女性差別?複数の医学部で不正入試が横行

不正入試

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1.医学部入試、複数の大学で不正か

 2018年、複数の大学医学部で不正入試があったことが明らかになりました。12月14日、文部科学省は医学部を対象にした入試状況の緊急調査の結果を公表、この調査の結果、全81の医学部のうち、9校が「不適切」と認定され、女子や浪人生の受験生を差別し、卒業生の子弟を優遇していたことが明らかとなりました。

 不正の内容は、男女で差をつけるだけでなく、現役生と浪人生・多浪生、年齢、卒業生の関係者や地元高校の出身かどうかなどによって差をつけたりと、大学によっても異なります。

 不適切と認定されたのは、岩手医科大学、東京医科大学、昭和大学、順天堂大学、日本大学、北里大学、金沢医科大学、神戸大学、福岡大学の9校です。さらに聖マリアンナ医科大学は差別を否定したため、「不適切の可能性が高い」とされました。

 不正入試を行った理由については、東京医科大学は「女性は産休・育休などで長期間勤務できないため」として女子入学者の得点を操作していました。昭和大学は、「将来性が見込めるから」という理由で現役生と一浪生へ加点を行っていたことを明らかにしています。

 また岩手医科大学や金沢医科大学では、地域医療への貢献を目的に、出願の際に約束させた「卒業後、付属病院や関連病院で卒業後6年以上勤務する」という条件を守る可能性を重視して卒業生を優遇したり、あるいは地元高校など特定地域の出身者を優遇していたといいます。

 そのなかでも、とくに女子受験生への不正が目立ちました。順天堂大学医学部の場合は、2017年~18年の1次と2次試験の合格ラインに達していた受験生165人(女子121人)を不合格にしていたと公表しました。不正入試を実施した順天堂大学医学部の2018年の合格者の男女比率は68%:32%、昭和大学医学部は70%:30%でした。

2.順天堂大学の場合

 とくに悪質だったのが、順天堂大学でした。順天堂大学は、学長が「18歳ぐらいだと女性のマチュリティ(精神的成熟度)が高いので入学試験で補正を行った」と会見で説明しました。「女性はコミュニケーション力が高いので将来の男性の伸びしろを意識して補正した」とし、性差による差別の存在を認めました。

 順天堂大学は、性差によるコミュニケーション力の違いを裏付ける医学的検証を記載した学術誌の記事を第三者委員会に提出しました。「入試時点では女子のほうがコミュニケーション力が高い」という見方の根拠とした論文です。

 アメリカ・テキサス大学のローレンス・コーン教授が1991年に執筆し、心理学の学術誌「Psycological Bulletin」に掲載されたもので、大学側はこれを「学問的根拠」だとしました。

 しかし、当のコーン教授は朝日新聞の取材に対して「医学部の入試で女子の合格点を上げることと、私の研究内容との関連は、私にはわからない」「私の27年前の論文は、心理的成熟の性差について調べたもので、『コミュニケーション』や言語能力の性差を調べたものではない」とメールで回答ししました。

 順天堂大学は2017年度の「東京都女性活躍推進大賞」優秀賞を受賞しています。2018年1月18日に行われた贈呈式では、小池百合子東京都知事と男女共同参画推進副室長が並んだ写真が順天堂大学のホームページに記載してあります。

 また、ホームページには「順天堂大学では、平成23年に学長の指示のもと男女共同参画推進室が設置され、学長の強いリーダーシップのもと文部科学省の支援を受けながら、女性の活躍推進のため様々な取り組みを行ってきました」と書かれてありました。

3.医学部不正入試の問題点

 日本国憲法14条で、「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定しています。

 また教育基本法4条は、「すべての国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって教育上差別されない」としています。医学部不正入試はこれらに違反する可能性が高いです。

 さらに、医学部は他の学部に比べ医師という特定の職業に結び付く職業訓練をかねた学部であることを考えると、女性割合の制限は憲法や教育基本法だけでなく、雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法にも反する可能性もあります。

 一方でこんな研究もあります。2017年12月に「女性内科医が担当した入院患者は、死亡率や再入院率が低い」というデータが、アメリカの医学雑誌に発表されています。この結果は統計的に有意であることが証明されているのです。

