は視覚障害を持っている人には、どんなことを注意したら、良いとお考えですか?職場や普段の生活と注意するポイントは、違ったりしますか。
凄いたくさんあるなとは思います。一緒に物を移動する時も、店内を移動する中でもどういう風に移動するのかの細かいポイントはたくさんあるんですけど、総じて重要だなと思うのは「コミュニケーションの頻度を増やすこと」と、「言いやすい雰囲気を作る」ことの2点に絞られるのかなと思っています。
僕らも視覚障害のこういった事業を始めて3年になるんですけど、その中で、たくさんやってきて未だに分からないこととかもあって、例えば「黒いやつ取って」とか全盲のまりりんに僕らのスタッフが弱視のメンバーも晴眼のメンバーもいっちゃう、ということもあったりしますし、配慮しきれないポイントってあるのかなと思います。
無意識的にやってしまうポイントとかもあるので、そういうこと言っても「おいっ」て言える関係性であるとか、「これをどうしたらいい」とか、「もっとこうしてほしい」っていう意見を気軽に言ってもらうとか、そういったコミュニケーションの量と、言いやすい雰囲気を作っていくっていうところが非常に重要かなと思います。
どんはれ:どんなサービスがあれば視覚障害を持っている方々が生きやすくなると思いますか?
いろんな切り口がありますけど、まずは雇用や就労の面で、選択肢がもっと増えていくことが大事だなと思っています。現状だと、事務職やマッサージのような職業が中心で、新しい分野に踏み出しづらい。でも、そういった新しい可能性を切り開く事例がもっと出てくると、見える世界が広がるんじゃないかなと思っています。
教育や人生全体に目を向けると、僕らは「ボードゲーム」を作っているんですが、これは視覚障害のある人もない人も一緒に楽しめて、気づいたら友達になっているような、そんな関係を作れるものだと思っていて。
たとえば、小学生の頃に気づいたら一緒に遊んでいて、自然と仲良くなって、そのまま関係が続いていく——そういう「一緒に楽しめる瞬間」がないと、そもそも繋がることすらできないんですよね。だから、そういう「一緒に楽しめる」「一緒にできる」ものを世の中にもっと増やしていくことが、本当に大事だと思っています。
視覚障害と仕事、そして生活
どんはれ:どんな支援があれば視覚障害を持った方々が働きやすくなると思いますか?
支援の枠組みとしては、日本って実は結構整ってる方だと思うんです。
障害者雇用の制度や、就労支援の制度もしっかりしている。
ただ、その中で「実際に働きやすいか」となると、まだまだ課題が多いというのが実感です。
その中でやっぱり大切なのは、先ほどもお話したように「コミュニケーションの量」と「心理的安全性をつくること」、この2つかなと思います。
島川:確かにそうだなって感じました。会社のマニュアルも映像で伝えることもありますが、それが見れない訳なので、見れないし、音声しか分からないことで、「やり方を教えることが難しいかも」って雇う側が感じてしまうと思いますが、「こうやって工夫すればいいんだな」というのを見せることができるので、価値観を変えていくという点で、凄い皆さんの役割が大きいんじゃないかなとお話を聞いていて思いました。
そうですね。自画自賛みたいになってしまうんですけど、僕は「遊び」って本当に大事だと思っています。
上司と部下でも、国籍が違っても、障害の有無にかかわらず、同じ土俵で楽しめるものが「遊び」だと思うんです。一緒に遊んでいると、その時間だけでもフラットになれるし、そこから相手の新しい一面が見えてきたりもします。
一緒に遊んだ経験があれば、後々ちょっと声をかけやすくなったり、フラットに挨拶できるようになったりもする。だから、「一緒に遊ぶ機会」をもっと増やすことって、障害者・健常者に関係なく、すごく大切だと思っています。心理的安全性やコミュニケーションの量を高める上でも、本当に重要なことだと感じています。
どんはれ:視覚障害の方が活躍されている職業には、マッサージ師、エンジニア、プログラマーなどが挙げられますが、人気の職業は何ですか?
