研究者の苦悩と挫折。2022年日本は注目論文が過去最低。来年大量の雇い止めも実施される見込み 

研究者 注目論文

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こんにちは、翼祈(たすき)です。

日本から優秀な研究者がいなくなるのではー、そんな言葉が飛び交う昨今。

日本は2022年発表の世界注目論文で、過去最低を更新しました。

また、2023年3月末に、大学や研究機関に期限付きで勤務する若手研究者など非正規職員が雇い止めに見舞われる恐れが起こると言われています。期限付きの雇用期間が通算10年に達した研究者が、法律の規定で無期雇用への転換を申請する前に、契約終了となるケースが相次ぐと想定されるからです。

国立大については約3000人の非正規職員が10年に達すると言われ、労働組合などが懸念しています。

今回は喫緊の課題の1つである、研究者の苦悩と挫折に絞った内容をお届けしたいと思います。

2022年発表世界の注目論文、日本過去最低にランクイン

文部科学省で構成された科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では2022年8月9日、日本などの世界主要国の科学技術に関連した研究活動を分析する「科学技術指標2022」を発表しましたが、そこで研究活動の国際的な地位が著しく低下していることが再度示されました。

総本論数は5位

メーンの指標にまず注目すると、日本の総論文数は6万7688本(1年平均)で世界5位

前回(2008~2010年)から1つ順位を落としました

総論文数は約3000本増えていますが、他国の論文数は倍増し、日本を占める引用は著しく低下傾向。10年前の8.9%と比較しても、3.9%でした。

Top10%補正論文数は12位

論文というものは、他の研究者から引用される割合が高いほど、その論文の内容が注目を浴び質が高いと評価されます。

注目度の高い論文であることを表す「Top10%補正論文数」ついても、首位の中国は4万6352本(1年平均)で、2位のアメリカは3万6680本(1年平均)。両国で世界全体の約48%を独占しました。

しかし、日本は3780本(1年平均)で、前回の分析より順位を2つ落とし、スペイン(3854本)と韓国(3798本)にも追い越され12位でした。引用率は2.2%となりました。

Top1%補正論文数は過去最低の10位

さらに注目度が高い「 Top1%補正論文数」については、日本が引用率1.9%の10位だった一方で、中国は引用率27.2%でアメリカを追い越し、初めてトップとなりました。

日本は前回から順位を1つ落として10位となりました。インドにも抜かれて過去最低です。

中国は自国の研究者の引用が多いと見られていますが、同NISTEPは「今後注視すべきだ」と話しています。

日本の研究活動の国際的な地位低下に関しても、同NISTEPは「欧米に比較して、日本は国際共著が余りなく、どの指標も他国の引用率が向上し、相対的に日本の引用率が落ちた。対策として挙げるなら、博士課程の入学者へのサポートなどを継続して、人材育成に励む必要があります」といいます。

研究開発費は3位、研究者数4位も減少傾向

そして、研究開発費に関しては、日本は17.6兆円で、アメリカ、中国に続いて3位でした。労働力人口1万人当たりの研究者数を分析すると、日本は2000年代前半では主要国の中では最多でしたが、最新の労働人口1万人当たりの研究者数については、韓国160.4人、フランス109.4人、ドイツ103.8人に続き4位(98.8人)でした。

研究者の人材においては、博士課程の入学者は2003年度をピークに長きに渡り減少傾向で、博士号を取得している研究者も、日本は1.5万人。アメリカの9.2万人、中国の6.6万人に差を広げられていて、他国と比較しても取得の伸びが小幅で、博士号の取得者は2006年度をピークに減少傾向です。

研究者が増加傾向の他国と比較しても「じり貧」の傾向が強い日本。科学技術立国の実現を果たす為の課題も挙がり、人材の確保が喫緊の課題であることが表面化されました。

参考:科学の注目論文 日本の国際的地位さらに低下 過去最低 産経新聞(2022年)

2023年3月末、研究者大量の雇い止め実施か?

