『アナと雪の女王』にみる障害者の実像 隔離、引きこもり、受容

引きこもり

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1.はじめに

 2014年に公開され、日本でも大ヒットしたアニメ映画『アナと雪の女王』、通称「アナ雪」。作品のメッセージとして、本作の監督や脚本家は、「家族の強さ」、「姉妹の絆」や「恐れと愛」が大きなテーマであったと述べているようですが、大学で社会福祉を勉強した私は、この作品が、障害者をめぐる実情を描いているように思えています。

 では、この「アナ雪」に、障害者をめぐるどういったメッセージが隠されているのでしょうか。作品のあらすじを追いながら、たどっていきましょう。

2.序章~障害者の隔離政策

 物語のはじめ、触れたものを凍らせたりする能力を持つエルサは、8歳のころ、誤って妹のアナに氷の魔法を当ててしまい、意識不明の状態にしてしまいます。このエルサの魔法の能力は、「負」の側面を持ち、エルサは、ある意味、障害を持つ人として描かれているとみることもできます。

日増しにこの能力が強くなっていくエルサは、両親から力を周りに知られぬように、王国の城の中に隔離されるようにようになりました。

エルサが隔離されるのと同様、障害者にも隔離政策がとられていました。たとえば、日本では、1960年代、重度の障害がある子どもの親たちの訴えをきっかけに、国や自治体は「コロニー」と呼ばれる大規模な施設の建設を推進し、障害者施設をたくさん作るようになりました。また、ナチス・ドイツも、ユダヤ人や政治犯、同性愛者と同様に、障害者も、強制収容所に隔離させられるようになります。

3.エルサの引きこもり~引きこもりと障害

 物語のなかで成人にたっしたエルサは、女王として即位することになりましたが、あることをきっかけに魔法を暴走させてしまい、夏だった王国は一瞬にして永遠の冬を迎えてしまいます。このことをきっかけに、エルサは遠く旅に出て、自分で魔法の氷の城を作り、閉じこもってしまいます。

 このことは、日本でも問題となっている「引きこもり」の現象とよく似ています。

 ある調査で、引きこもりをする人々は、何かしらの障害を持っている事情が明らかとなってきました。その調査によると、引きこもり当事者の27%が「発達障害」を抱え、以下、「不安障害」が22%、「パーソナリティー障害」が18%、うつなどの「気分障害」が14%、「統合失調症」が8%、「適応障害」が6%と、引きこもりをしている人々が何かしらの精神障害を抱えていることがわかってきました。

 引きこもりというと、よく「怠け者」とか「甘え」、あるいは「親の甘やかし」などといわれてきました。しかし、本人のやる気や自らの努力だけでは、引きこもりを解決できない実態があるのです。

4.「レット・イット・ゴー」ありのままで~障害の受容

 「アナ雪」の映画のなかで、最も有名なのは、エルサが「ありのままで~」と唄うシーンでしょう。それは、障害の受容の段階をあらわしています。

 障害の受容とは、障害を持った人が様々な過程をたどって、障害を受け入れることを指します。例えば、交通事故により身体の一部を失ったり、なんらかの事情で社会生活を営む上で必要な能力を失った場合に、その人は一時的な混乱状態になってしまいます。しかし、それから様々な過程や段階を経て、その人は障害を含めて自分自身であることを認め、現在の自分自身の姿を受け入れることが、障害の受容です。

 障害を持ってしまった人の心理は複雑であり、いくつかの理論が提唱されていますが、ここではコーンの段階理論をご紹介しましょう。

 コーンの段階理論は、ショック→回復への期待→悲哀(悲嘆)→防御→適応の段階で表されています。

1.ショック

・・・発症、障害の受傷直後であり、現実に起きていることが「自分自身とは関係がない」というような衝撃を感じている段階。
 

2.回復への期待

・・・自分自身に起きていることを否認し、すぐに治るだろうと思い込もうとする段階。 

3.悲哀(悲嘆)

・・・徐々に現在の状態や状況を現実的に理解しはじめ、自分の価値が無くなり、すべてを失てしまったと感じる段階

4.防御

・・・障害を前向きに捉えることで、障害を克服しようと感じることができはじめる段階。または、前向きに捉えることができなかった場合でも、心の平穏を保つために防御の機能を多用することがある

5.適応

・・・障害を受け入れ、その障害は自分の個性のひとつであり、それによって自分の価値が無くなることはないと考え始める段階。また、少しずつ、他者との交流も積極的になっていく。

5.終わりに~ソーシャルインクルージョン

 映画の最後、エルサは自分自身の能力を受け入れ、アナとともに王国で楽しくこれからも一緒に暮らしていこうと約束します。これは、近年、よくいわれる「ソーシャルインクルージョン」の施策を意味していると考えます。

 ソーシャルインクルージョンとは、「社会的包摂」とも訳され、「すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から擁護し、健康で文化的な生活の実現につながるよう、社会の構成員として包み、互いに支えあう」という理念です。

 ソーシャルインクルージョンの理念はヨーロッパで生まれ、社会的排除(失業、所得の低さ、粗末な住宅、犯罪率の高さ、健康状態の悪さ、家庭環境の悪化など)に対する政策として生まれました。障害者らを社会から隔離したり、排除するのではなく、社会のなかで健常者と障害者らがともに助け合って生きていこうという考え方が、このソーシャルインクルージョンです。

6.まとめ

 今回は、『アナと雪の女王』と障害者をめぐる実情についてまとめてみました。他にも、近年のハリウッド映画には、その背景に様々なメッセージやテーマが隠されていることが多いのです。機会がありましたら、また、次回、お伝えしたいと思います。

社会問題

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2018年7月16日
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