 2018年4月には「女性外科医は男性外科医に比べ手術関連死が少ない」という論文も発表され、「医療過誤のクレームが男性医師より少ない」という結果のデータも出されており、女性医師の方が医師として優秀であることが示されています。

 しかし世界的にみても、日本の女性医師の数は少ないのが現状です。経済協力開発機構(OECD諸国)の女性医師比率は平均46.5%。最も高いラトビアは4分の3近くが女性医師です。また欧州諸国は軒並み4割を超えており、女性医師が比較的少ないとされるアメリカでも34.6%。それに対して日本は20.3%で、韓国の22.3%よりも少ないです。

4.問題の背景にあるものを

 今回の問題の背景にあるのは「女性医師」だけの問題ではなく、「医師全体」の働き方の問題です。

 実は、日本の病院の数は先進国のなかでも圧倒的に多いです。2014年の日本の医療機関数は8422施設で、先進国では圧倒的に1位でした。フランス(2593施設)、ドイツ(1984施設)、イギリス(1595施設)はもとより、人口が日本の約2.6倍しかないアメリカでさえ5710施設しかありません。

 人口1000人あたりの病床数で見ても、先進国2位のフランスが6.3、ドイツが6.0、イギリスが2.9、アメリカでは2.8しかないのに、日本は12.3もあります。一方で、日本の医師は圧倒的に少ないのが現状です。

 人口1000人あたりの医師数はドイツ4.1人、フランス3.3人、イギリス2.8人に対し、日本は2.4人。世界的に見ても決して多くない医師たちが世界一多い病院に散らばり、世界一多い病床数(入院患者)を診ているのですから、勤務が過酷になるのです。

 一方で、第一線で活躍する医学部教授からは、これからの医学界では女性医師も戦力になるとの声がたくさん挙がっています。体力よりも繊細な技術が必要な腹腔鏡手術やロボット手術の普及で、「これからは外科でも女性医師の活躍できる余地が大いにある」と語る外科医もいます。

 求められるのは、抜本的な改革です。日本の年間の医療費はすでに40兆円を超えています。このような状況で、だた日本でやみくもに医師の数だけを増やしても、人件費や過剰な医療が増えて、国民皆保険制度が破綻に近づくだけです。

 それよりも、欧米各国のように、医療圏ごとに必要な病院の数や専門医数を割り出したり、日本でも欧米のように地域医療を担う家庭医を充実させ、一般の医師の過剰な勤務の負担を減らしたりすることが求められます。そのように、「持続可能な医療体制」を構築すれば、おのずと女性医師も増えていくと思うのです。

 参考

クロスメディア・パブリッシング(2019)「LIMO LIFE&MONEY」『医学部不正入試で順天堂大「女子はコミュ力高いから減点」会見の波紋』<https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190108-00009180-toushin-life>(2019年2月6日アクセス)

東京新聞TOKYO Web(2018)『医学部、10大学入試「不適切」文部省最終結果 聖マリ大は否定』<http://www.tokyonp.co.jp/article/education/edu_national/CK2018121402100043.html>(2019年2月6日アクセス)

鳥集徹(2019)Yahoo!ニュース「文春オンライン」『「私は家庭よりも仕事を選びました」問題は女性医師ではない。医療現場の人手不足なのだ』<https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190125-00009827-bunshun-soci>(2019年2月6日アクセス)

溝上慶文(2019)Yahoo!ニュース「BUSINESS INSIDER JAPAN」『就活で採用抑える  「女子フィルター」人事担当者が語る実態。医学部と同じ構図が企業にも』<https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190110-00010001-binsiderl-bus_all&pos=2>(2019年2月6日アクセス)

山口一男(2018)Yahoo!ニュース「BUSINESS INSIDER JAPAN」『東京医大女子減点問題は重大な憲法違 反・教育基本法違反であるー女性医師の離職率が高いという誤解』<https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180810-00010002-binsider-soci>(2019年2月6日アクセス)

和田秀樹(2018)「日経ビジネス」『東京医大の女性差別、背景に劣悪な医療現場』<https://business.nikkei.com/atcl/report/16/122600095/090500036/>(2019年2月6日アクセス)

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