【同性婚・同性パートナーシップ】日本における現状と法制度

同性婚・同性パートナーシップ

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1.日本における同性婚の可否

 明治民法でも、現行民法でも、婚姻が男女の結合であるという明文の規定はありません。しかしながら明治民法は、戸主中心の「家」を基軸とする封建的家父長制的な家族法を構想していたといいます。

 婚姻は、あくまでも、男系の縦に続く超世代家族集団としての「家」の存続発展に仕える制度として位置づけられ、「家」という枠組み内での男女の終生的共同生活を想定していました。戦前の学説の中でも、婚姻は一男一女の結合であり、同性間の婚姻の合意は、婚姻の本質に反して無効であると言及されていました。

 また、日本国憲法のもとでも、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」するとの規定もあり(憲法24条前段)、その当事者たりうるのは男女であって、その自由な合意が要求されていると、これまでは理解されてきました。

 したがって、婚姻は社会的に夫婦と考えられる一男一女の終生にわたる精神的・肉体的結合であって、同性婚は、社会通念上婚姻的共同生活とは認められず、婚姻意思に欠け無効とする立場が通説とされてきました。

 例えば、フィリピン人とフィリピン国の方式により婚姻した日本人男性が婚姻届けを日本で提出した後、フィリピン人が女性でなく男性であることが判明し、戸籍法第113条に基づいて戸籍訂正の許可を申し立てたということがありました。

 このケースでは、婚姻の実質的成立要件は、法の適用に関する通則法第24条第1項(旧法令13条1項)により各当事者の本国法によるところ、日本法でも男性同士ないし女性同士の同性婚は、男女間における婚姻的共同生活に入る意思、婚姻意思を欠く無効なものであり、戸籍に錯誤ないし法律上許されない記載がなされたものとして、戸籍法第113条による訂正ができると判示されました。

2.同性婚と日本国憲法

 だからといって、憲法24条が「両性」という言葉を用いていることをもって、同性婚を求める人の権利をことさら制限しようとする意見は、人権保障のために存在するという憲法の意義を理解していないという意見もあります。

 そもそも憲法は、個人を尊重し、あらゆる人の人権を尊重するために存在します。そうすると、憲法24条1項が「両性」という言葉を用いていることだけをもって、同性婚を積極的に禁止していると声高に主張することは、憲法が個人の人権を保障する存在であることに反します。

 憲法の文言を拡大解釈して、個人の人権保障をより拡大することは十分にあり得ますが、憲法の文言を制定当時の時代背景も無視して硬直的に解釈し、個人の人権保障をより狭めることは、憲法の意義に反する、という議論もあるのです。

 憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と規定しています。

 また憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的経済的又は社会的関係において、差別されない」とも規定しています。

 さらに、憲法24条2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては。法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と規定しています。

 ここでいう「個人の尊厳」とは憲法13条の趣旨にも共通しますし、「両性の本質的平等」とは憲法14条の趣旨とも共通することです。そうすると、同性愛者や両性愛者に婚姻の選択肢すら認めない現在の婚姻制度こそが、個人の尊厳および両性の本質的平等に立脚しない制度として、憲法24条2項に違反するという声も挙がっているのです。

3.日本における同性パートナーシップ制度 渋谷方式と世田谷方式

 東京都渋谷区や世田谷区では、2015年10月末に同性パートナーの証明書の発行を受け付け、11月5日にはそれぞれ第1号の証明書が手渡されました。

 渋谷区では、男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例を制定し、施行のための規則を制定して、同性パートナーの証明書の発行の条件や返還などについて詳しく定めました(渋谷方式)。

 これに対して、世田谷区は、区長の決済でできるという「要綱」という形で、同性パートナーの宣誓書を渡し写しを受領するという方式です(世田谷方式)。

 渋谷区では、同性パートナーを対象とした証明書発行要件として、公正証書の作成を求めました。特に、任意後見契約や共同生活の合意書を公正証書にしなければならず、費用と手間暇がかかります。

 その代わり、区が証明書をもつ当事者に家族向けの区営住宅への入居を認めたり、事業者が認めれば、病院での手術への同意書への署名も可能になるなど、限られた範囲では家族や夫婦と同じに扱われることもあります。

 渋谷区の場合には、性的少数者の人権尊重も規定されており、差別や人権侵害が著しい場合には、事業者名が公表されることもあるます。

 他方、世田谷方式は、当事者が署名した宣誓供述書の受領書に公印を押すだけのもので、簡便で、費用や手間暇もかかりません。その代わりに、世田谷方式では、区が家族としてお墨付きを与えたまでとは言い難く、どの程度の公証力もあるかは不明確です。

 2015年12月、1ヵ月で、渋谷区は2組、世田谷区は11組の発行がありました。手軽で費用もかからない世田谷方式に人気が集まったようです。2017年11月末時点では、渋谷区25組、世田谷区56組の発行でした。

4.日本はこれからどうしていくのか

 日本のいくつかの自治体では、同性同士のパートナーシップを公的に証明する取り組みが始まっています。ただ、世界を見渡してみると、先進国で国レベルでの「同性婚」が存在していないのは日本だけです。

 とくに諸外国が経験してきた同性婚までの2段階の道のりと比較すると、問題の複雑さが見えてきます。

 第一に、同性愛を違法とするソドミー法です。日本には、この法律がありませんでした。日本では、同性を好きになることは犯罪ではなかったために、他国が経験してきた権利獲得運動の最初のステップを踏み出せない段階にあるのです。

 第二に、差別禁止の文脈への位置づけについても、特徴があります。日本には、差別を扱う個別の法律は女性の雇用と障がい者の分野くらいしかなく、人権侵害を救済する独立した機関もありません。このため、差別禁止の文脈に性的指向を盛り込もうとしても、そもそも盛り込む場所がないのです。

 日本で国レベルの同性婚が実現していないことについて、世界はどう見ているのでしょうか。たとえば国連の自由権規約委員会は、2008年と2014年の2度にわたって、日本の人権状況を審査する過程で、同性カップルへの法的保障が何もない現状について、公営住宅法やDV防止法を例にあげながら、日本政府に改善を要求しました。

 2016年2月に開かれた女性差別撤廃委員会の日本審査のなかでも、同性カップルが法的な位置づけを与えられていないことについて、委員から懸念が表明されていたりします。また、国連人権理事会での日本の人権状況の審査では、いくつかの国から、性的指向に関する法整備の遅れを指摘されてもいます。

 日本国憲法の前文には、「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」と明記されています。「同性婚」を含めたLGBTに関する法整備を、日本においても早急に実現させることこそが、憲法の願いでもあるのではないのでしょうか。

  参考

棚村政行(1998)「男女の在り方・男と女」『ジュリスト1126号』p.20~28、有斐閣.

棚村政行(2018)「日本における同性婚及び同性パートナーシップ制度をめぐる動向」新・アジ ア 家族法三国会議編『同性婚や同性パートナーシップ制度の可能性と課題』p.123~131、日本加除出版株式会社.

南和行(2015)『同性婚―私たち夫夫です』祥伝社.

田直介(2016)「世界にひろがる同性婚 日本との違いはどこにあるのか」同性婚人権救済弁護団『同性婚 だれもが自由に結婚する権利』p.199~212、明石書店.

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