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はじめに
いじめ問題の解決にはどんな方法があるのか調査していましたら、森田志歩さんという方に行きつきました。
森田さんは自身の息子さんのいじめ、不登校の問題に学校や教育委員会と戦った経験から、同じようにいじめに苦しんでいる被害者、保護者の相談を受けるようになり、2021年に子どもたちの命と尊厳を守るNPO法人「Protect Children~えいえん乃えがお~」を立ち上げるに至りました。
「親や学校・教育委員会の立場ではなく、ただ子どものためを考える」ためには、どのような活動をしているのかご紹介してみようと思います。
子どもたちの最善の利益のために
保護者の感情
自分の子どもがいじめられているとわかったとき、皆さんはどんな感情になるでしょうか?
とにかく、子どもを救わねばならないと思い、学校に問い合わせ、事実確認と今後の対策を相談しに行こうと思うでしょう。
その際に、学校・教育委員会側が、いじめの存在をなかなか認めようとしなかったら、不信感を募らせ、苛立ちの感情を持つかもしれません。それゆえに、処罰感情をエスカレートさせて、学校側、加害児童に謝罪を求めたり、担任を辞めさせろと要求したり、感情的になってしまうかもしれません。
学校側の状況
「いじめ問題への初動が遅れるケースが多いが、原因はなんだと思いますか?」という質問について、
もっとも多かったのは「保護者との話し合いが難航し、関係がこじれてしまう」43%、次いで「日常の業務が多忙で時間が取れない」30%でした。
自由記述では、「保護者の訴えと学校報告、状況が異なるので、確認などに時間がかかる」「参考となる通知やガイドラインの種類や量が多すぎる」などの回答がありました。
捜査権限がない中で対応する難しさ
「『学校・教育委員会は、いじめや重大事態だと認めてくれない』という声があるが、理由はなんだと思いますか?」という質問については、「該当児童から話しを聞いたが主張が異なるため」が60%で最も多く、
自由記述では「学校・教育委員会に捜査の権限があるわけではないので、状況の把握には限界がある」教員による状況の確認の厳しさを訴える声が多くありました。
中立であること。
森田さんが介入するケースは、このように親と、学校・教育委員会がこじれたものがほどんどだそうです。双方に聞き取りをしても、お互いに異なることを言ってしまい、判断ができません。こうなると事態は膠着していき、いじめを受けた生徒が学校をに通えない期間が長く続きます。
本来の「子どもを守る」ことからは遠くかけ離れた状態が続いてしまうことになります。
どうしても感情的になってしまう保護者側は「どうしてくれるんだ」と言うのではなく、あくまで学校に「確認をお願いしたい」というスタンスで相談に徹する必要があります。
学校・教育委員会に対して抗議の姿勢で臨むと、個人情報を盾にされて話し合いの段階までいけないケースがありました。
そこで森田さんは、「私は中立の立場です」と学校や教育委員会にはっきり表明し、その上で話し合いを進めていくそうです。すると、学校・教育委員会から「解決のためには何をすればいいのですか」と聞いてくるケースが少なくないとのこと。
まずは中立の立場を表明することで、どちらが正しいか間違っているかではなく、「いま、この子のために具体的に何をするべきか」を話し合うのだそうです。
たとえば、被害児童・生徒の欠席が長期化したままであれば、学習に大きな遅れが生じてしまいます。森田さんが中立の第三者として学習支援の必要性を指摘することで、多くの場合、いじめの認知の問題はひとまず横に置き、学校・教育委員会は翌日からでも学習支援を開始してくれるようになります。
こうした具体的な対策を協議していくことによって、いじめ問題は確実に解決に向けた進展を始めるとのことです。
いじめには、これが正解という解決マニュアルも存在しません。ケースによりすべて異なります。だから簡単ではなく、第三者的に介入できる専門家の養成が急務だと森田さんは語っています。
弁護士も頼りにはできません。彼らの仕事は「依頼人の利益を守る」ことで、学校・教育委員会の対応の不備を鋭く指摘することになります。対立をさらに悪化させてしまいます。
それでは、子どもを主体とした解決策とはほど遠くなってしまうのです。
いじめ防止対策推進法を知っていますか?