国立大学や公的研究機関に勤める任期付き研究者の大量雇い止めが問題化している。法定の雇用期間の上限規定(10年)が、来年3月末に迫っているからだ。対象の研究者は約3000人。科学力低下や海外への頭脳流出も懸念されるのに、文部科学省の動きは鈍い。

文科省によると、来年3月末で契約期間が10年に達するのは国立大86校などで3099人。うち契約期間の上限が就業規則などで明示されている1672人は、雇い止めに遭う可能性がさらに高い。中でも東大は346人と最も多い。

しかも、有期雇用の研究者が期限を迎えるのは来年3月だけのことではない。以降も続々と発生する。

引用:国公立大や公的機関の研究者 来年3月に約3000人が大量雇い止め危機 岐路の「科学立国」 東京新聞(2022年)

改正労働契約法においては労働者の保護上の問題で、契約期間が限定された有期雇用で勤務する人が5年を超過して同じ職場で勤務すれば、安定した無期雇用への切り替えが申請可能な「無期転換ルール」すると定義されます。2013年4月以降に契約した非正規職員が対象となり、特例に基づき10年と非正規勤務となった研究者は、2023年4月から新ルールが初めて適用されます。

しかし非正規の事務職などは、もうすぐ無期転換となる直前に大量の雇い止めとなる問題が発生しました。大学や企業が人件費の負担増を出来なくなった為でした。

文部科学省の調査で2022年5月17日、2022年2月時点で、国立大86校などで勤務する3099人、所管する5つの研究機関で勤務する657人が10年を超えていると明らかとなりました。

不安定な雇用の続く研究者

政府が提唱する「科学技術立国の実現」は土台がガタガタしています。非正規の不安定な雇用で勤務する若手研究者が急増する反面、博士課程を取得する為の入学者は減っています。自身も非正規の不安定な雇用で勤務する物理学者の男性は、その危機感から「研究者と社会の対話することが必須だ」とNPO法人日本科学振興協会(JAASジャース)を立ち上げ、「若手研究者を支援して頂きたい」と訴えかけます。

同JAASジャース代表の男性は2009年、大阪大学の基礎工学研究科に進学し博士号を取得しました。光と物質の相互作用で起こる現象を研究に没頭し、不安定な雇用で日本やフランスなど世界6ヵ所の職場を転々としました。「勤務が出来なくなる2年前から就職活動を行いますし、研究に集中しにくい」。2021年に男性は京都大学の特定准教授に着任しましたが、勤務期限は最長5年となります。

同JAASジャースの活動を始めたのは2018年、男性自身の就職活動で不採用が立て続いた時でした。「若手研究者を支援します」を掲げる元政治家のブログを見てメールを送信したところ、「現場の研究者の声を募集しています」と返信されたのが転機でした。

元政治家に自民党の衆院議員の男性を紹介されて若手研究者の実情を伝えましたが、「個人で活動することは厳しい。団体を立ち上げよう」と思いつきました。立ち上げに際しアメリカの科学誌[サイエンス]を出版している米科学振興協会(AAASトリプルエーエス)を参考にしました。この同AAAトリプルエーエスの日本版として2022年2月に同JAASジャースを立ち上げました。

参考:揺らぐ「科学技術立国」 不安定雇用の若手研究者が増加 参院選でも振興策が論点に 東京新聞(2022年)

2023年9月、

文部科学省は2023年9月12日、日本各地の研究者などの雇用実態調査の結果を明らかにしました。有期雇用の期間が通算10年を超過して無期雇用に転換可能だという法的な特例の対象者の中で、定年退職以外で雇用契約が切れてしまった後、その後の状況が分からない人などが12%超に上りました。特例が認められ、定年退職まで雇用を継続可能な人がおよそ8割いた一方で、無期雇用の適用前に「雇い止め」になるケースが依然として根強いからとみられています。

2023年4月から改正労働契約法の施行で10年目に入ったことがきっかけで、研究者などの雇用実態の調査を行いました。 日本各地の国公私立大学や研究開発法人、大学共同利用機関法人のトータル847機関に2023年4月1日現在の研究者などの状況を聞き取り、801機関から回答を得ました。

文部科学省の調査によると、2023年3月末に10年の有期雇用期間を迎え、2023年4月1日時点までに契約更新をすると任期なしの無期雇用に変更することができた任期付き研究者1万2397人の中で80%程度に該当する9977人は契約が更新されました。