詳しくは自分もそこまで把握していないので、人気かどうか断言はできないんですが、マッサージ師の方はすごく多い印象がありますね。
安定している職業ですし、マッサージ師は国家資格を取得すれば、いわゆる“公務員的”な立場になるので、特に中途で視覚障害を持たれた方などからは人気があるのかなと思います。
また、エンジニアが人気な理由としては、「移動の必要がない」という点が非常に大きいです。今の時代、リモートで働けるので、わざわざ通勤しなくても仕事ができるのが強みですよね。
ただ逆にいうと、それ以外の選択肢がなかなか見えにくいのが問題だとも思っていて、限られた選択肢の中で「人気」が決まってしまっている現状がある。だからこそ、「カフェで働きたい」って言えるような選択肢がもっと当たり前に増えていくといいなと思っています。
どんはれ:当事者の方や、浅見さんがやってみたい職業とかは、ございますでしょうか
当事者の方からよく聞くのは「接客業をやってみたい」という声ですね。理由を聞いてみると、「コミュニケーションがたくさん取れるから楽しい」とか、「自分の声を活かせるのがいい」という意見が多いです。
だからこそ、飲食業って可能性があるなと感じていて、実際に「カフェで働きたい」と来てくださる方も少なくありません。
個人的な夢で言うと、「餃子バーを開きたい」というのがあります。僕、餃子が大好きなんですよ。以前、東京の赤坂見附にある餃子バーに行ったとき、すごい衝撃を受けたんです。カウンター越しに餃子が出てきて、トリュフソースの餃子、バジルソースの餃子、ワインと合う餃子…どれも本当に美味しくて。
その時に、「これ、視覚障害のある人でもできるんじゃないか?」と思ったんです。だから「見えない人でも働ける餃子バーをつくりたい」っていうのは、ひとつの夢ですね。
どんはれ:今かなりスマートフォンが普及していますが、それにより視覚障害の方の生活は便利になりましたか?
僕自身は当事者ではないので細かくはわからない部分もありますが、明らかに便利になったという話はよく聞きます。
例えば、SNSが使えるようになって他の人と繋がれるようになったり、音声認識を活用してスマホを操作してゲームをしたり、さまざまな情報にアクセスできるようになったり。
視覚障害のある方は「情報障害」とも言われるように、そもそも情報に触れにくいという特性があるので、そういう意味でもスマートフォンがもたらす恩恵ってすごく大きいと思います。他者と繋がれる機会が増えたという点でも、間違いなく生活の質は向上していると感じています。
どんはれ:私、小学生の頃に点字を勉強しようと思ったんですけど、打つ時と、読む時が違くて、2倍覚えなきゃいけないっていうので、挫折しちゃったんですけど、やっぱり目の見えない方の文化の中で私達健常者というかが、まだ理解してないんじゃない文化とかあったりするんでしょうか?
そうですね。「文化」というより、むしろ「偏見」だなって思うことがすごく多くて。
たとえば僕自身も以前はそうだったんですけど、視覚障害のある方がアニメを楽しむってあまり想像できなかったんです。でも実際、アニメが好きな方はすごく多い。
「見えない=楽しめない」って思い込みがちですけど、視覚障害のある方は、彼らなりの楽しみ方をちゃんと持っていて、ゲームも同じ。もちろん全員が同じ楽しみ方をしているわけではないんですが、それぞれに合ったスタイルで楽しんでいるんです。
あと点字に関しても、実は点字を読める視覚障害者って全体の1割ほどしかいないんですよ。だから「視覚障害者だからこう」っていうステレオタイプは、意外と当てはまらないことが多いんです。
逆に言えば、僕ら晴眼者の側にある思い込みとか固定観念のほうが課題なのかもしれませんね。
どんはれ:視覚障害者の方も多様性があるってことですかね。
当然めちゃくちゃあると思います。
ビーラインドプロジェクトの軌跡、代表の思い。
ゆた:ビーラインドプロジェクト様ではボードゲームの開発や、楽しいことやものの開発ををしていると聞いていますが、どのような開発を今まで行ってきましたか?