いじめ防止対策推進法を知っていますか?
約3万人の小中高生の子どもたちにいじめについてのアンケートをProtect Childrenが取りました。匿名のアンケートになっているので、子どもたちの偽らない本音を知ることにができます。
2013年に設立したいじめ防止対策推進法ですが「知っている」と答えたのは、全体でわずか8.9%でした。子どもたちを守るために作られたはずの法律が、当事者である子どもたちにほとんど知られていないという事態が明らかになりました。
いじめ防止対策推進法は、「いじめとは何か」を明確に定義してます。
いじめの定義を知ることにだけでもいじめの抑止につながるでしょう。
また、いじめが発生した際に、親、学校、教育委員会は「どういった対策を取るか」ということも条文に明記されていますので、「もしいじめられたらどうなるのか」という不安の軽減もできます。
いじめ防止対策推進法知ることは、自分の身を守ることになります。しかし、法律を作るだけではなく、大人たちがこの法律のアナウンスを徹底していくことも今後の課題となるでしょう
フィルター機能がいじめ相談窓口へのアクセスを阻害している
有害サイトにアクセスするのを防ぐためのフィルター機能機能ですが、この機能があるために、いじめ相談窓口へのアクセスもできなくなってしまうケースが多いというのです。
相談窓口を増やすだけでなく、アクセスの方法まで考えて行政や学校は窓口を設置しなければなりません。
いじめに関する情報提供をはがきであえて募っている自治体もあるそうです。
こういったアナログな方法の方が、場合によっては子どもの命を救うこともあるのかもしれません。
子どもたちの意見表明権
子どもたちが安心して過ごせるように法律が作られたりしていますが、Protect Childrenが実施した小中高生約3万人のアンケートでは、「大人たちが考えて、作ってほしい」という回答は全体で12.4%しかありませんでした。反対に「子どもたちの意見も聞いて欲しい」と「大人と子どもが一緒に話しあってつくりたい」を合計すると、全体で84.6%にも達します。
自由回答にも、「なんでも大人たちが勝手に決め過ぎる」という意見や、「子どもたちのために作るなら、子どもたちの意見を聞いてほしい」という意見が多く、いじめに関する法律や制度が、いかに大人の「独り善がり」で作られたものであるかが浮き彫りになった形です。子どもたちが、いじめ防止対策推進防止法の存在すら知らないのも、こうしたところに原因があるのかもしれません。
終わりに
子どもたちの命を守るため、大人たちは法律を作ったりと活動をしています。しかし、その法律の存在さえ知らなかった子どもたちが大半でした。
保護者、学校、教育委員会など、子どもたちを守らなくてはならない立場の大人たちが対立してしまう構図がより子どもたちを追いつめていることが、今回の調査でわかりました。
中立な第三者の介入でその対立を食い止め、本当に子どもたちの利益なることを行うことは急務な課題です。一刻も早く、いじめ問題を解決するスペシャリストを育成する必要があることを感じました。
参考サイト
Protect Children~えいえん乃えがお~トップページ
PRESIDENT Online いじめ問題で困ったとき、真っ先に弁護士に相談してはいけない…「いじめ解決のプロ」がそう忠告するワケ
PRESIDENT Online いじめ防止法を知る子は1割…「国のいじめ対策」で子どもを救うことができない根本原因
東京新聞 小中高生、いじめ防止法「知ってる」1割未満 こども家庭庁「子どもの意見聞いて」 3万人アンケートで
東京新聞 いじめ相談SNS、フィルタリングで接続できないことも 小中高生が好む窓口なのに…
これまでの子どもの人権を考えるシリーズ
体罰を世界で初めて禁止したスウェーデンの取り組み〜子どもの人権を考える3〜
noteでも書いています。よかったら、読んでみてください。
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