その反面、16%程度に該当する1995人は定年退職以外の理由で有期雇用の契約を終了し、この中で次の研究所などの雇用先が確定していると回答した人は458人に留まりました。

文部科学省は「8割が無期雇用へと契約が更新され、予々改正労働契約法はきちんと運用されていました」とし、2023年度中にも有識者会議を開催し、それ以上に望ましい改正労働契約法の在り方を検討していきます。

参考:任期付き研究者 2割弱が定年退職以外の理由で契約終了 NHK NEWS WEB(2023年)

この文部科学省の実態調査の結果を受けて、科学技術政策が専門の政策研究大学院大学の客員研究員の男性は、「有期雇用から契約終了となった人材への、大学や研究所以外にも国も一丸となって海外にも視野を拡大してキャリアアップを支援していく必要があります」と説明しています。

なぜこうなったのか?、そうなった背景

文部科学省の調査では、40歳未満の国立大教員で非正規での勤務者の研究者割合は2007年度の38.7%でしたが、2021年度は68.2%と約30ポイントも倍増しました。そのベースに、政府が研究費配分の「選択と集中」を提唱し、人件費に回される国立大の運営交付金を少なくしていることや、各大学の教員の定年を延期していることがあります。

各大学の研究運営交付金は2022年度予算において、国立大を法人化した18年前より13%も減りました。これの穴埋めで、民間企業などから提供された「競争的研究費」は期限が設けられ、研究者はプロジェクトを終える度に非正規で雇用される傾向になりがちです。

また各大学の教員の定年を延ばしたことで、非正規とはされないポストに空きが出づらくなって来ました。研究者になりたい大学院博士課程への入学者は2003年度の約1万8000人をピークに減少傾向が続き、2021年度で博士課程を修了した人は約1万5000人でした。

日本はノーベル賞を数年前まで毎年獲得していましたが、それは何十年も前の研究で獲れていたとずっと言われていましたよね。毎年ノーベル賞は大きなニュースとして取り上げられていますが、それも上記の理由で獲得しなくなったのではないか?と、やはり思ってしまいます。

本当に色んな意味で後退している昨今の日本。科学大国だと言われていた時代もありました。またそれに近付ける様に、政府には研究費の支給や雇い止め禁止など無くして欲しいなと願うだけです…。

関連記事

任期付き研究者の「雇い止め」調査、無期雇用の権利発生する10年目前の契約未定41% 読売新聞(2023年)

任期付き研究者、継続未定4割 「雇い止め」懸念 日本経済新聞(2023年)

noteでも書いています。よければ読んでください。

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2 件のコメント

  • 記事を読ませていただきました。確かに研究を続けたくても今の日本では厳しい状況が続いています。経済的なところで不安を感じるなら外国で研究を続けたい気持ちがあったからでしょう。いつもいい記事のネタをありがとうございます。楽しみにしています。

    • ハリネズミさん。
      お読み頂き、ありがとうございます。私も「何故最近ノーベル賞を日本人が獲得しても、海外在住なんだろう?」とずっと疑問でしたが、記事を書くにあたり調べてみて、腑に落ちました。それ位日本は研究費が出ないということなんだろうなと。

      いい記事のネタとはありがとうございます。今も色んな内容の記事を書いていますよ。これからも色んなジャンルの記事を書いていきたいと思っていますので、また読みに来て下さい。ありがとうございました。

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    左耳感音性難聴と特定不能の発達障害(ASD,ADHD,LD全ての要素あり)、糖尿病、甲状腺機能低下症、不眠症、脂漏性皮膚炎などを患っているライターです。映画やドラマなどのエンタメごと、そこそこに詳しいです。ただ、あくまで“障害”や“生きづらさ”がテーマなど、会社の趣旨に合いそうな作品の内容しか記事として書いていません。私のnoteを観て頂ければ分かると思いますが、ハンドメイドにも興味あり、時々作りに行きます。2022年10月24日から、AKARIの公式Twitterの更新担当をしています。2023年10月10日から、AKARIの公式Instagram(インスタ)も2交代制で担当。noteを今2023年10月は、集中的に頑張って書いています。昔から文章書く事好きです、宜しくお願い致します。