ボードゲームでいうと、2つ開発してきました。
1つは、現在販売している『グラマ』というボードゲーム。もう1つは『しりとリズム』というゲームで、クラウドファンディングを活用して全国の大学に寄贈したものです。
その他には、ワークショップやイベントの企画もいくつか行っていて、特に印象深かったのが、視覚障害のある方と一緒に行ったミュージカルのワークショップですね。一緒に歌ったり踊ったりして、本当に楽しかったです。
翼祈:私はミュージカルとか好きなのですが、どういうジャンルのミュージカルをされたのでしょうか?また、今後ビーラインドプロジェクト様が開発してみたいジャンルや分野などがございましたら、教えていただきたいです。
そのワークショップは半日で行うものだったので、1つの劇を完成させるというよりは、「一緒に歌って踊る」ことをメインの目的にしていました。
構成としては大きく2つに分かれていて、前半は音楽を作るワーク。テーマを決めて、既存のアプリを使いながら各チームで音楽を制作しました。後半は、その音楽に合わせて踊るパートです。
ダンスは難しい振り付けではなく、誰でも踊れるような簡単なものを事前に用意しておいて、それを前半で作った音楽に当てはめるという流れでした。
「このチームの○○さんが○○した時の感情を音にした」みたいな、自分たちのエピソードに基づいた音楽と振り付けができるので、どのチームも個性的で面白かったですね。
今後取り組んでみたいのは「スポーツ」です。特に、外で気軽にできる遊びを開発したいと思っています。
ブラインドスポーツって、どうしても準備が大がかりなんですよ。たとえばブラインドサッカーだと、周囲に壁を立てたり、専用のゴールや音の出るボール、アイマスクの用意が必要だったりして。
そうじゃなくて、公園でもすぐにできる、もっとカジュアルでインクルーシブな外遊びがあったらいいなと、ずっと思ってるんです。
ゆた:これから、見える人も見えない人も、見えにくい人も楽しさを共有できる瞬間を増やしていくためにはどのような社会を目指して行きたいですか?
また、我々、そしてこの記事を読まれる読者の皆様に何かできることはありますか?
僕たちは、「物・人・場」が増えていくことが大事だと考えています。
「物」は一緒に楽しめる“もの”が増えること。
「人」は、それを楽しんで広げてくれる人が増えること。
「場」は、それを実際に体験できる空間や機会が増えること。
この3つは相関していて、どれか1つが増えると、他の2つも増えやすくなる。2つ増えると、加速度的に広がっていく。だからこの「物・人・場」が同時に増えていく社会が理想だなと思っています。
今のカフェに関して言えば、「場」であり「物」を提供する場所でもあるし、そこに関わってくれる「人」を増やすことで、より広がっていくと思っています。なので、もし共感してくださる方がいたら、ぜひ広めてほしいです。
視覚障害のある方って、実は周囲にいてもなかなか繋がれなかったりするんですよね。だから近くに当事者の方がいればなおさら、今回の取り組みやカフェの存在を伝えていただけたら、それがきっかけで新しい希望が生まれるかもしれない。
一緒に体験していただく、伝道師になっていただくというのは、本当にありがたいことだと思っています。世の中にもっといいものが増えていくためには、そういったひとりひとりの力がとても重要だと思います。
ゆた:私は友人とボードゲームを良くプレイしているのですが、グラマのプレイ動画を見たところ、基本ルールやそれの応用でもカードを使った発展があったり、本当に面白そうなゲームだなと思いました。グラマの開発について何か話せることがあればお聞かせください。
ありがとうございます。
グラマは3年前の2月に作り始めて、4月にはプロトタイプが完成し、クラウドファンディングを行いました。そこから何度も改善を重ねてきて、最近もパッケージや一部の部品をアップデートするなど、今も日々進化を続けています。
開発の背景としては、やっぱり視覚障害のある人とない人が一緒に楽しめる場ってすごく大切だなと感じたことがあります。
先ほどもお話ししたように、視覚障害のある子どもたちが盲学校の中だけで遊ぶんじゃなくて、外のいろんな人とつながることで、自分の世界が広がる。そんな機会がもっと必要だと思ったんです。
実際に当事者の方から、「給食を食べ終わった後、みんなが外でドッジボールや鬼ごっこをしてるのを見て、自分はできないから教室でひとり、浮き出る絵の本を触って遊んでいた」といった話も聞きました。
「バレーボールやろう」って誘われても参加できず、教室に残るしかなかったという声もあって。そういう実体験に触れたことが、グラマを作るきっかけになりました。
開発のなかで一番のポイントは、「どうやって一緒に楽しむ“瞬間”を増やせるか」ということでした。
たとえばサッカーなら、ゴールが決まると見てすぐにわかって、みんなで喜べる。でも音だけの世界だと、その歓声がゴールを喜んでるのか、外したリアクションなのか判断しにくいんですよね。
みんなが盛り上がった後に「今の、入ったよ」とか「外れたよ」と教えてもらって、「ああそうなんだ」って、ちょっと遅れて喜ぶ。
そこに“嬉しさのズレ”があるなと感じていて、「じゃあ、どうすれば“同時に”楽しめるのか?」を考えたんです。
それで思いついたのが“音”。成功や失敗に連動して音が鳴る仕組みがあれば、一緒にリアクションできると思って。
「音を出すためには、何が必要だろう?」と考えて、「物が落ちる音」が使えそうだと気づきました。
じゃあ“物が落ちる”って何だろう? それって“重さ”じゃない? …そんなふうにアイデアがどんどん広がっていって、最終的にグラマが生まれたんです。
当時は主に3つのことをやってました。
1つ目は、とにかくいろんなボードゲームカフェに足を運んで、既存のゲームを体験&分析すること。
2つ目は、視覚障害のある当事者の方々に会って、実際に「何をして遊んでいるか」「どういうゲームが楽しみにくいか、逆に楽しみやすいか」を聞くこと。
3つ目は、それらの声をもとに試作品を作って試すこと。
プロトタイプは6種類以上作りました。失敗も多かったけど、その試行錯誤を重ねて、今の形にたどり着きました。
↓グラマの遊び方はこちら!
