アメリカは11の国から成り立っていた!? 分断されるアメリカ

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 全米50州とも呼ばれていますが、ここ数十年、とくに大統領選挙をめぐって民主党・共和党をそれぞれ支持する州や支持者が対立し、「分断」の様相を呈しています。

 しかし、アメリカのジャーナリストであるコリン・ウッダードは、そもそも単一のアメリカなど存在せず、アメリカは11の「ネイション」から成り立っていると主張しています。ネイションとは、主権を持たないものの、固有の歴史・民族・文化を共有する地域的な文化圏という意味です。そして彼のいう「アメリカ」とは、カナダ・メキシコを含む北アメリカ全体を指しています。

 さて、11のネイション(国)にはどんな特徴があるのでしょうか。

ヤンキーダム

 ヤンキーダムは、厳格な聖書主義と神の絶対的権威などを説いた急進的なカルヴァン派によってアメリカに「新しい神の国」として、北東部であるニューイングランドと呼ばれる地域に創設されました。

 そこでは、「個人の犠牲」が求められるにせよ、教育、政治などを通して、コミュニティの「大きな善」の追求を強く重視する文化が成り立っていました。

 彼らは、人々の生活を向上させる政府の潜在力に最大限の信頼を寄せ、政府を「市民の拡張」とみなし、また政府を強力な貴族や企業、権力からの防波堤とみる傾向がありました。

 ヤンキーダムは四世紀以上にわたって、社会哲学や市民の政治への参加、外国人の積極的な同化を促し、この世で完全な社会を打ち立てようとしました。

 安定した教育のある家族が定住してきたので、ヤンキーダムはいつも中流階級の雰囲気を持ち、知的好奇心に対し尊敬の念を抱いてきました。

 宗教的な情熱は時代とともに停滞してきたものの、しかし、世界を改善しようとする欲求と、道徳的な社会的価値はいまだなくなっていません。

ニューネザーランド

 ニューネザーランドは、現在のニューヨーク市を指し、もともとはオランダ領ニューアムステルダムとして建設され、北アメリカ大陸の発展に長く影響を与え続けました。ニューアムステルダム(ニューヨーク市)は、最初からグローバルな貿易都市で、多民族・多宗教で、商業的な社会が築かれていました。

 しかしながら、今日まで、どの民族も宗教もこれまで完全にニューネザーランドを支配することはできません。

 ニューネザーランドも多様性と寛容と自由への精神を尊重し、合衆国憲法制定会議において他のネイションにそうした精神を強要したことで、これらの理想は「権利章典」として現在まで引き継がれました。

 ニューネザーランドは、1600年代以降、西欧の商業、財政、出版の世界的拠点となっています。そして、グローバルな商業拠点として、長らく移民の玄関口として機能しています。

ミッドランド

 11のネイションの中でも最も「アメリカ的」なのが、このミッドランドです。イギリスのプロテスタント一派であるクエーカー教徒によって創設され、多くの国から移民を受け入れてきました。

 多元的で中流階級を中心に組織されたミッドランドは、アメリカ中西部の文化とハートランド(アメリカの中部。保守的で伝統的な価値観を重んじる風土をもつ)を生みましたが、そこでは民族的な純血や思想の純粋性は決して優先されませんでした。

 ドイツ系移民で構成され、またヨーロッパの専制君主政治から逃れてきたので、トップダウンの政府の介入には懐疑的です。

 ここは、長らく「標準的アメリカ英語」とみなされる言語の発祥地であり、奴隷制廃止から近年の大統領選挙まで、国民的議論のカギを握る場所ともされます。

タイドウォーター

 植民地時代と建国期の最も強力な存在であったネイションが、このタイドウォーターです。常に保守的で、権威と伝統を尊重することに高い価値が置かれ、平等性や政治的参加はあまり重視されませんでした。そこは、まさにイギリスの農村の雰囲気を再現しようとするものでした。

