「笑点」を支えた男の背中を追い続けて【書評】師匠 歌丸

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1.この本を手に取ったきっかけ

 私は、人気演芸番組「笑点」の大喜利が大好きです。毎週日曜日夕方5時30分の放送はもちろん、動画でも過去の放送もよく見ています。

 そんな大喜利の回答メンバーの一人でもあり、司会者としても活躍していた桂歌丸さんが、今年7月2日、亡くなりました。81歳でした。

 歌丸さんは、1966年の「笑点」放送開始から大喜利メンバーとして活躍、2006年から2016年までは司会者としても人気を博しました。

 本書は、この歌丸さんの弟子として、その背中を32年にわたって追い続けた桂歌助さんによる一冊です。

 歌丸さんについての本がある、という情報を耳にし、この本に出会いました。

2.こんな人にオススメ

 歌丸さんのファンだった人はもちろん、「笑点」が好きな方、落語が好きな方にお勧めです。本書は、つい歌助さんに同情してしまうエピソードや、ホロリとさせられるエピソード、師弟愛や落語界の知られざる舞台裏まで語られています。

3.歌丸さんとの出会い

 本書は、1985年、歌助さんが歌丸さんの家を訪れるところから始まります。しかし、「弟子入りさせてください」と家に来たものの、家の呼び鈴を鳴らすことができず、あきらめて帰ることが二度続いたといいます。三度目にやっとおかみさんと話すことができ、数日後の寄席で歌丸さんと会うことが決まります。

 しかし、当日、「弟子になりたい」と伝えたものの、あっさりとOKをもらえるわけでもありませんでした。それでも、数日後に家に来るように言ってくれたといいます。ですが、実際に家に行くと、歌丸さんは「そこに座りなさい」と言ったきり、「笑点」の録画をじっと見ており、話をするでもなく、感想を求められることもありませんでした。

 歌丸さんは、入門を許可するとも、しないとも言いません。また数日後に来なさいと言われて帰る、ということが2カ月間続いてやっと、入門が認められたといいます。

4.歌丸さんの思い

 落語界では普通、師匠が弟子の食事や住まいの面倒を見てやることはありません。しかし、歌丸さんは違いました。歌助さんは入門後、歌丸さんの家の近所に引っ越しましたが、歌丸さんが家賃をすべて支払ってくれたといいます。それだけではなく、おかみさんが作ってくれた食事も食べさせてくれ、仕立て屋に採寸させて着物もつくってくれました。

 なぜ、歌丸さんはそこまでしてくれたのでしょうか。それは、落語という芸を後世に残したい、弟子に芸をしっかり磨いてもらいたいという思いがあったからだと、歌助さんは感じています。

5.初舞台

 歌助さんが最初に教わった噺は、「新聞記事」というものでした。歌丸さんと差し向いで座布団に座り、まずは一席通してしゃべってもらったといいます。

 「新聞記事」は、身振り手振りなどのしぐさをともなうものです。落語では、小道具として扇子と手ぬぐいだけを使ってよいことになっています。扇子を刀や木刀に見立てて演じていきます。

 しかし、何度稽古をしても、肝心の「新聞記事」が仕上がりません。しかたなく、それを止め、演目を「道灌」というものに変更します。そして1986年3月31日、横浜三吉演芸場で、初めて高座で「道灌」を披露します。

 横浜三吉演芸場は、歌丸さんとも関わり合いが深い演芸場で、いわば「歌丸さんのホーム中のホーム」と言ってもよい場所です。そこのお客さんは、みんな歌丸さんびいきです。だからこそ、お客さんは、その弟子を温かく迎え入れてたといいます。

 身内のようなお客さんの前で初高座に上げてくれたのは、師匠の愛情あってからこそかもしれません。

6.突然の出来事

 当初、数学教師を目指していた歌助さんは、両親から、落語家になる条件に、「大学の卒業」と「教員免許をとること」の二つの条件を出されていました。この条件を歌助さんは歌丸さんに説明し、承諾を得ていました。

 しかし教育実習の前月になって、歌丸さんかから、「教育実習に行くな」と言われてしまうのです。頭が真っ青になった歌助さんですが、弟子に発言の自由はありません。実習を受け入れてくれる予定だった母校と親とに連絡し、なんとか教育実習を取りやめることを認めてもらったのでした。

 歌丸さんはどうして、教育実習をやめさせたのでしょうか。歌助さんは、「前座修業が始まったばかりのころに教育実習に行ったら、落語家にしろ、教師にしろ、どっちつかずになってしまい、余計につらくなるのではないか」と歌丸さんが考えて、やめさせたと見ています。

7.関連する書籍

 『歌丸 極上人生は、歌丸さん自らが半生を語った自伝的エッセイです。若かりし日の破門事件の真相や、笑点メンバーのエピソード、故立川談志さん、故先代三遊亭円楽さんとの交流秘話も語られています。

  参考

桂歌助(2018)『師匠 歌丸 背中を追い続けた三十二年』イースト・プレス.

桂歌丸著・山本進編集協力(2015)『歌丸 極上人生』祥伝社.

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