『未来』
翼祈:視覚障害があると就職の幅が狭まってしまうと、書いてありましたが、今回の取り組みを通して私も接客業がしてみたいという視覚障害者の方も増えてくると思います。
3年後には10人を雇用したいという目標があると伺っていますが、今後このカフェで仕事をしてみたいと思っている未来の店員さんにメッセージをお願いいたします。
未来の店員さんへのメッセージとしては、「一緒に、いい仕事を作っていきましょう!」ですかね。
今はまだ事例が少ないし、そもそも仕組み自体に課題があると思っています。
たとえばスペインでは、四つ星ホテルで視覚障害者が働いていたり、視覚障害者協会が宝くじを運営していて、ジャンボ宝くじみたいな規模の収益が、教育などの支援に繋がっていたりします。
その宝くじを、視覚障害者が街中で販売していたりするんです。
そういった仕組みや制度があれば、今は「できない」と思われていることも、できるようになる可能性がたくさんあると思うんです。
カフェの立ち上げも、正直とても大変でした。運営経験のある方からは「リスクが大きすぎて難しい」「危ないから任せられない」と言われたりもして…。
当事者の方の中にも「一緒に楽しめる体験は無理」「ただ座って話すだけでも価値になるんじゃないか」なんて声があったくらいです。
でも、だからこそ踏み込んで仲間とチャレンジしてみたかった。実際にやってみると、色んな発見があって、新たな可能性も見えてきました。
視覚障害のある方がカフェで働くということも、決して夢物語じゃないと今は実感しています。
少し偉そうに聞こえるかもしれませんが、一緒に新しい“いい仕事”を作っていきましょう。
インタビューは以上になります。
たくさんの質問に答えて頂き、ありがとうございました!
ライターの感想
翼祈:以前視覚障害者の方の記事や、点字ブロックの記事も書いたのですが、目が見えないことで、こういうトラブルがあるとか、そういう先入観を抱いてしまうことの方が大きかったのですが、今回のインタビューを通して、視覚障害者の方も色んなことに諦めていなくて、色んなことに挑戦したいと思っていて、見え方によっても、考え方によっても、することとかできることも全然違っていることを知り、あまりに自分の考え方が狭過ぎたなって思いました。
今回のインタビューをきっかけに、私も障害者ですけど、障害があるから諦めてしまうっていうのは、もったいないと思いましたし、障害があるからこういうことができるっていう力も感じてとても共鳴する部分も多くて、本当に素晴らしいインタビューに参加できて、とても嬉しかったなと思いました。
ゆた:私が学生の時に、ちょっと弱視の子がいて、内容とかを決められなくて一緒に外で遊べなかったんですよね。そういう時にボードゲームであったりグラマだったり、外遊びに何か提案があれば、遊べる機会もあったんじゃないかなと思って、浅見さんの話を聞いてると明るい気持ちになるというか、こういう今後の学生とか付き合い方でそういう案がいっぱいあればいいな、そういう未来が来たらいいなって本当に思いました。
どんはれ:今日はありがとうございました。目の不自由な方の今まできた歴史とか文化とかそういうのも、知らなかったこととかたくさんあったと思うので、そういうのを土台にして、またそれを未来に繋げるような可能性が、たくさんあるんだなと感じました。
目が見える見えない関係なく遊べるゲームとか、そういうお互いにコミュニケーション取れるようなものが、もっとたくさんできればいいなと思いました。
関連情報
一般社団法人ビーラインドプロジェクト
Moonloop Cafe
→HOME
コメントを残す