 タイドウォーターのエリートはアメリカの創設に中心的な役割を果たし、合衆国憲法の中に貴族的な要素を残します。

 しかし、その支配力は近年、弱体化しています。

大アパラチア

 大アパラチアは、北アイルランド、イングランド北部、スコットランドの、戦争で荒廃した辺境地帯から相次いでやってきた好戦的な入植者によっって18世紀の初めに創設されました。

 この時期、イギリス本土では絶え間ない戦争と動乱状況の中で、大アパラチア地帯でも戦士的倫理感と個人の自由と個人主権を重んじる風土が築かれました。さらに、この地域から現在にまで、多くの戦争従事者を輩出してきたのです。

 彼らは、アメリカにブルーグラス(アパラチア山脈周辺地域の白人民族音楽から生まれたウェスタン音楽の一種)やカントリーミュージック、カーレース、キリスト教原理主義をもたらしました。

深南部

 深南部は、非常に残忍で専制的なシステムである西インド諸島型の奴隷社会として、バルバドス島(カリブ海に浮かぶ西インド諸島東端の島。砂糖プランテーションで有名)の奴隷領主によって建設されました。

 白人優越主義で貴族的志向が強く、そこでは民主主義は少数者の特権でもありました。深南部はアメリカ南部に拡がっていきます。

 いまでも人種対立が激しい場所でもあります。

ニューフランス

 ニューフランスは、英語が公用語であるカナダ領土でありながら、フランス語を話す住民が多いケベック州と、イギリス人から追放されたフランス系住民が多いルイジアナ州の南部の飛び地地帯に位置しています。

 フランス系住民による植民が進んだために北フランスの農民の文化と、北アメリカの先住民の文化が融合しています。

 堅実かつ平等主義的で、北アメリカ大陸のなかでも最もリベラルな思想を持つ住民が多いのが特徴です。

 今後、独立国家となる可能性もあります。

エル・ノルテ

 エル・ノルテは、ヨーロッパ系のネイションの中で最も古く、その歴史は16世紀末に遡ります。

 アメリカとメキシコ国境地帯に位置し、スペイン語を話すヒスパニック系住民が多いです。

 「国境」として分断されながらも、歴史、経済、文化の同質性は極めて高く、今後、単一の国家としてまとまるとの予測さえあります。

レフトコースト

 など先進的な都市を内包し、もともとは商人、宣教師、森林生活者、農民、探鉱者、毛サンフランシスコ、シアトル、カナダのバンクーバー皮商人の人々が入植していきました。善い政治や社会改革、個人の自己探求や発見、豊かな想像力を重視しています。

 マイクロソフト、グーグル、アマゾン、アップル、ツイッターなどシリコンバレー企業が多く集積し、さらに同性愛者の権利運動、環境運動、平和運動が盛んな地域です。

 この地帯もアメリカと、カナダのブリティッシュコロンビア州を含み、独立する気配さえあるといいます。

極西部

 高地で乾燥したへき地の極西部は、他のネイションに持ち込まれた農業技術や生活様式をそのまま持ち込むことは不可能でした。この地帯への入植は、鉄道や大型の採掘設備、鉱石製錬所、ダム、灌漑施設などの莫大な産業設備がなければ達成できませんでした。

 住民が生活するためにも、大企業や連邦政府による資本や技術が不可欠でありながらも、物資、人、製品を搾取や略奪されてきた歴史があるからか、政府に対して反感を覚える傾向があります。

ファーストネーション

 その名前の通り、北アメリカ大陸への植民が始まる前からその地にあった、「最初の」ネイション、つまりネイティブアメリカンと呼ばれる先住民が多く住む地帯を指します。

 デンマークに属すグリーンランドはすでに高度な自治を獲得しているため、彼らもまた分離の様相を呈しています。

 これらが11のネイションです。これらネイションは国境や州の境界に関係なく拡がり、かなり固有の経済圏、文化圏を築いています。22世紀にいたっても、カナダ、アメリカ、メキシコは、それぞれ独自の国を維持し続けているのでしょうか。それとも、分離するのでしょうか。

  参考

コリン・ウッダード(2017)『11の国のアメリカ史 分断と相克の400年上・下』(肥後本芳男・金井光太郎・野口久美子・田宮晴彦訳)岩波書店.

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