iPhone成功の裏側で何が起こっている?【書評】アップル帝国の正体

この記事は約 8 分で読むことができます。

1.この本を手に取ったきっかけ

 私が持っているスマートフォンはiPhoneですが、iPhoneにとても満足しています。もう、iPhoneなしでは生きていけません。インターネットで調べものをする、音楽を聴く、動画を見る、ネットショッピングをするといったことも、もちろんiPhoneでやっています。

 しかし、例えば、iPhoneを分解してみると、重要部品の多くを日本企業が供給していることがわかります。ですが、アップルという世界的な企業に、部品を納められるのは名誉だと喜んではいられません。

 日本の部品産業はアップルへの依存度を徐々に強め、かつて液晶で栄華を誇ったシャープですら、アップルからiPhoneやiPad向けの液晶パネルの受注がなくなれば、即座に経営が立ち行かなくなるほどの「依存症」となりました。

 世界に誇ってきた日本製の最先端部品、金属加工、自動工作機械などはアップルを頂点とする強固な「帝国」の支配にすっぽりと入り込んでしまったのです。

 このアップルの「知られざる帝国の姿」にスポットが当てられたということで、この本に出会いました。

2.こんな人にオススメ

 ビジネスパーソンはもちろん、普段からはiPhoneなどアップル製品を使っている方、日本のものづくり産業に関わっている方にオススメしたいです。

3.シャープの落日

 「もう工場でつくるものが、何もなくなってしまった」。2013年2月26日、三重県亀山市にあるシャープの亀山第1工場では、シャープのベテラン技術者たちが途方に暮れていました。

 この工場では前年夏からアップルの最新型スマートフォン「iPhone 5」のタッチパネル式液晶パネルを生産するアップル専用工場としてフル稼働していました。それも、この工場の液晶パネルはアップル1社にだけ独占的に供給するという異例の契約があったといいます。

 アップルは独占供給契約を結ぶにあたって、秘密裏に約1000億円をこの工場の出資していました。製造装置にはアップルの管理用バーコードのシールが貼られ、工場内にはシャープ社員がその前の通路を通ることすら禁じられているアップル社員専用のオフィススペースまであるといいます。まるでこの工場の主はアップルだと言わんばかりの光景だったといいます。

 それでも、注文があるうちは良かったといいます。しかし2012年の12月、液晶パネルの発注を半分以下に減らすことが判明、そして、2013年2月26日、アップル専用と成り果てた亀山工場は、ついに稼働を止めることになったのです。

 後に残ったのは、シャープが負担する毎月100億円近い建屋、設備、人件費などのコストだけでした。

4.「アップル経済圏」の光と影

 この本が発売された2013年時点で、アップルのサプライヤー(製造者)の5分の1は日本のメーカーでした。たとえばiPhoneのメインカメラ部分に埋め込まれているイメージセンサーはすべてソニー製でした。その他にも、液晶ディスプレイはシャープやジャパンディスプレイ、半導体チップは東芝、イヤホンはフォスター電算が作っていました。

 電子部品では村田製作所、TDK、ローム、太陽誘電、そしてプリント基板はイビデンでした。このように日本メーカーの最先端技術が、iPhoneに凝縮されていたのです。

 「人類史上初めて、単一機種で販売台数が1億台を超えた電子機器」といわれる記録を作ったiPhone 4sは、それだけで売上高7兆円を超える「アップル経済圏」を形成したのです。しかし、アップル経済圏には知られざる“光”と“闇”があるといいます。

 光の部分は、もはやコスト競争でアジアの国々に太刀打ちできなくなっていた、超高性能な日本のものづくりにスポットライトを当てたことです。アップルはプレミアム製品に特化しているため、本当に素晴らしい技術なら、その“仕入れ”におカネを注ぐことを惜しみません。

 一方で、闇に当たる部分は、取引先企業の生産能力や出荷時期を、すべてアップルに都合の良い「計画経済」に合わせることを求める点です。アップルの要求に応じられない企業は脱落してゆき、時には経営破綻という最悪の結果を招くことすらあります。また日本の高い技術が、アップルを通じて、徐々にアジアの国々に移転する通り道も作っているといいます。

5.驚異のファブレスメーカー

 アップルを支える部品や技術を多くの日本企業が提供しながら、どうして日本の家電メーカーはiPhoneのような商品を生み出すことができないのでしょか。

 たとえば、日本が一番得意だとされてきたものづくりという視点に限ってみても、アップルは日本の家電メーカーが想像もしなかったような方法で、他社が真似できない製造工程を築き上げてきました。

 初代iPadの美しいアルミ製ボディーは、たった1個の直方体のアルミの塊を、無数のドリルを使って削りだして作られているのです。ただしこの方法は「型」を使って量産するプラスチック製ケースと異なり、1台1台に手の込んだ切削加工が必要となります。つまり大量生産がとても難しいのです。

 唯一の解決策は、途方もない巨額投資をすることで、1台500万円以上する高価なロボット工作機械を、何千台も同じ工場内に並べるという方策でした。しかしたった一つの商品のために、新たに途方もないカネを設備投資に注ぐやり方は、日本のものづくりの常識では考えられませんでした。

 ですが、ある企業がアップルの要求を呑みました。台湾の電子機器受託製造サービス(EMS)最大手、鴻海精密工業グループです。

 鴻海グループは、過去10年余りのアップル帝国の拡大と歩調をぴったりと合わせるかのように成長してきました。台湾に本社を構える鴻海グループは、アップルを筆頭に、ヒューレット・パッカード、ノキア、ソニー、任天堂といった世界中の電子機器の組立加工を一手に引き受けました。今や売上高は10兆円を超え、組立工場のある中国には100万人近い従業員を抱えるまでに成長しています。

 アップル自身は工場を持たず、ハードウェアに関してはデザインと規格設計、技術開発などに特化する「ファブレスメーカー」というスタイルを採用しています。しかし、ただ製造を丸投げしているのではありません。

 時には自社で資金を負担してまで、中国の巨大工場に最先端の製造装置を導入させ、その生産ラインから独占的に供給を受けることで、他社が簡単に真似できないものづくりのシステムを築いているのです。

 このような巨大な外部企業と高度に連携することで、アップルは常に世界最高の加工・製造技術を、極めて安いコストで利用できるようになっています。

6.アップルの真の力

 本書によれば、アップルの強さの本質は、製品の「美しいデザイン」や「魔法」といった言葉とはかけ離れた、ビジネスに賭ける凄まじい執念だというのです。

 アップルの取引先は、神経質なまでの秘密保持契約を結ばされる一方で、逆にアップルには“丸裸”にされてしまうといいます。

 アップルの支配は、取引先の工場の情報をすべて把握することから始まります。「通常、10~20人体制で、“Audit(監査)”にやってくる」のだといいます。このチームは一人一人が部材や工場の生産に精通しているスペシャリストであることが多く、生半可な嘘やごまかしは不可能であるといいます。

 そして取引先には、生産設備や生産能力、工場の人員に外部調達先や生産のリードタイム(工程ごとの所要時間)など、以前は世界のビジネスの最前線で戦っていたスペシャリストたちから、次々に鋭い質問が投げかけられていくというのです。

 これをもとに原価を計算し、定期的にコスト削減の目標を突きつけるといいます。さらに、複数の競合メーカーの手の内を把握しているために、「他社では問題がない」「他社はもっと安い」などとジワジワ圧力をかけていき、メーカー側が死に物狂いで生産ラインの良品率を上げないと利益が出ないように、調整をしているというのです。

7.関連する書籍

 『Think Simple アップルを生み出す熱狂哲学』は、「シンプル」というキーワードをもとに、アップルのマーケティングの考え方や、イノベーションをいかに生み出すのか、組織の生産性をどう高めるのか、アイデアを実現させる方法、意思決定の仕方などを学ぶことができる書籍です。

 参考

後藤直義・森川潤(2013)『アップル帝国の正体』文藝春秋.

ケン・シーガル著・林信行監修・高橋則明翻訳(2012)『Think Simple アップルを生み出す熱狂哲学』NHK出版.

新型iPhone発表! でも本音は「環境のために買い替えないでほしい・・・」 アップルが取り組む環境への配慮とは

2018.09.26

社会問題の興味深い記事10選 by ライターshin

2018.10.25

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です